表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

赤竜戦

なんか、将棋みたいなサブタです。

竜。それは、日本人にとっては幻想の中の憧れの生物であり、異世界人にとっては破壊と理不尽の象徴である。



竜の持つ鋭い爪は鋼をも切り裂き、強靭な顎と牙は万物を噛み砕く。そして、その鱗は鋼鉄にも勝る強固さを誇ると言われている。



まあ一言で言うと、生きる厄災だ。そして、そんな化け物が俺の目の前にいる。デカイ翼をはためかせ、ふよふよしている。どーしろと?俺にどーしろと!?



「グルルルル、ガアアアアア!!!!」


「っ、マジか!?」



目の前にいる赤い竜ーーーもとい赤竜が爪を振り上げて攻撃態勢をとる。因みに赤竜は竜種の中でもベストスリーにランクインするほどの凶暴性と強さで知られている。この言葉が示す意味はーーーーーー



「ッツ!!?? んな、畜生!」



思わず変な声が出た。スキル<時空間魔法>で作った<異空間倉庫>からあらかじめ用意しておいた大盾を用意してどっしり構えて受けてみたものの、予想を裏切る程の膂力で吹き飛ばされてしまった。



「ちっ、やっぱ強ぇか。さて、どうしたものか」


さて、チート持ちである俺でさえ一撃で吹き飛ぶ程の攻撃力の持ち主だ。どうしたものか。


「う、うわああああああ!!!」



「わ、我が願に応えよ火の魔力、<ファイアブレット>!」



マーレやミルと同じ護衛のクエストを受けたパーティーの奴等が半狂乱になりながら魔法やスキルで攻撃する。



しかし、まるで効いてないように鼻をふんっと鳴らすと、地面に着陸する。その衝撃と風圧で大半の冒険者は動けなくなっていた。



「早く、逃げろ!死にたいのか!?」



一応無事だった奴が動けずにいる仲間に声をかけるがもう遅いようだ。



「ちっ、不味い、ブレスが来るぞ!全員無事な奴は逃げろ!」



俺が叫び終わった時には、大きく息を吸い込んだ赤竜が今まさにブレスを吐き出さんとしているところだった。


竜種には三つの武器がある。一つ、あらゆる生物の肉体を切り裂く爪。二つ、万物を噛み砕く牙。そして最後の三つ、各竜族によって違う最強の殲滅兵器、スキル<ブレス>だ。


<ブレス>は竜種と一部の魔物しか使えない特別なスキルで、ブレス自体は竜の種族によって変わる。例えば火竜や炎竜の類いは炎を。風竜は空気の弾丸を。水竜や蒼竜は水を、といった様にブレスを吐き出す。


そして、赤竜は火竜や炎竜の兄弟種だ。つまり、奴が吐き出すブレスはーーー



「ひっ、う、うわあああああ!!!」



ゴウ!っと灼熱の線が螺旋を描きながら放たれ、摂氏二千度程の大熱量を孕んだ炎が射線上にある全てを焼き払った。木々も草も、虫も、微生物も、そして、人間も。



炎を受けた奴らは一瞬で灰となって消え去った。そのかわり、俺以外の全て人間の心に残ったのは深い絶望だろう。



「っ、やるしか、ないか………」


「そう、ですね」



どうするものかと考えていた俺の耳に、二人の少女の声が届いた。ミルとマーレだ。ミルは以前俺が作った長剣を、マーレは魔力式の銃を構え、小刻みに震えながらも戦う意思を見せていた。



「さて、どうするか。………まあ、斬ってみるか」



二人の勇姿を見せてもらった俺は、高速で<剣製魔法けんせいまほう>を発動。長剣を生み出し、付与魔法とスキル<魔法剣>で、剣に雷魔法を付与する。



「さて………っと!!!」



俺は助走の勢いのまま高く跳躍する。しかし、まだ赤竜には届かない。



「そ~~~っら、と!」



俺はスキル<空歩くうほ>を使い、大気を踏みしめて更に跳躍した。そして、そのままーーー



「おおおおお、おおおおおおおおおらああああああああ!!!」



全身全霊の気合いを込め、一刀両断。のはずが、剣が砕け散った。カシャアアンと硬質な音がなり、幾つもの破片を散らす。俺の一撃は通用しなかった。


「………マジか」



つい漏れてしまった本音は次の瞬間強制的、及び物理的に中断させられる。赤竜の尻尾の一撃によって吹き飛ばされたのだ。



「ッツ!! くあっ、ぐあ!」



鞭のようにしなる尾の一撃はカッターの様な鋭さとトラックもかくやという衝撃をもって、俺を地面に叩きつける。



「グゥルルルルル、グァアアアアアアアア!!!!」



ニヤリと勝利を確信した笑みを浮かべるかの様に唸った赤竜が俺目掛けて鋭い爪を降り下ろす。回避は間に合わない。このまま俺に致死の一撃が当たるーーーーーことは無かった。



「グゥアアアアア!!!」



赤竜が爪を俺に突き立てるよりも早く、マーレが魔力式のマスケット銃で赤竜の目を撃ち抜いたのだ。なんという精密射撃。



「ユウトさん、今のうちに!早く!」



当然、俺はその一瞬の隙に離脱、マーレの近くまで下がる。



「ナイスショットだ、マーレ」



「い、いえ、そんな。たまたまです」



「さて、そうしたら俺も良いところみせねえとな。<ライトニング・フォール>!!!」



マーレに礼を言うと、カッコつけるために俺の撃てる最高技術をもって魔法を展開する。雷魔法<ライトニング・フォール>。ランク的には中級魔法だが、難易度は上級クラスで、威力も高い魔法だ。それを上位の魔法使い職の技術である複重展開マルチブートを使い、全五十発に及ぶ落雷を落としてみせる。



「グゥオオオッ!!??」



一発でも相当な威力を誇る落雷が天変地異よろしく赤竜に降り注ぐ。ゴオオンゴオオンと、激しい音が猛烈な衝撃と電気の余波を伴って大気を震わす。



「ちっ、これでも死なねぇか」



予想通り、全身火傷でまともに飛翔するのは無理な位はダメージを負った赤竜だが、手酷いのは翼であり、本体にはあまりダメージは通っていない。魔法耐性が高いようだ。



「マーレ、ミル。すまないが一分でいい。時間を稼げるか?」



俺の計略を成功させる為、二人の少女を死地に送りこむ。我ながら最低だが、今のところ奴を倒すにはこれしかない。



「本当に悪いと思っている。でも頼む。これが頼めるのはお前らだけだ。俺からも最大限の補助はする。頼む!!」



僅な沈黙。赤竜の咆哮が聞こえてくる。しかし、今の俺の耳には入ってこない。大切なのは、彼女らの言葉。



「ユウト。一分、稼げばアイツを倒せるのか?」


簡素で、当然な疑問。しかし、それは普通の人間なら、直ぐに答えられる事が出来ない問。俺の答えはーーー


「勿論だ」


「よしっ、乗った!」


俺の言葉を聞いたミルは、すぐさま快諾する。え、マジで?


「赤竜を倒さなければ、どのみち全滅です。この命、貴方に託します」


マーレも即答だった。え、本気? いくら俺がカバーするっていってもあの赤竜相手だよ?スゲェ胆力だな。

ともあれ、やることは決まった。あとは、一分後。サクッと赤竜をぶっ殺するだけだ。


「………二人とも、任せた! ユニットエンチャント<障壁シールド>、<精神向上マインドアップ>!!」


さあ、後は俺の仕事をしよう。魔法はイメージ。大体のファンタジー系小説で魔法を使う奴は大抵そう言う。そしてこの世界も然り。だからイメージしよう。



俺の<剣製魔法けんせいまほう>は剣であればなんだってつくれる。大剣、細剣、長剣、短剣、なんであろうとも。



だからイメージしよう。架空と伝説の英雄達の様に、理不尽で凶悪な敵を、さらなる圧倒的理不尽で押し潰す様な。竜という理不尽な存在を切り伏せる、圧倒的な剣を。



さあ、考えろ。音はいらない。景色もいらない。必要なのはただ、赤竜アイツを殺す為の武器があればそれでいい!!



「い、やあああああ!!!」


「グクルルルル!!??」


ミルが赤竜の攻撃を紙一重で捌きながら、一太刀入れ続ける。流石の赤竜も驚いているようだ。マーレも必死に援護射撃をしている。文字通り、この一分に全てを賭けるようだ。



カシャアアアン、とガラスの破砕音の様な音が鳴り響く。俺が二人に掛けた<障壁シールド>の付与が破られたようだ。


「う、くっ。あとは任せた!」


「お願いしますわ」


ミルとマーレ、二人の声を聞き俺は魔法を行使する。


「ああ、任せろ。<剣製>」


瞬間、俺の手に大剣が生まれる。えらくデカイ剣だ。刃渡りは四十センチメートル位か。長さは百七十センチメートルほど。まあ、竜殺しの剣にはピッタリだ。


「<魔剣>、付与。概念<竜殺しドラゴンキラー>」



今さらになって気付いたのだが、俺の持つスキル<魔剣>とは、持ち手の望む概念を具現化することらしい。他はどうか知らないが。


つまり、今俺は赤竜を殺したいから、竜を殺す概念<竜殺し>を付与したのだ。


「行くぜ、赤竜。フィナーレの時間だ!」


大地を渾身の力で蹴る。加速、加速、加速。気が付けば彼我の差は目前。跳躍。最後に俺の全魔力で剣を更に強化する。



「ウェポンエンチャント<全武器強化付与オールバフエンチャント>」



剣が随分軽く感じる。心なしか、切れ味も良さそうだ。さあ、行くぜ。



「おおおおおおおおおおお、りゃああああああああああああっ!!!!!!」



渾身の力を込めて振り抜く。



赤竜の声は聞こえない。



ずるっと音をたてて。



断末魔さえ、残さず。



両断されていた。



俺の手によって。



瞬間、溢れんばかりの歓声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ