もどかしい想い 1
それから一時間くらい経った頃だった。
「う、ん……」
眠り続けていたルルが身じろぎすると、アランがすぐさま気付いてルルに駆け寄った。
「ルル! 目が覚めたか!」
「アラン様……? あれ、ヴィリーも……」
ルルは目を覚ますとぼんやりとしながらも、アランとヴィリーの姿を確認した。
すると、ふっと何か温かいものに包まれたかと思えば、耳元で「良かった。本当に……」と囁くアランの声に、自分が抱きしめられている事に気がついた。
アランは眠り続けている事はもちろん、日に日に頬がこけていくルルが心配でたまらなかった。ルーカスの事での悩みも重なっていたので、余計に目を覚ました事に深く安堵したのだった。
「あ、あの、アラン様?」
突然の抱擁にどぎまぎしたものの、アランはちゃんと傷に触らないように配慮して労るように包み込んでくれていた。
そんなアランの優しさに少し胸を打たれたルル。
そして、アランが微かに震えているのも伝わってきて、初めて見せるそのアランの様子に、すこしの間ルルは大人しくしていた。
きっと、とても心配をかけてしまったのだろうとルルは申し訳なく思った。
「急に、すまない。ルル」
少し落ち着きを取り戻したアランがそう言うと、そっと体を離してくれた。
「いいえ。アラン様、きっと私すごく心配をかけてしまいましたよね……。無茶をして、すみませんでした」
「ルルが、謝る事ではない。あれは、誰のせいでもない」
「……」
「……」
アランがそう言うと不意に、沈黙が降りた。
きっと、二人とも同じ事が頭に過ぎったが、アランから切り出す勇気もなく、ルルも目を覚ましてすぐに見つけられなかった人の姿を思い寂しく感じたが、たった今見たアランの様子を前に、なかなか口にする事が出来なかった。
「あれ、ここは森の、家? 私、おじいちゃんの家で……」
ルルはとりあえずその事を後回しにして、周りを見回して不思議に思った事から聞き始めた。確か、村の長の家で眠りについたはずなのに、いつの間にか森の家に戻っていることに戸惑っていた。
「実はな……」
ルルにルーカスの事を聞かれたら、どう説明しようと頭を悩ませていたが、ルルの質問にひとまずホッとして、アランが事情を話そうとした時、突然寝室の扉が開いた。
「ルル! 目覚めたか。おおっ、良かった、良かったのう!」
絞りたての果汁を入れた器を手に、村の長が寝室に入ってきたので、部屋が一瞬にして爽やかな香りに包まれた。
しかし、村の長は目が覚めたルルの姿を見るなり、ルルの傍ら寄り添っていたアランに器を押し付けて、二人の間にずいっと割り込むと、村の長がルルの手を握りしめる無事に目を覚ましたことを喜び、何やらうんうんと頷きながら涙ぐんでいた。
「ちょっと、長殿、今は俺が……」
「何じゃと? 最近耳が遠くてのう」
ちょうど事情を説明しようとしたところを邪魔されて、少し不満気味のアランに対して、すっとぼける村の長だったが、今もやけにぐいぐいとアランを押し退けるように、体を寄せてくる。
一方、ルルは思わぬ人物にびっくりせずにはいられなかった。
「あれ、おじいちゃん……、何で、ここに? ここ、森の家だよね」
そう聞かれ、村の長はアランに代わってルルが眠りについてからの事を簡単に説明した。
ひと通り話が終わると、ひとまず村の長は果汁で飲むようにルルに勧め、とにかくもっと何か食べて元気を出して貰わねばと、消化の良い物を用意しようと台所に立った。