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さよならの向こう側 3



「それから、私の両親やアルフレッドの両親にも、お腹の子どものことを打ち明けたの」


 すると、自分の両親はもちろん、特に夫の両親は声を震わせながら祝福してくれて、これからは両家ともに手に手をとって、新たな生命を一緒に守り抜いていこうと約束してくれたのだった。


 それからは、セレナも驚くくらい事がどんどんと進んでいった。

 互いの両親曰く、馴染みがある土地の方が安心感はあるだろうが、同時に亡くした人との思い出も残っている。時にはどうしても、思い出に絡め取られてしまうこともあるだろう。

 これから生まれてくる子どものためにも、新しい土地で心機一転、いちから新たな生活を始めてみるのもいいのかもしれないということになった。


 そしてしばらくの間は、互いの両親の助けが見込めるものの、いつアルフレッドのようにこの世からいなくなってしまうか分からない。互いの家族全員が、今回の悲しい出来事でそれを嫌というほど思い知らされた。

 だから、セレナひとりでも育てていけるように、仕事も探さなければならない。


 そんな時、事情を知った両親の昔の友人が、それならうちの仕事をぜひ手伝って欲しいとのことで、よければこっちに来ないかと誘ってくれたのだ。

 もちろん、仕事を覚えるのは無事に子供を産んで、生活が落ち着いてからでいいと……。


 セレナがその申し出を受けると、自分の両親だけではなく、何と夫の両親までついてくることになり、引っ越しの準備などで色々大変だった。

 けれど、セレナが手伝おうとすると、大事な体だから無理をするなと、互いの両親から強く言われ、セレナにとっては、いたせりつくせりの状態であっという間に新天地へと向かう事になったのだった。


「正直、あの頃は自分とこの子のことで精一杯で……。だから」


 そこで、セレナが一旦言葉を切った。

 あの時は、他のことを考える余裕もなかった。

 正直、考えたくなかったのかもしれない。これから前を向いて歩いていかねばならないのだ、会ってしまえば……また悲しみに囚われた日々に戻りそうで怖かったのだ。


 だから、引っ越しの準備も人目につかないように、秘かに進めていて、王都を離れる日に僅かの人にだけ行き先を告げたものの、それ以外には口止めをお願いしていたのだった。


 今回王都に来ることになったものの、短期間のことで懐かしさはあったものの、あえて自分からは昔の知り合いに会いに行こうとは思っていなかった。


「アルが無事に生まれてきてからは、大変なこともたくさんあったけれど、一生懸命育てていたら、時間なんてあっという間に過ぎちゃった気がするわ」


「そうだったのか。あれから君達一家がいなくなって、それからまもなくアルフレッドの両親も……。誰も行き先を教えてくれなかったから、ずっと俺は……仕事で視察に行く度に、探してみたりしたけれど」


「そう……」


 警備隊の視察で各地へ行く度に、秘かに探してみてはいたが、自分に行き先を告げなかったことに、ルーカスも探し当てたとして、それからどうすればいいのかも分からず、必至だったのかと問われれば、そうではなかったかもしれない。

 

 それでも、今日この再会によって、四年間ずっと蓋をしてきた思いが一気に溢れだす。


 ずっと、謝りたかった。

 もし赦されるのなら、償いたい。


 そう思った瞬間、ルーカスの脳裏には、ルルの姿が浮かんだ。


 自分がこれからどう償っていくべきかまだ分からない。

 セレナやあの子がそれを受け取ってくれるかも……。


 けれど、もう逃げたくないと、心に決めたのだった。

 

 ルルが会いに来てくれたからこそ、もたらされた奇跡の再会。

 そうでなかったら、同じ王都にいても、荒んだ生活を送っていたままのルーカスだったら、すれ違うこともなかったかもしれない。


 昨夜ルルが暗い感情に飲み込まれていた心を、救い上げてくれなかったら、再会出来たとしても、セレナと親友の忘れ形見を前に、こんなふうに落ち着いて話せることもなかったのかもしれない。


 だからこそ、ルルが一歩を踏み出したように、ルーカスもまた今こそ自分の過去と向き合うべきなのだと、その覚悟がこの瞬間やっと生まれたのだった。


 そしてこれが、まっすぐに自分へ向かってきてくれたルルの思いに対して、今のルーカスに出来る精一杯の応えだと思ったのだった。




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