第二の大群戦
飛び散った肉片と血が木々を真っ赤に濡らした森の中部で、俺ーーー逢坂悠斗はちょっとピンチになっていた。
森で狩りをしていたら、大量の魔物に囲まれている人達を見つけたので、とりあえず助けようと風魔法を放ったのだが、何故かバグキャラよろしく恐ろしい程の魔力を保有している為、初級魔法でも森の一角に血血の海を作ることに成功したのだが………
なんか凄くビミョーな雰囲気になっていた。うん、どうしよう、この状況。
「……………さて、脱出しますか」
「「「「「いやいやいや、ちょっと待て!!!!!」」」」」
え!?なんか複数人にツッコまれたんだけど!
「な、なにか?」
我ながら苦しい返答だと理解しています。
「今の魔物の群れを吹き飛ばしたのは君かね?だとしたらいったい何をしたんだ?」
馬車を護衛している冒険者の剣士らしき男が質問をしてくる。
「ええ、まあ、風魔法を撃っただけですけど………」
「本当にっ!?何を撃ったの?」
次いで、恐らく剣士の仲間だろう明らかに魔法使い系の少女が少し鼻息を荒くして質問してくる。少し怖い……。
「<ウインドブラスト>ですけど……」
「<ウインドブラスト>!?嘘でしょ。初級魔法であんな威力出ないし、そもそもあの魔法じゃあろくな攻撃にもならないじゃない。ねえ、あなたいったい何者?」
「え、ただのFランク冒険者だけど」
少女から「はあああああ!?」と声があがる。今日だけで何回聞いただろうか「!?」の記号。
「う、嘘でしょ。ねえ、本当のこと言ってよ。ねえ!」
なんか恐いんですけどこの人。
「おいよせ。他の冒険者の詮索をするのはマナー違反だぞ!」
俺がちょっと後退りすると、大盾とランスを持った男が少女を制止する。どうやらこの三人メンバーのリーダーみたいだ。
「すまないな。こいつは興奮すると我を忘れるタイプなんだ。勘弁してやってくれ」
「ああ。気にすることはない。無事で良かったな」
俺はリーダーの男と話を済ませ、この場にいる残り二人の冒険者に声を掛けた。
「よ、久し振り(?)だな。マーレとミル」
そう、残る二人の冒険者は以前オーガキング討伐の際立ち会ったマーレとミルだ。マーレの栗色の透き通る様な髪は木漏れ日を受けて輝いて見える。ミルの方も、燃える様な深紅の髪と少し男勝りなボーイッシュな感じは今だ健在な様だ。
「ああ、久し振りだな、ユウト……」
「ええ、相変わらず無茶苦茶ね。貴方は……」
ミルもマーレもなんか疲れた様に乾いた笑みを返す。
「それにしても、またピンチだった様だな」
「ああ、全くだ。君も随分とタイミングが良いものだな。まるでヒーローかと思ったよ」
「ふっ、そうだろう。惚れるなよ」
ミルからの皮肉混じりの言葉を冗談付きで返すと、マーレのあるものにふと目がいった。
「マーレ、それは?」
俺が指差した物は地球の現代社会で、主力となっている武器の様な物だ。
「? ああ、これね。これは”魔力銃”よ。私の様に魔法の適性はあまり無いけど、魔力だけは高い人間が使うのよ」
銃!?まさかこの世界に銃なんて概念があったとは。しかし妙だ。銃という言葉はある程度の年齢の地球人なら誰でも聞いたことがあるのは当然だが、俺は少し懐かしさを感じていた。
「弾丸には何を使っているんだ?」
「使用者の魔力よ。文字通り、ね。魔法は使えなくとも魔力をもて余している人間が少しでも魔法使いの様に戦えないかと模索して造られたらしいわ」
「ふーん。魔力を弾丸に……か。凄い人がいたもん…………ちっ!」
「ちょっ、なに?私、何か悪いこと言ったかしら?」
俺がマーレに「凄い人がいたもんだ」と言おうとした矢先、俺の持つ<索敵>に反応が多数確認された。思わず舌打ちしてしまったが、どうやら勘違いされたらしい。慌てて謝罪し、現状を報告する。
「悪い、別に君に舌打ちした訳じゃない。俺の<索敵>に多数の反応がでた。恐らく前の倍近くはいる」
「ちょっとまってくれ。前の倍近くと言ったら百単位だぞ。幾らなんでもそれは冗談だろう?」
「おい、皆!大変だぞ!」
俺とマーレ、ミルが会話していると、さっきの冒険者達のパーティーの斥候らしき男が帰って来て、俺と同じ情報を仲間に伝える。
「なんてこった。よりにもよって護衛クエストの最中にこんなことが……」
「早く森から出ないと奇襲されちゃうよ!」
魔法使いの少女は焦った様子でリーダーの剣士に話掛けている。流石に余裕が無いようだ。
「なあ、もし良かったら、その魔物の群れは俺が殺ろうか?」
「「「「は?」」」」
ちょっと進言したら、なに言ってんだ、こいつ。みたいな目を向けられた。
「だから、その魔物の群れを俺が蹴散らしてやるって言ってんだよ。お前達は、俺がうち漏らした数体の魔物を殺せばいい。簡単だろ?」
少し、場がざわめく。
「どうせ今さら逃げたってもう遅いよ。どのみち黙って死ぬか、戦って生きるかの違いだ。さあ、楽しく逝こうぜ」
マーレとミルは「まあ、大丈夫でしょ」みたいな顔をしている。俺は他の面子の許可を取り、魔物が溢れかえる平原に向かう。
見渡すとウジャウジャいた。正直キモかった。集合体恐怖症の人には厳しい光景だ。しかし、俺は別な衝動に駆られていた。
すなわちーーーー全部纏めて吹き飛ばしたい、と。
色々思いだそうとしても、思い出せない自分の記憶。消えない自分への懸念。昨日から胸の中に燻っているモヤモヤを吐き出したい。無作為に、叩きつけたい。
余りの数に、他の冒険者のパーティーは少し震えていた。俺に気づいた魔物が十体近く、攻めてくる。俺に焦りは無い。
「雷魔法<雷光華・爆>!!!」
ほぼ無詠唱で放たれた雷魔法Lv4<雷光華・爆>。雷で形造られた蕾が花開き、爆散。高電圧の電流が辺り一帯を感電させる魔法だ。この魔法により、先ほどの魔物達は炭化し、絶命していた。雷の余波を纏って俺は呟く。
「悪いが、全滅して貰う。拒否権は無い」