ピンチ(一般人にとっての)
ファンタジー大好きな男なら一度は空想しただろう。異世界の地で女の子を助けて、その子達とパーティーを組み、最終的にはモテモテになる典型的なハーレムパターン。
この俺、逢坂悠斗もその状況にある。但し、けしてモテモテではなく、向けられる視線はむしろ唖然としたものだが。
歳の頃16から17歳位の女の子二人を襲っていた(性的な意味で)男共を彼方に殴り飛ばした俺は一応、二人の女の子に「大丈夫か?」と声を掛けたが、二人とも何かに驚いている様子で返事がなかった。
これ以上この場にとどまる理由も無いので早々に退散しようと踵を返した俺の目にある物が飛び込んで来る。
「なあ、これ、君らどっちかの物?」
そこで初めて、二人組の片割れーーー燃える様な赤い髪を短く切った美少女がピクリと体を震えさせ、俺の言葉に反応した。
「それは、私の……だ。あいつら……さっきの男に折られてしまった。」
どうやらこの少女は前衛職らしい。それなりには力が強いだろうが、明らかに高レベルの前衛職の男に組み伏せられては手も足も出ないだろう。
「武器が無いのに、このあとどうすれば……」
流石に不憫に思えて来た。俺は少し考えると、赤髪少女に声を掛ける。
「なあ、君が使う剣ってどんなやつだ?」
「……? 私が使うのは片手長剣だが、何故そんなことを?」
「まあ、見てな。」
そう言うと俺は無言で<剣製魔法>を発動させ、ゲーム等で良く見る片手長剣を強くイメージする。すると、魔力が俺の手と手の間に集束し、剣の形を成していく。最後に魔力が金属に変換され、片手長剣完成した。
「ふむ。重さ、長さ、強度、見た目、良好。………ーーーウェポンエンチャント<切れ味上昇>ーーー良し、これでどうだ?」
取り敢えず作った剣に付与魔法を掛けて地面に突き立てる。
「これは……どうすれば?」
「いや、剣、欲しいだろ?別に金も取らないし、良いから振って見ろよ。嫌ならもっかい作り直す。……ってその格好じゃ無理か。えーと、あった。ほれ、これもやるから。」
よく見ると赤髪の少女は服を破かれていた。俺は盗賊の捕獲報酬で得た金で、服を買っていたので女の子が着ても問題無さそうな服を<異次元倉庫>から取り出して渡す。
「え……あ、ありがとうございます。」
少女は服を着ると、剣を持ち、ビュンビュン振り回す。ある程度振ったあと、満足気な顔になった。
「で、君の方は……武器は無い見たいだけど、魔術師かなにか?」
「わたしは、武器はあるのですが、魔力が心もと無くて。」
「ふーん。じゃあ、ほい。」
どうやらあまりポンポン使え無さそうなので、予め作っておいた短剣を渡す。
「さて、後は大丈夫そうだな。それじゃ、俺は行くから後は頑張りな。」
「あ、あの……どうして私たちの為にそこまでしてくれたのですか?」
「ん?ああ、別に大した理由じゃ無いさ。自分が関わった事に、ほぼノーリスクで出来る事があるからそれを行っているだけ。剣の類いであれば俺はなんでも直ぐに造れるし、服だって大した物でも無いから……っ!」
話している途中だったが、予め創っておいたスキル、<索敵>が報せる悪寒に俺は言葉を切り、硬直してしまう。
「どうかしましたか?」
「不味いな……俺の<索敵>に反応があった。魔物の群れだ。数は……10や20なんてものじゃない、恐らく50以上はいるな」
「そんな、どうすれば……」
もう一人の栗色の髪を持つ少女は絶望した様にその麗しい顔を暗くしていた。
「落ち着いて、マーレ。今は迷っている場合じゃないわ。兎に角逃げなきゃ。」
「っ!そうですね。今は逃げなければ。」
マーレと呼ばれた栗色の髪の少女は顔を上げて意を決した様な顔をする。しかしーーー
「悪いがそれは無理そうだ。もうこの辺一帯は囲まれている。」
「そんな……」
俺の言葉に今度は赤髪の少女が暗い表情となる。
「囲まれているが包囲網は存外薄そうだな。よし、悪いけどお二方。俺は行かせて貰う。腕に自信があるなら二人で逃げてくれ。そうでないなら、俺と一緒に来て欲しい。」
俺の提案に二人の少女は当然ーーーー
「私たちからも是非お願いします。」
「私も同伴願いたい。」
「よし、それじゃ、ついてきてくれ。」
一時的だがパーティーメンバーが増えた。
☆☆☆☆☆
平原の森林地帯から出て見渡しの良い所に出ると、そこには明らかにヤバそうな魔物が沢山いた。
緑色の肌に鍛え抜かれたボディービルダーを思わせる筋肉。高さは二メートルは軽く越えているだろう。頭を飾り付ける角と口からでている牙は、弱き精神の持ち主の心をいとも容易くへし折る程の威圧感を醸し出している。
正に鬼。その言葉がピタリと俺の中ではまった。
「不味い、あれはオーガだ!並み大抵の冒険者じゃ敵わないぞ!」
赤髪の少女が洩らした焦燥感溢れる声を聞いた俺は少女に声を掛ける。
「わりぃな。美女がみてんんだ。………これで終わらせて貰うぜ!」
そういって俺はオーガの首をはね飛ばす。すると少女立ちは再び唖然としていた。