さよならの向こう側 6
「こんな所にいたの? ルーカス」
「ライアン……」
「もう、すごく探したんだからぁ!」
やっとの思いで探し当てたルーカスの姿に、けれど傍らにいた人物をちらりと見やって、ライアンは少なからず戸惑った。
「あら、ルルが大変だって時に、お取り込み中だったかしらぁ?」
正直、母親の方はどこか見覚えがあるような気もするが……。
今現在のルルの容態や、彼女の健気な想いを知っているライアンとしても、さすがに冷静になって、今その親子について詮索する余裕はなかった。
だから、ついルーカスに対してけんのある物言いになってしまったのだ。
「ルルちゃんが、どうしたって?」
けれど、ルルの名前を聞いてサッと顔色を変えたルーカスの様子を見て、ライアンもひとまずルルの状況を説明する気にはなれたのだった。
「すこし前に、その先の街道で倒れてたあの子を見つけて、いま近くの宿屋に運んで休ませているわ。ねぇ、何があったの。あの子あなたに会いに行ったって聞いたけど、昨日ルルと会えてたの?」
ライアンの問い詰めに、ルーカスは少し間をおいて答えた。
「……ああ。昨夜、会った」
「そう……。でも、アタシが見つけた時、ひとりだったわ。あの子、一人で倒れてたのよ! ルーカス」
あともう少しで、どうしてひとりにしたのかとルーカスを責めそうになったが、今言い合いをしている場合ではないと思い直して、言葉を飲み込んだ。
「ルルちゃんの容態は?」
「目はまだ覚ましてないけれど、今は少し落ち着いてるわ。さっき、アランが来てくれたから、様子を見てもらってる」
「そうか……」
けれど、ルーカスはそう言ったきり黙ったままだった。
すぐにでもルルのもとへ駆けつけようとしないそんな様子のルーカスに対して、思わず憤りが募ってしまい、ライアンはつい急かすような言葉を口にしてしまった。
「ねぇ、ルルのもとへ行ってあげないの?」
そう聞かれて、ルーカスは思わずセレナの方へ振り返ってしまった。
ルーカスとて、ルルが倒れたと聞いてもちろん心配だし、ひとりにしてしまったことできっとルルに心細い思いをさせてしまっていたのだろう。
自分のためにたったひとりで、王都まで駆け付けてくれたルルを、気遣ってやれる余裕がまだ持てなかったのだ。
けれど、この奇跡のような再会に対して何の答えも見つけられないまま、セレナとアルフレッドをここに残して、彼女の元へと行くということに、どうしてもためらいを覚えてしまったのだ。
ルルの状態を知ってもなお、その親子に対してそんな反応を示したルーカスに、ライアンは少なからず驚きを隠せなかった。ひょっとすると、今のルーカスにとってこの親子は、ルルと同様……いやそれ以上の存在かもしれないのだろうか。
知ってしまったルルの想いを考えると、正直ライアンの胸も痛んだ。
「ルーカス。誰か大変なんでしょう? 行ってあげて。私達はまだしばらく王都にいるから」
「またな、兄ちゃん!」
ためらっているルーカスを見かねたのか、母親の方が手短に滞在先を教えるとそう言ってルーカスを送り出す。息子のほうもルーカスに向かって無邪気に手を振っていた。
そうして、ルーカスはやっとのことでルルのもとへと駆け出していったのだった。
正直、ライアンもルーカスと一緒にルルのもとへと戻りたかったが、さすがにこのまま親子の正体を探ることなく立ち去ることなど出来なかった。
一体、この親子はルーカスとどういう知り合いなのか、ライアンが何から聞こうか考えていると、意外にも最初に声を掛けてきたのは、母親の方からだった。
「もしかして、ライアン?」
「そ、そうだけど。どうして、アタシのこと知ってるのよ? あなた一体ルーカスのなんなの……よ?」
自分の名前が出て来たことに少なからず驚きつつも、ライアンは今一度母親の顔をまじまじと眺めながら、記憶を辿っていた。
「っ! やだぁ。……そんな、もしかしてセレナ? あなた、あのセレナなの?」
「そう、久しぶりね。ライアン」
ライアンとセレナの面識は数回程度と少なかったものの、結婚式で一際目立っていたのライアンのことをセレナは覚えていたのだった。
「っ! それじゃあ、もしかしてその子は……」
「私の子どもよ。アルフレッドって言って、4歳になるの……」
「そんな、そんなのって……。そんな……」
少年の名前に衝撃が走った。
さすがのライアンもすぐには信じられなかったが、しばらく目の前の少年を凝視し、懐かしい面影が宿っているのを見つけると、言葉を失ってしまったのだった。




