○○無双
短いです。
それは、魔物達にとって悪夢ともいえる光景だった。一人のーーーそう、たった一人の少年によって、百単位の魔物達が次々と蹂躙されていく。
こん棒を持った鬼の様な見た目をした青い魔物が少年に向かって突進する。地響きを鳴らして大型トラックもかくやという勢いで突っ込まれたら、普通の生物はたまったものでは無いだろう。しかし、その一撃が少年を捉える瞬間、鬼の上半身が吹き飛ぶ。圧倒的な魔力で強化された少年のカウンターが、その巨体を消し飛ばしたのだ。
次に来たのは丸盾と蛮刀を装備した蜥蜴男ーーー俗にリザードマンと呼ばれる魔物が複数。リザードマンは知能が高いため連携を使ってくるうえに、その強靭な肉体は素手でも人間の肉を引き裂き、その強固な鱗は生半可な剣は全て弾くと言われている。
そんなリザードマンが複数で少年に襲いかかる!……が、少年は動じない。むしろ、遠目からみても分かるほど不敵な笑みを浮かべ、嬉しそうに口角を持ち上げる。一斉にくる剣撃の数々をとても安定した余裕を持って回避する。すると、一体のリザードマンにガードしている丸盾ごと蹴りを見舞い、吹き飛ばす。盾を構えながら、攻撃のモーションをとるリザードマンを手に持った片手剣で盾ごと両断する。
ずるっ、と音をたてて滑り落ちた胴体が重い物を落とした様な音を響かせる。真っ二つに両断されたリザードマンを見た他のリザードマンは軽く動揺する。その隙に残る数体のリザードマンも少年が始末する。
その後も襲いかかる魔物の軍勢を人形でも相手している様に蹴散らしている少年は尚もその歩みを止めない。魔物の群れに向かって真っ直ぐ進み、攻撃してくるやつらを全て血の海に沈める。
その光景を見ていた他の冒険者は酷く掠れた声で呟いた。
「おいおい、なんだありゃ。ビーストキメラとかオーガの亜種までいるんだぞ。それを………こうもあっさり……」
そんな冒険者の心境を知ってか知らずか、少年は周りの雑兵を一瞬で斬り捨て、少しばかり距離を取る。少年の無双はーーーーまだ終わらない。
「<ライトニング・フォール>!」
雷魔法Lv5<ライトニング・フォール>。雷魔法の中では中級だが、こと威力に関しては上級魔法に匹敵する魔法だ。名前の通り落雷を落とす魔法で、その落雷は盾等の物理的ガード不可、仮に出来ても衝撃を叩き付けることができる優秀な魔法なのだ。
当然、それほどまでに強力な魔法なら使用する魔力量も少なくない。上級魔法職でも一度に撃てるのは二、三発程度。それを少年は数十発同時展開していた。
落雷の雨が降り注ぎ、魔物達を黒く焦がしていく。その光景を見た誰もがこう思うだろう。「まるで地獄だ」
と。
知性の低い魔物も流石に足を止めて警戒する。しかし、警戒さえも意味が無いと言わんばかりに少年は片手剣を一薙ぎ。剣に込めた魔力とスキル<魔剣>の効果で飛ぶ斬撃を生み出し、群がる魔物を一掃する。
それは戦いと呼ぶにはあまりに一方的過ぎた。まさしく、圧倒的無双。某○○無双のようにたった一人の人間が大群を蹴散らすその様は、実に異様であった。
だが、物には必ず終わりがくる。いくら人間が強くても、武器には限界がくる。そして、その瞬間は訪れる。
ポキンッ。
硬質な音が悲鳴と混乱の咆哮が飛び交う戦場に、やけに明瞭に響いた。
「あっ……………」
その声は、誰のものであったか………。この戦場に立つ全ての生物は思っただろう。「ああ、この少年は終わりだ」と。
今まで蹂躙され続けた魔物達が一斉に勝利を確信した雄叫びをあげ、飛びかかった。少年を見守っていた人間は皆、少年がなす術なく死ぬ光景を幻視しただろう。
その光景が現実となることはなかった。何故ならーーーーー
「はあああああああ!!」
少年は魔力で強化された肉体を限界まで引き絞り、某一子相伝の暗殺拳もしくは、とあるネコの自縛霊の必殺技の様に連続で拳を振るう。
次の瞬間、少年を襲った魔物は全員が体を四散させて散っていった。あまりに奇怪な光景だろう。あまりに恐ろしい光景だろう。あまりに理不尽な光景だろう。魔物達が生きるため、ひいては自分等の目的の為、命を賭けて人間を襲撃しようというのに、いきなりフラッと現れた一人の少年に全て台無しにされたのだ。このあと襲うつもりだった街がすぐそばにあるのに。
その少年が歩く道はまさしく修羅道。どこもかしこも敵だらけ。その道を少年は進んで行く。まるで子供の様に無邪気で、獣の様に獰猛なーーーーーーーーー笑みを浮かべて。
「さあ、俺の血肉となって貰うぜ。始めよう!極限の殺し合いを!!!」
◇◇◇◇◇◇
俺、逢坂悠斗はなんともいえない高揚感に見舞われていた。敵を斬る毎に、殴る度に、俺の中の何かが埋まっていく感じがするのだ。
これが戦い、これが殺し合い!じ実に気分が良い。
「さあ、俺の血肉になって貰うぜ。始めよう!極限の殺し合いを!」
俺が気分のまま叫んだその時。
「グウウウウウ、グギャアアアアアアア!」
ソイツは現れた。
血のように紅く染まった鱗に身を包まれた。
竜が。