両親との記憶 3
ルルは小さい頃から両親の手伝いをよくしており、見よう見まねで薬草を調合して薬を作ってみたりしていると、母からは「さすが私の娘ね。とっても筋が良いわよ」なんて褒められたりもした。
けれど、今回の流行り病の原因はわからず、両親は症状に応じた薬をその都度調合しながら、治療にあたっていたので、ルルもそれに習って懸命に母の看病をしたものの、さすがに少女の手に負えるものではなかった……。
「ルル、私達の分も幸せに生きるのよ」
ベッドに横たわった母が、いつかの父と同じようにそう言った。
「やだ! 母さまいかないで。ひとりぼっちはいや……」
「……ごめんね、ルルっ……」
こうやって娘を抱きしめながら、もう何回ごめんねと言ったのだろう。
まだ子どもの娘をひとり遺して逝く、その事に母の心配と後悔が尽きる事はなかった。
「でも、大丈夫よ。いつかきっと父さまや母さまのように、誰よりもルルを大切にしてくれて、愛してくれる人が現れるわ」
「そんな人いらない! 母さまがいればいい」
「まぁ……困った子ね。だけど、母さまは父さまと恋におちて、やがてあなたを産んで、とても幸せだった。だから、ルルにもそんな人と出会って、恋をして、幸せになって欲しいの。母さまと約束してくれる? そしたら内緒で、病気中の父さまと一緒に眠った事は許してあげる」
「母さまったら知ってたの? ……じゃあ、父さまとは右手で指切りしたから、母さまとは左手ね」
少し茶目っ気を含んだ母の言葉に、ルルの顔に久しぶりに少しだけだが笑みが浮かんだ。
けれど、それも束の間の事で、母と指切りをしながらルルの目からはとめどなく涙がこぼれ落ちた。
「ルルは生れた時から、とっても泣き虫で……。ロイの涙脆いところに似たのかしら。でも母さまは、最期にルルの笑顔を見たいな! だから、涙を拭いて……ルル、ずっと愛してるわ。さあ、笑顔を見せて」
ルルはうまく笑える自信なんてこれっぽっちもなかったが、母の最期の願いを叶えてあげたかった。
だから、ごしごしと涙を拭くと、母の前で懸命に笑顔を作った。
とびっきりの笑顔には程遠かったかもしれないが、懸命に笑おうとする娘の姿に、安心したように微笑むと、そのまま眠るように母は逝った。
◇◆◇
両親がこの世から去り、まだ12歳になったばかりの少女ルルは、ひとりぼっちになってしまった。
しばらく塞ぎ込み家から一歩も出てくることはなかった。
12歳で両親を立て続けに亡くしてしまったのだから、無理もなかったのかもしれない。
両親には親戚などはおらず、すぐにはルルの引き取り手は見つからなかった。
しかし、ルルの両親は病から救ってくれた村の恩人。しばらく村人達が交替しながらルルの様子を見に行ったり、食事を差し入れに行っていた。
しかし、かすかに返事はあるものの、ルルは誰にも会おうともせず、食事にも手をつけていない様子だった。
見かねた村の長がルルを引き取ろうとしたが、何度か家を訪ねてもルルからの良い返事はなかった。
村は流行り病からの復興に向けて動き出したばかりで、村の長もなかなか説得にあたる時間の余裕がない状況でもあった。




