第８話 中ボス？
体が底冷えする様な圧倒的な威圧感を肌に受けて俺、逢坂悠斗はヤツに対して声を張り上げる。
「良いぜ。受けて立つ！」
その声が聞こえたのか後ろから二人の少女の声が聞こえた。
「何を言っているんだ君は！ヤツは”オーガキング”。災害級の化け物だ。いくら君が強いとはいえ、勝てる相手では無い！」
「そうです、お逃げ下さい、ユウト様！」
どうやら出会って間もない俺を心配してくれているようだ。美少女二人に心配されるのは悪い気分ではない。
「キサマノ、ナカマハ、ソウ、イッテイルガ？」
「はっ、冗談ぬかせ。あの子達はただ知り合っただけで仲間ではねえよ。それに、拒否権は無いって言ったのお前じゃねえか」
「ククク、キサマハオモシロイナ、ニンゲン！」
「ニンゲンじゃねえ。逢坂悠斗だ。覚えとけ！」
「オレハ、グルルド。サア、ハジメヨウ、ユウト！」
ヤツーーーーグルルドは背中に掛けていた大剣を引き抜く。俺はその隙に＜剣製魔法＞を発動する。今回は魔力を多めに流し込んだ。
俺の＜剣製魔法＞は魔力を込めれば込める程、その剣の性能が上がるのだ。かなり多めに流し込んだので、早々折れないし、砕けもしないだろう。
「……ウェポンエンチャント＜魔法剣＞、＜魔剣＞……」
仕上げに左手の剣に＜魔剣＞を、右手の剣に＜魔法剣＞を付与。そして俺自身にもいくつかの付与魔法とスキル＜闘気＞を纏わせる。
「……行くぜ！」
俺が走り出したのと、グルルドが走り出したのは、同時。先に仕掛けたのはグルルドだった。
「ヌン！」
ブオン！という音が聞こえる程早い速度で繰り出された、持ち前のリーチを活かした攻撃。上から来る破壊の塊の様な一撃を最小限で避け、すれ違いざまに一撃。
「ヌウッ！」
「……ち、甘いか」
腰が余り入ってない攻撃だった為か、炎を纏った右手の剣はグルルドの脂肪と筋肉を軽く裂くだけに留まった。
何せよ、先に一太刀浴びせたのは俺の方。状況は悪く無い。
「ヌウウウウン！」
「ハッ！」
グルルドは大剣を振り回して来た。やたらめったら振っているのでは無い。恐らく我流だろうが、洗練された足さばきと鋭い斬撃からはそれが技であると如実に示していた。
人間には到底不可能じゃね？とも思えて来る規格外な膂力で繰り出される技による圧倒的な連撃を、俺は＜闘気＞と付与魔法で強化した身体能力と動体視力で避ける、弾く、受け流す。
グルルドと打ち合えば打ち合う程俺の思考は加速し、体が動く。いや、俺の体は思い出している。初めて盗賊と戦った時の様に。対人戦闘や対獣戦闘の訓練の記憶が脳内にフラッシュバックする。
オーガは人型だ。キングになっても変わらない。そして、俺は人間の壊しかたを知っている。
「ヌウン、フウン！」
グルルドは一度俺から距離を取り、全身に力を込め、俺に向かって飛び掛かって来た。完全に膂力任せの一撃だが連撃を打ち合った後なので有効だと考えたのだろう。まともに受ければ木っ端微塵になるだろう一撃を俺は紙一重のタイミングで回避する。地面にはクレーターが出来ていた。当然、空振ったグルルドには大きな隙が生まれる。その隙を、俺は逃がさない。
「疾っ」
俺はグルルドの懐に入り込み、剣を捨て、グルルドの剣を持っていない方の腕を取り、無造作にーーーへし折った。
「グッギャアアアアアアア！」
まさか剣を捨て、腕を折りに来るとは思わなかったのだろう。グルルドは耳をつん裂く様な悲鳴をあげて俺から距離を取り、腕を抑えている。
ーーー逢坂流暗殺術喧嘩殺法、”壊殺”ーーー。そんな言葉が脳をよぎった。恐らくこれが俺がやった技の名だろう。この技は名の通り、相手の関節等を壊して相手を殺す技で、主に反撃に使う技だ。何故俺がこの技を使えるのかは不明だが、使えるモノは使っておこうと思う。
「フウウウ、アガアアア！」
グルルドは憤慨しているが、我を忘れている訳では無さそうだ。むしろ怒りをパワーに変え、俺に突っ込んで来た。
片腕でも相変わらずの膂力で大剣を振り回しているが、先程までの”技”は見られないため、避け易かった。
いつまでも避け続けるのも埒があかないので、”壊殺”の時に捨てた剣を二本とも拾い、迎撃体勢を整える。すぐにとんでくる攻撃を左右の剣で弾き、防ぎ、受け流す。最初の攻防とほとんど同じだが、前と違い、グルルドには余裕が無かった。
「はあああああ！！！」
左右の剣同時の切り払いによってついにグルルドの大剣は砕かれた。俺の剣も一本砕けた。そして決着がついた。
「やっ、はっ、ふっ！」
すかさず、片手剣による三連撃を両脚と下腹部に叩き込む。魔力が多い災害級の魔物故に、下腹部は両断出来なかったが脚は成功した。脚を斬られ、ダウンしたグルルドを俺は見下ろしていた。
「………何か、言い遺す事は？」
「ジツ……ニ、タイシタ、オトコヨ。オレノ………カンパイダ」
俺は、グルルドの最後の言葉を聞いたあと、ヤツの首を跳ねた。
こうして、俺の異世界初めてのボス戦は幕を閉じた。
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