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盗賊団狩り①

はい。遅くなってしまいすいませんでした。え?待ってないって?………そんなこと言わないで下さいよ。

むせ返るような血と肉の匂いが立ち込める。見渡せばそこには死屍累々の如き死体の数々が。



俺、逢坂悠斗おうさかゆうとが対峙するは、名の知れた盗賊団。しかし、その団員達もあたかも化物を見るかのような目で俺を伺っていた。



地球あっちでの自分のことは何も覚えていないが、俺はきっと普通の高校生だったはずだ。そんな俺が悪人とはいえ何人も殺した。その事実は普通の人間では到底耐えきれるはずもない。

俺は胃袋からの吐瀉物としゃぶつと共に、後悔の涙と懺悔の嗚咽を洩らす────ことはなかった。




「で、お仲間さんそれなりの数は殺ったけど、あんたらはどうする?」



自分でも驚くほど、冷淡な声だった。ざっと二十以上。これほどの数の人を殺しておいて、何の気持ちも湧き上がって来ない。

いや、それだけではない。俺はどこか慣れていた。人を殺すことに。生命を断つことに。肉を裂くことに。心の臓を穿つことに。骨を砕くことに。そして、首を撥ねることに。



「ひ、ひぃっ」



盗賊の一人が情けない声で後ずさった。俺の顔には、奴らの仲間の血がはねて、こびりついていた。正直、気持ち悪い。



視線だけ動かすと、俺のパーティーメンバーであるマーレとミルの表情も戦慄に彩られていた。



「くそっ、こんなに強い冒険者を雇っているなんて………くっ、おら野郎共、幾ら奴が強くても所詮人間だ!数で押しつぶしちまえ!」



『お、おう!』



盗賊団のリーダーらしき男の号令で、盗賊達が一斉に掛かる。その数約三十。



「おらぁ!」



「死ねやぁ!」



「このクソガキ!」



皆、思い思いの罵倒を乗せて武器を振るって来る。正面からきた男は、斧を上段で切り込んでくる。俺は自分の剣で奴の斧の腹を叩き、大きく隙が出来た奴の腹に蹴りを叩き込む。



「ぐえっ!」



「野郎!」



今度は二人での左右同時攻撃。片や槍、片や直剣をこちらに向けて振り下ろしてくる。

盗賊にしては練度の高い良い攻撃。名の知れた盗賊団というのは、伊達ではなかったらしい。



────が、



「遅い」


「何ぃ!」


「しまったっ!」



剣を半身になって躱し、足で弾き飛ばす。槍は《闘気》で強化した左手で受け止め、へし折った。

動揺している槍使いの盗賊に、ほぼノーモーションで刺突を見舞う。放たれた剣の切っ先は、何の抵抗もなく喉を穿った。


────逢坂流剣術、“穿凪せんなぎ”。



ふと、この言葉が頭に浮かんだ。間違いない。俺は恐らく、何かの武道をやっていた。それも、総合的な武道を。



「野郎!」



剣士の盗賊は、ナイフを抜き後ろから俺に掛かってきた。確かに、今なら剣を抜かなければならないので、迎撃は間に合わないだろう。そう、剣では・・・・



剣から手を離し、振り返る流れそのままに、回し蹴りを放つ。ナイフを弾くつもりだったが、俺の脚はそのまま盗賊の腕まで砕いてしまったようだ。



「あぁぁぁぁあああがぁぁぁ!」



痛みに苦しんでいる盗賊の心臓に、よく捻った掌底を打ち込んだ。

俗に言う、ハートブレイクショット。特殊な捻りを掛けた掌底はその威力を余すことなく身体の内部に伝え、破壊する。



────逢坂流暗殺拳、“破透はとう”。



また、そんな言葉浮かんだ。はたして、俺はなんなのだろうか?一体何者だったのだろうか?



「ごはっ!」



俺の一撃を受けた男は、心臓を破壊され絶命した。突っ込んでも勝てないと悟ったのか、他の団員達はなかなか動く気配がない。



「来ないなら、こっちから行くぜ?『ライトニングブラスト』」


掲げた左手から、大きめの魔法陣が浮かび上がり、そこから雷の波動砲が放たれる。


雷速で迫る破壊の一撃に、盗賊達は己の死すら自覚出来ぬまま呑み込まれた。



「なんなんだ………、なんなんだよ、お前ぇ!」



最後の一人となってしまった盗賊団のリーダーらしき男が、狂乱しながらこちらに突っ込んできた。

やはり、リーダーを張るだけあって、今までの奴らより圧倒的に強かった。


「この、この、このぉおお!」


怒りに身を任せて振るう剣を躱し、一瞬の隙に前へ踏み込む。



「ちくしょうがあぁァァッーーー」



剣を撫でるように振るい、首を刈り取る。男は、事切れたように倒れ、もう二度と起きることはなかった。………って、起き上がったらある意味怖いわ。



剣をだらんと下げ、空を仰ぐ。視界に映るのは、俺がこの世界に来た時と同じ、澄み渡るような蒼穹だった。



事の始まりは、一日前に遡る。



◇◇◇◇◇



「と言うわけで、キミとその仲間たちには馬車の護衛と、恐らく現れるだろう盗賊団の殲滅をお願いしたい」



「いやどういう訳だっ!」



「?」



「?、じゃねえよ、ヘンテコギルドマスター!」




その日、俺は都市パステルの冒険者ギルドのギルドマスター、シュピーゲルに呼び出されていた。



「いやだから、冒険者ギルドに出資してくれているお得意様の商人から護衛依頼を受けてね、最近ある盗賊団が近隣の村を襲って多くの被害を出しているから、襲われた時の護衛と、ついでにその盗賊団を潰してきて欲しいな〜っていう依頼だよ?」



「いや、俺が聞きたいのは、なんでその依頼を受けるのが俺な訳?」



「赤竜をほぼ一人で倒したキミだ。そんじょそこらの冒険者より圧倒的に安心さ」



「お褒め頂きどうも。だが仮に受けるとしてランクはどうするんだ?俺はFランク。そんな重要な仕事を受けるのが冒険者として最低ランクの男とそのパーティーって言うのはどうなのよ?」



「うんうん、実に正論。だが安心したまえ。キミは既に私の権限でBランク(仮)してある」



「(仮)?」



「うん。この依頼はね、君のランク試験も兼ねているんだ」



「というと?」



「さっきも言った通り、キミは普通はありえない功績を残している。本来ならSランクに上げるべきだが、ギルドには必ず規則がある。Bランク以上になるには、人を殺せる覚悟を持つこと。という規則だ」



「なるほど」



「それに、盗賊団を相手取れば、少しくらいはキミの記憶・・に響くんじゃない?」




その時、俺はあまりの衝撃に固まってしまった。



「………お前、なんでそれを?」



「僕の眼は特別でね。視えるんだよ。全てではないけどね」



「………はあ、参った。俺の負けだ。依頼を受けよう」



「うんうん、なら結構。報酬は期待しててね」



◇◇◇◇◇


その後依頼を受け、件の商人にあった。依頼主は最初、俺たちを見て怪訝そうな顔をしていたが、事情を話した(ある程度はカットした)ら一応は納得してくれた。

そして街を出て、目的の街を目指したその三時間後、盗賊団に襲われて、今に至る。




「………」



「………」



うむ。沈黙が痛い。どうしたものだろうか………。



「取り敢えず、尋問と行くか」



『え?』


「え?」



思わず聞き返してしまった。



「ユウトさん………その、盗賊団の方々は全員殺したんじゃ………」



ああ、そう言うことね。



「いや、生きてるよ。一人だけね」



そう、俺は一人だけ殺していない。斧を持って俺に突撃してきたやつだ。あいつにはただの蹴りを与えただけなので、意識こそ失っているが命に別状はない。………はずだ。



とは言っても、アイツが素直に吐くとは考えにくい。一計を案じておくか。



『《技能創造スキルクラフト》を発動します』



脳内にアナウンスが流れる。これで対策はバッチリだ。



「おい、起きろ。どうせ狸寝入りかましているんだろ?」



「………」



はあ、面倒くさいな。



「《グローム》」



「あばばばばっ!」



死なない程度の威力に抑えた雷魔法、《雷》をぶつけて気絶してようが、狸寝入りだろうが関係なく物理的に叩き起す。



「おら、さっさと起きろっての。もう一発雷いっとくか?」



「ひぃっ、お、起きた! 起きたから撃たないで………!」



「まったく、最初からそうすればいいものを。面倒かけやがって」



そうすれば、俺も無駄に魔力を消費しなくて済んだのに。



「いいか?キリキリ吐けよ。お前らのアジトは何処だ?」



少し威圧感を出すように問い詰める。既に《雷》の二発目も準備が出来ており、手に宿る小さな魔法陣からピリピリと電気を溢れ出している。



「は、話すっ、話すから、命だけはっ!」



恐怖に負けて、色々と話す盗賊の男。普通なら、その言葉は嘘ではないかと疑うところだが、あいにく俺には《真実の魔眼》というスキルがある。この眼の前に、嘘など通用しない。



「こ、これで話せることは全て話した! 助けてくれるんだろ!?」



「はあ?何言ってやがる。殺すに決まっているだろ?」



「な、なんで!?」



いや、なんでと言われましても。



「ゆ、ユウトさん。彼はもう戦意を失っていますし、殺さなくてはいいのでは?」



「うん。まあ、マーレと言う通りなんだけどね。でもこういう奴らは今見逃すとまた同じことをやるよ?」



「っ………」



「たとえばこいつらは近隣の村をいくつも襲撃している。家に押し入って、村の男達を殺し、女を自分らの慰みものにした。子供の前で両親を殺し、犯し、それを踏みつけては笑って絶望を与え、逆らうことすら億劫になったところでその子供すらも犯す。

用済みになった女達を奴隷として売りつけ、男はストレスを晴らすためのサンドバッグとする。最後は魔物を村に引き寄せて、生きている人も死体も関係なく喰わせて証拠隠滅。それがこいつらの常套手段だよ」



俺の懇切丁寧な説明に顔を青くする二人の少女。俺の眼は隠された真実すら暴く。奴らの記憶や行動の真実を見させて貰ったが、それは酷いものだ。少女の目の前で、母を穢し、父を拷問。最後はその二人の前で、少女すらも手にかけた。

それが、こいつのやってきた事だ。そして、恐らくこいつらの仲間も同等のことをしてきたのだろう。



「まあ、これは正義のための殺しだ。とは言わないさ。ただ………自分のやってきた事の責任くらい、とって貰うだけだよ」



「た、助けてくれよ! 同じ人間だろ!? なら少しくらい、情けをくれたっていいじゃないか!」



「はあ。いいか?今からありきたりな正論を言うぞ。お前は自分に同じように命乞いをしたやつになにをした?そんな奴が、今更人間かたってんじゃねえよ。

人道みちから外れたなら、それらしく、黙って正論を力で踏み潰せ。人道を振りかざしていいのは、人間だけだ」



そう。こいつらは最早人の道を外れた外道だ。始まりには何らかの事情があったかもしれない。だけどそれでもこいつは超えてはいけない一線を超えた。そして────



「そして俺も、お前らと同じ外道ただ。何とでも蔑めばいい。甘んじて受け入れよう。俺もいずれ地獄そっちに行く。まあ、先に行っててくれや」



そう言って、俺は男の首を撥ねた。



「悪いな。胸糞悪いものを見せちまって」



「いや、その………」


「まあ、なんだ………。ありがとう。私たちの代わりに、嫌なことを引き受けてくれて」



正直。罵倒されると思っていた。引かれると思っていた。でも………どうやら彼女達は、俺が思っていた以上に、いい女らしい。



「────、ありがとう。マーレ、ミル。君達と会えて、良かったよ」


『〜〜〜っ!!?』


俺としては、心からの言葉を送ったつもりだったが、彼女達を怒られせてしまったようで、顔を真っ赤に染めて、そっぽを向いてしまった。



「それじゃあ、そろそろ行くか」



俺は二人に声をかけると、依頼主の馬車まで歩を進めた。………結局、《技能創造》で作ったスキル使わなかったな。

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