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印を持つ少女 1



 翌日から、ジョージはヴィリーが反応を見せた場所を、再度測量を行い改めて採掘することに決定した。


 その事を正式にルグミール村の作業者たちに告げる。

 反対の声をあげる者はもう誰一人いなかった。ルルの身の上に起こった全ての事情を村人達が知ることになったのだ。

 誰の胸にも罪悪感と後味の悪さ、そして大きなしこりを胸に抱えることとなった。


 特に、ロッティの落ち込みは酷かった。

 ルルに辛い役目を負わそうとした両親に対する、激しい嫌悪感に襲われた。大人達への怒りと、許せない気持ちが彼女の胸に渦巻いていた。

 けれど、我が子が何よりも大切だったと泣かれると、何も言い返せなくなってしまった。そんな自分が一番許せなかったのだ。


 きっと、父と母は儀式の時に、ルルにこんなふうに泣き縋ったのだろう……。


「私、ルルに……どうすれば……」


 心ない噂を立てられても、小さなその胸に秘密を抱えたまま、たったひとりで森の中でひっそりと暮らしはじめたルル。

 そんな目に遭わせたのは自分の両親で、それは自分の存在がそうさせたのだ。今まで、ルルの味方気取りをしていたけれど、本当は自分の存在が一番親友を傷つけていたのかもしれない。

 何も知らずに自分だけが日の当たる場所で、今まで通り暮らしていたなんて……。


 儀式失敗から、目を覚ました時のルルを思い出す。

 自分達の親が酷い仕打ちをしたというのに、ルルはロッティやニコルにはその事は一言も話さなかった。どんなにか辛い思いをしたはずなのに……。

 何ひとつ気づいてやれなかった。


 それなのに、ルルはずっとその優しさで私やニコルが守ってくれていたのだ。


 ロッティは、ルルから贈られた髪飾りを握りしめていた。

 王都で体調を崩したと聞いて心配していたが、しばらくして村の長からルルからだと小包を手渡され、手紙も一緒に添えられていた。


 そこには、直接手渡せない事の謝罪と、結婚のお祝いの言葉が綴られていた。

 そして、お揃いだという贈り物の髪飾り。


「どんな顔して、謝れば……」


 ロッティがそう言った時だった。


「姉ちゃん。僕たちが出来る事って、謝ることなのかな?」


「当たり前じゃない、ニコル! 私達が……」


「でも、僕たちが謝ったら、ルルはきっと父さんや母さんの時みたいに、許さなくちゃいけなくなるんじゃないのかな?」


「っ……」


 瞳に涙をいっぱい浮かべながらも、弟のニコルはそう言い切った。

 ロッティは、その言葉にハッとさせられた。自分の謝りたいという気持ちでいっぱいで、ルルがどう思うか考えが及ばなかった。


「僕だって、今すぐにルルに謝りたい……。でも、ルルは、全然目を覚まさないし……」


 あの日から、3日経った今もルルは目を覚まさず、村の長の家で休んだままだった。全ての事情を知った村人達が、入れ替わり立ち代り謝罪に訪れたが、いずれも彼女に会うことは出来ずにいたのだった。


「皆が謝りに行こうとしてるの見て、思ったんだ。ルルは優しいから、きっと全部許しちゃうんだ。でも、それってさ……辛いこと全部またルルがひとりで、飲み込んじゃうってことなんじゃないのかな」


「ニコル……」


「いつか謝らなくちゃいけない時があるけれど、今こうやって、姉ちゃんや僕が泣いてるばかりじゃ、いけないって……。ルルが目を覚ますまで、他に出来る事あるんじゃないかって……だから、だからっ……」


 そこまで言って、とうとう泣き出してしまった弟の姿に、ロッティは胸を打たれた。

 自分も村の皆も、謝りたい気持ちの中に罪の意識を軽くしたい、そんな思いも少しは混じっていたのかもしれない。

 けれど、それをまだ10歳の子どもだと思っていたニコルに、教えられたような気がした。


「分かったわ……。分かったから、ニコル」


「ねぇ、ちゃぁん……。ル、ルルッ、目、さますよね?」


「うん。大丈夫よ。だから、ニコルが言ってくれたように、ルルが目を覚ますまで、出来る事をしよう。ルルとまたルグミール村で一緒に暮らせるように、頑張ろう」


 重苦しい空気のなか、ロッティとニコルは気持ちを新たに立ち上がった。

 そして、ニコルが言ってくれた事を両親に話し、それを村全体に伝えることにした。姉妹の言葉に複雑な心境を抱えながらも村人達は、やがて村と少女の未来のため水路事業へと動き始めたのだった。


 ルルが、もう一度この村へ戻ってこられるようにと願いを込めて。



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