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ただ、会いたくて 2



 ルーカスに会いたい。


 ルルのその想いは、もう抑えきれないほど募っていた。

 けれど、ルルがいくらそう思っても、ルーカスはルルの姿を見る事で、余計に辛く思ってしまうのではないかとも考えた。確かな理由はまだ分からないけれど、避けられているのは事実なのだから。

 だけど……。


 ――じゃあ、私はこのまま、ここで待っているだけでいいの?


 自分の言葉に、すぐに自分で反論した。


 そうだ。ルルは肝心な事を忘れていた。

 森に来てくれるのを待つだけの自分が嫌だと思ったから、今回の水脈の調査に参加したはずだった。


 あの雨上がりの奇跡のような光景を二人で見ながら、手を繋いだ時のことを思い出す。

 あの時、ルーカスの手の温もりを感じながら、一歩前へ踏み出したいと思ったのだ。

 ひとりぼっちで森からルーカスを見送るんじゃなくて、色んなところへルーカスと一緒に行ってみたい。これから先、彼の隣を歩きたいと……。


 そして、ルーカスもまたそう思ってくれていたのではないか……。

 ルルと同じ気持ちだったかは分からないが、あの時ルーカスも何らかの想いを抱いていてくれたからこそ、大きなリスクが伴うと知りながらも、自分のために今回の水脈調査の計画を立ててくれたのではないか。


 例え、それがルルの勘違いだったとしてもいい。

 ルーカスと共に外の世界を見てみたいという、ルルの気持ちは本物なのだから。


 ――せめて様子だけでも……。ううん、ちゃんと会って話がしたい!


 本当はアランや村の長に相談するべきなのは重々承知していたけれど、これまでの態度を思えば、今回の件を容易には協力してくれるとは思えなかった……。

 そして、何よりこれ以上ルーカスの事で、アランに何かを頼む事にためらいを覚えていた。


 けれど、また無茶をしてしまう事に、ルルはひどく悩んだ。

 きっと、またすごく心配させてしまう。

 これでは、余計にルーカスを傷つけてしまう事になるかもしれない。


 でも、このまま何もせず待っていて、もしも……もしもこれっきりルーカスに会えないままになってしまったら……。

 ルルにはそっちの方が怖くてたまらなかった。


 ひと目でいいから、会いたかった。

 それがわがままだと知りながらも、ルルの心はずっとそう叫んでいた。


 そんな時、母の言葉がふと蘇った。


 ――ルルはルルだけの人を見つけるのよ。そして、この人だと思ったら見つけたら迷わず、真っ直ぐにその人に向かっていくのよ! 母さまはそうやって父さまを手に入れたのだから、ルルもきっと出来るわ。


 母さま……!


 この行動は間違っているかもしれない。

 時間がかかっても、別の方法を探すべきだと自分でも分かっている。

 けれど、その間に彼が遠くへ離れて行ってしまうような気がしてたまらなかった。


 ルルには、これが母の言っていた『恋』かどうかなんてはっきりとは分からない。

 けれど、ルルにとってルーカスは、母にとっての父と同じような存在だったら良いなと思えたから。


 もし、ルーカスにとってルルが思っているのと同じ気持ちじゃなかったとしても、それでもいい! もう、迷わず彼に会ってなぜ避けているのか聞きたい。

 もしも、自分に至らない部分があるのなら、精一杯謝りたい。


 真っ直ぐにこの想いを伝えて……。

 そして、叶うのならば、これから先の事をルーカスと話したかった。


 ルルはそう決心すると、すぐに支度にかかった。

 アランには、便箋いっぱいに謝罪の言葉で埋め尽くした書き置きを残した。ルーカスに会う前に見つかっては、森に連れ戻されてしまうかもしれないから……。


 それを、テーブルの上に置いてルルは部屋を出ようとした。

 けれど、扉の前にヴィリーが立ち塞がっていた。


「ヴィリー……。ごめんね。でも、どうしても私ルーカス様に会いに行きたいの」


 ルルの言葉にもヴィリーは、じっと主を見つめたまま微動だにしなかった。

 森で一緒に暮らし始めてから、少女の一番の理解者であったが、一番身を案じてきた存在でもあった。だからこそ、ヴィリーもまた今回の件で少女を守りきれなかった事を、悔いていたのかもしれない。


 そして、眠り続けているルルをアランに森に連れ行くように諭したのは、他の誰でもないヴィリーだった。

 ある意味、アランや村の長の推測以上に、ルルの症状を察しているのかもしれない。

 だから、今度は行かないでと訴えるような眼差しで、引き止めるように甘えた仕草をしてみた。

 けれど……。


「私、ヴィリーが好き。大好き。でもそれと同じくらいルーカス様に会いたいって気持ちが、今ここに……ここにあるの!」


 ルルがそう言って、胸の真ん中に手を置いた。


 それは、触るのをずっと避けていた火傷の跡がある場所でもあった。


 手が震えながらも泣きそうになるのを堪え、ルーカスが側にいなくてもたった一人でルルは信頼を寄せるヴィリーにその覚悟を見せたのだった。

 これには、さすがのヴィリーも戸惑うように、扉の前をうろうろし始めた。


「だからヴィリー、お願いっ……!」


 そしてルルの決心がかたいとわかると、とうとう観念したように扉の前から身を引いたのだった。


「ヴィリー、アラン様が来たら、机に置いてある手紙を見せてね」


 そう言って、外に出ようとしたルルの服をヴィリーは咄嗟に咥えてしまった。

 もう引き止めるのは無理だと分かっていても、やっぱりどうしてもルルが心配だった。


 そんなヴィリーを、ルルはぎゅっと抱きしめた。


 けれどすぐに立ち上がると、無言のまま森の家を後にした。

 迷わないと決めたものの、心配をかけてしまう皆に心の中で何度も「ごめんなさい」と繰り返しながら……。


 それでも、ルルはルーカスのもとへと走ったのだった。



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