もどかしい想い 3
ルルは、アランが置いて行った薬の容器をしばらく見つめながら、ぽつんと呟いた。
「お仕事なら、仕方ないよね……」
村の長から、自分が数日間眠り続けていたことを教えてもらった。
仕事を投げ出して、自分に付き添ってばかりもいられないのも充分理解できていたが、そう言い聞かせてみても、火傷の薬をルーカスから直に受け取れなかった事が、寂しくてたまらなかった。
けれどそんな想いに、ふと、いつのまに自分がここまで欲張りな事を考えてしまっていたのかと気付かされてしまった。
自分の中に芽生えた思いに、振り回されながらも、おもむろに薬の蓋を外すと人差し指と中指の二本で軟膏を掬ってみた。
胸の火傷の跡は、正直今もまだ見ることさえも出来ないし、それを意識する事も避けている自分がいる。けれど不思議と今回の火傷に対して、ルルは胸の傷跡ほどの大きな抵抗を感じていなかった。
ルルの中で、ルーカスを守れたという気持ちが、そうさせていたのかもしれない。
――大丈夫。
心の中で自分にそう語りかけると、ルルはいつか薬を塗ってくれた時の、ルーカスの声と指の感触を思い起こした。
そうすれば、背中の火傷は自分で塗れるような気がしたのだ。
けれど、それでもやはり手は少し震えてしまっていた。
――怖くない。
そう思ったけれど、ふいに涙がぽろりとこぼれた。
やっぱりまだ自分で塗ることが出来るほどの勇気が出ないのも事実だったが、しかし、それだけじゃないことを思い知らされてしまったのだ。
塗って欲しと思ったのだ。
――ルーカス様に……。
ルルは新しく貰った薬の容器を、そっと手に取り胸に包み込むように握り締めると、心の中でそう願ったのだった。
けれど、自分のために今も頑張っているであろうルーカスを思うと、自分だけ臆病なままではいけないと思い、そして、ふと思い付ついた。
ルルはおもむろに油紙を探しだすと、それに薬を塗り広げた面を上にしてベッドに置くと、左肩のヒリヒリするところに狙いを定めて、そのまま仰向けにゴロンと寝転がって、ぺたりと貼り付けたのだった。
これなら、直接患部に触れなくても、一人で薬を塗れるし、服も汚れずに済む。
根本的な解決ではないかもしれないが、少なくとも比較的抵抗感の大きくない肩の火傷に対しては、今のルルには出来る精一杯の事だった。