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もどかしい想い 4



「アラン殿……」


 ルルのために温かいスープを作っていた村の長だったが、ルルの寝室から出て来て、居間の長椅子で黙り込んでいたアランの様子に、声を掛けずにはいられなかった。


「やはり、俺ではまだ力が及ばないようです。ルーカスでないとルルは……」


「その、ルーカス殿はルルとは一体どこまでの仲に……」


 村の誰とも距離が出来てしまっていた間、アランとルーカスが時間を見つけてはルルのもとへと足を運び一緒に過ごしていたのだ。

 まだ穏やかに暮らせていた頃は、仕事に熱心で浮いた話もなかったルルだが、年頃の女の子には変わりなかった。


 それなのに、村から追い出され森のなかで暮らし始めたことに、村の長はこのまま独身で過ごしてしまうのではないかという心配もしていた。

 いつか、ルルと村の皆が和解できて、村の誰かと一緒になってくれるのが一番望ましいと思っていた。


 けれど、この森からルルを連れ出して幸せにしてくれるのなら、他の土地の者でもいい。その事でルルが村から本当に離れてしまったとしても、孤独な少女に心許せる存在が現れることを願ってやまなかったのである。


 だから、ルーカスに特別信頼を寄せている様子のルルに寂しさを感じつつも、心のどこかでは安堵していたのだ。


「まだ友人関係の域でしたが、二人が惹かれ合っていたのは薄々感づいていました。けれど、今回の件で好意を寄せていることを、お互いにはっきり認識出来たのだと思います。だからこそ、ルーカスは……」


 ルルの真っ直ぐな想いの強さに怖くなって、また自分の殻に閉じこもってしまったのだろう。

 ルーカスの不在に対して寂しそうな表情を見せたルルに、その事をまだ伝えることはためらわれた。


「そうでしたか……。まぁ、ひとまず今の儂らが出来るのは、ルルの回復につとめることですかのう」


 村の長もあえてそれ以上は深くは聞こうとせずにそう言うと、よいこらせと立ち上がり、スープを器に盛り寝室へ運んだのだった。


「ルル、儂が作ったスープじゃ。少しでもいいから口にして、元気を取り戻さんとな」


「ありがとう、おじいちゃん……でも」


 明らかにうかない表情をしているルルに、彼女の中でルーカスの存在の大きさを目の当たりにしたような村の長とアランだった。

 思わず静まりそうになった雰囲気を振り払うように、気を取り直したアランがおもむろにスープの器を持ちベッドの端へ腰掛けた。


「俺に、任せろ」


「え?」


「ほら、ルル口を開けて」


 そう言って、スプーンで掬ってそれをそのままルルの口元へ差し出した。


「あ、あの……アラン様!?」


「いつかのお返しだ。もしかして、熱いのか? なら、冷ましてやろう」


 一旦、差し出したスプーンを引っ込めると、アランはふうふうと冷まして、再度ルルに差し出した。


「ほら、ルル。早くしないと、雫が毛布に落ちてしまうぞ」


「は、はい!」


 そんなふうに言われると、ルルもあわてて思わずスプーンをくわえた。

 それからもアランは同じような手口で、何だかんだとルルに有無を言わさず、スープを飲ませることに成功したのだった。


「やれ、やれ……これではルルも落ち着いて食べれんじゃろう」


 先程の事もあってか、アランと村の長は暗くなっていたルルに対して、なるべく考え込ませないようにやや強引ながらも、いつも通り振る舞うよう努めた。


 そしてルルが全部スープを飲み干したのを見届けると、村の長は席を立った。


「名残りおしいが、儂はそろそろ帰るかのう。あまり村を留守にするわけにもいかんのでな。本当はここに泊まってやりたいんじゃが……」


「お任せください! 長殿」


 申し訳なさそうにルルに話し掛けると、横からやけにはりきった返事をするアラン。


「う、うむ……。ここはアラン殿に任せたいと思っておったが……うむ」


 目が覚めたとはいえ、ルルを一人にするのはあまりにも心配なので、先ほど二人で話し合った結果、今日はこのままアランがルルの家に泊まる事にしていたのだ。


(アラン殿。分かっておるじゃろうが……)


(何もしませんよ)


 さすがにこの状況ではアランとて、無茶をしないだろう。しかし、先程の食事風景を見ていると少なからずルルの苦労がしのばれた。

 ほんのわずかな不安を覚えた長は、すっかり信頼を置くようになったヴィリーにひそかにルルの無事を頼んでいた。


「ヴィリー、くれぐれも頼んだぞ」


 アランの見張りとはあえて言わなかったが、何もかも心得たようにヴィリーは尻尾を一振りした。


 一方ルルも、アランに申し訳ないと思いつつ、すっかり気分は良くなっていたが、やはり数日何も食べずに眠り続けていた影響で、体力が落ちているのが感じられた。

 それに、どこか寂しさを消化しきれてなかったのだろう。遠慮がちにしながらも、アランが泊まる事を了承したのだった。


「おじいちゃん、ここまで、来てくれてありがとう」


「正直、森に入った瞬間びっくりしたが、ルルがこの家が気に入ったのが今ならよく分るぞ。しかし、これほどの家を建てるとは……、きっと言い出したのはリリィじゃろう。そして、リリィの言い出したことにロイは内心困りながらも、実現に向けて努力したのが目に見えるようじゃ」


 村の長が少し表情を緩めてそう言うと、ルルは幼い頃両親と過ごした日々を思い出しながら、思わず同意するように口元を綻ばせた。


 そう、いつも何か思いついて口にするのは母で、父はその発言に度々苦笑いをしながらも結局、母の希望を叶えるために四苦八苦していた姿が、ルルの脳裏に蘇った。


 そして、別れを済ませるとアランはルルを寝かしつけ、その間にヴィリーと共に村の長を森の外まで送って行ったのだった。



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