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ただ、会いたくて 7



「4年前、俺のかわりに……親友が亡くなったんだ」



 親友のアルフレッドとは、幼馴染だった。

 子どもの頃からいつも一緒に遊んでいたが、同時にケンカも絶えず、数えきれないくらいの絶交を繰り返してきた。けれどたとえ絶交中でも、一方がピンチの時はいつも必ずもう片方が助けに駆け付ける。二人はそんな固い友情で結ばれていた。


 いつだったか、女の子みたいな容姿でからかわれていた男の子を、正義感の強いアルフレッドが庇った時があった。からかっていた奴はアルフレッドよりも一回り大きな男の子達だったけれど、アルフレッドは一歩も引かず、そんな親友の姿にルーカスもまたどんなに勝算がないと分かっていても、いつも彼に加勢していた。


 もちろん、数には勝てず二人してケンカに負けることもしばしばだったが、そのおかげで新しい友達が増えた。容姿だけではなく体も華奢な感じの男の子だったが、負けん気が強いところが気に入ったので、アルフレッドとルーカスはその子とすぐに仲良くなった。

 それが幼き頃のアランとの出会いであった。


 それから腐れ縁とはよく言ったもので、三人は学生時代もよくつるみ、卒業してからも同じ警備隊で働くことになった。



 そして今から4年前。

 ルーカスは、親友のアルフレッドから結婚すると聞いて大いに喜んだ。


 しかし、同時に少し胸が傷んだのも事実だった。

 アルフレッドの結婚相手はルーカスもよく知っており、少し気が強いところもあるけれど、明るくて元気な働き者のセレナ。


 彼女もまた子どもの頃から顔見知りだったが、性別の違いもあって一緒に遊ぶ機会は少なかった。

 当時は、会えば必ず彼女のおしゃべりに付き合わされて、やんちゃざかりのアルフレッドとルーカスに、何かと口うるさく注意してくるセレナを鬱陶しく思ったりもしていた。そんな彼女とは年齢が上がるにつれて話す機会も少なくなり、学生時代は顔を合わせることはなかった。


 けれど、警備隊に入隊して間もない頃、たまたま入った食堂でセレナと再会してからは、一気に仲良くなった。その店で働く彼女は、よく気が利いて、いつも笑顔でくるくると動きまわり、酔っぱらいのあしらいもうまく、評判の看板娘になっていた。


 そんな彼女に淡い思いを抱くのに、時間はかからなかった。

 でも、それは自分だけではなく、親友のアルフレッドもまたセレナに特別な想いを寄せていたのだった。


 ルーカスはそれに薄々と気づきながらも、アルフレッドの目を盗んで、何かと理由をつけてはセレナに会いにいったりしていた。そして、セレナもまたどことなく自分を意識してくれているのを、ルーカスは感じ取っていた。


 そして、アルフレッドもまたルーカスの気持ちに気がついていたのだろう。

 けれど彼はルーカスと違いこそこそとしたことはせずに、セレナに交際を申し込む前に、まずルーカスにその想いを明かしてくれたあと、こう聞いてきた。


「ルーカス、お前はどうなんだ?」


 彼らしく正々堂々と真っ直ぐにぶつかって来てくれた親友に対して、けれどルーカスはアルフレッドとセレナ二人との今までの関係が壊れてしまいそうで、思わずはぐらかしてしまったのだ。


 たぶん心のどこかで、セレナは自分を想ってくれているという、自惚れみたいなものもあったのかもしれない。それから、アルフレッドがセレナに正式に交際を申し込んでも、彼女がそれを断るたびに、秘かに安堵してしまう自分がいた。


 けれど、いつまでもはっきりとした態度を示してくれないルーカスに対して、セレナの不安も募り、徐々に心が離れて行ったのかもしれない。

 彼女は親友の何十回目かの真摯な告白を受け入れたのだった。


 そして、間もなく二人は結婚式をあげた。

 もちろん、ルーカスも大いに二人を祝福した。


 複雑な心境ではあったが、いつかこんな日が来るという予感もあった。結局自分はアルフレッドほどの想いの強さがなかったのかもしれない。こんな優柔不断な自分より、アルフレッドならきっと幸せにしてくれるだろうと、ルーカスは自分の気持ちを胸の奥にしまった。


 けれどそうは言っても、やっぱりいざ結婚と聞くと少し切ない思いが過ぎったのだった。

 そして、ほんの少し残っていた淡い想いを完全に捨て去るために酒を煽り、それがもとで不注意な怪我をしてしまったが、軽い症状だったこともあり、皆には隠して翌日には普通に仕事をしていた。


 けれど、アルフレッドだけはそれを見抜いていた。


「たとえ軽い怪我だとしても、無意識にそれを庇っているうちに、大きな怪我に繋がることになる」


 彼はそう言って、新婚のためにとっていた休暇を切り上げて、ルーカスが向かうはずだった地方への視察を代わりに行くと言ってきたのだ。

 新婚早々の遠方への視察に、セレナも不安があったはずなのに、口では文句を言いつつも、ルーカスに気にさせないようにわざと惚気けてみたりしていた。


 申し訳なく思いながらも、無理をすれば余計に迷惑をかける事になるかもしれない。ルーカスは後ろめたさを感じながらも、そんな二人の優しさに甘える事にした。


「じゃあ、行ってくる。留守は頼んだぞ、セレナ」

「家の事は任せて。それよりも、無事に帰って来てね、アルフレッド」


 新婚早々の遠方への仕事に、やはり心配そうな表情を浮かべていたが、新妻のセレナはそれでも仕事に向かう夫を笑顔で見送る。


「ルーカス、しっかり怪我をなおしておけよ」


「ああ。この借りは今度色を付けて返すよ。……すまない、アルフレッド」


 セレナと一緒に見送りに来ていた、ルーカスが一言謝った。


「まだ、気にしてんのか? らいしくないぞ、ルーカス」


「セレナのためにも、くれぐれも気をつけて」


「分かってるよ」


 アルフレッドはそう言って笑うと、最後にセレナに向かい合った。


「そんなに、心配するな。なるべく手紙を書いて送るようにするよ」


「うん、待ってる……」


「大丈夫。必ず君の元へ帰ってくるから」


 アルフレッドがおもむろにセレナを抱き寄せると、その場にいたルーカスはほんの少しの間そっと視線を二人から外した


 横目でそれを確認すると、新妻に「約束だ」と囁いて、そっと口づけをした。




 けれど、アルフレッドが出発してから二週間後、セレナのもとに届いたのは夫の訃報だった。



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