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八話・またお前か

 なぜか俺はまた例の白い空間に立っていた。

 おかしい。俺は確か今日一日の疲労を癒しガキどもと床に入ったはずだ。


「――ここはあなたの夢の中ですよ」


 困惑する俺の耳に聞き慣れた女性の声が入ってきた。黙って背後を振り返る。

 そこにはこれまた見慣れた美女が相変わらずのポーカーフェイスで立っていた。女神セルフィエラだ。


 予期せぬ再会に自然と顔がほころんだ。女神も小さく口角を上げて微笑みを浮かべる。

 両手を広げ、感動のご対面に喜び歩み寄る。


 そして、手の届く範囲まで接近したところで俺は不意打ちで女神の胸倉を掴もうとし――見えない壁に弾かれた。


「いってぇ!?」

「すみません。殴られると思いまして、あらかじめ結界を敷いておりました」


 なんの悪びれもなくそう告げる女神を、手をさすりながら恨みがましく睨みつける。この女、女神のくせしてその実とんでもなくしたたかである。


「自覚はあったんだな?」

「申し訳ありません。こちらにもいろいろと不備があったのは認めます。まさか六十年もほったらかしにしている間に、家があそこまで老朽化するとは思いませんでした」

「木造の家を六十年も無人にしてたらああなるに決まってんだろ! 六十年ってあれだぞ、後漢滅亡して三国時代がぼちぼち終わる頃だぞ」


 ほかにもクレームは山のようにあるが、何より問題なのはあの家の廃れ具合だ。


「別の家はないのか?」

「はい、ありません」

「即答するな」


 けんもほろろにはね返され、怒りを通り越してもはや不完全燃焼の嘆息しか出てこない。

 脱力感に苛まれながら、気怠く女神を睨み据える。


「……で、わざわざ人の夢にまで出向いて俺に何の用だ? ただ詫びに来ただけじゃないだろ?」

「もちろんです。私も謝罪だけで来るほど暇じゃありませんから」

「そこは嘘でも本音は隠せよ」

「なるほど、承知しました……滅相もありません、私はシグレさんに誠意を込めて謝罪に参った次第であります――なーんて嘘に決まってんだろ、テヘッ」

「お前ホントいつかしばくぞ!」


 言い直したら、むしろさっきよりも五割増しぐらいでイライラ度が上昇してしまった。特に最後の無表情で「テヘッ」なんてほざくところが人を小馬鹿にしていて腹立つ。結界がなければ今頃掴みかかってるところだ。

 やり場のない苛立ちに女神を睨み続けても、セルフィエラは歯牙にもかけず抑揚のない口調で本題に入った。


「とまあ冗談はこれくらいにして、本日はあなたにスキルについての説明に参りました」

「スキル?」

「はい。あなたのいる世界には、誰しもが持つ《スキル》と呼ばれる特殊能力が存在します。今日あの子たちが見せた力がそれです」

「ああ、あれか」


 クルシュが光を出したり、ヴィムが水を出したり、リヘナが火を出したりしていたことを思い出す。あれがその《スキル》というヤツなのだろう。光熱費と水道代が浮くから助かる。


「私はあなたがこの世界に旅立つ直前、いくつかのスキルを与えました」

「そういや力を授けるとかなんとか言ってたな。購入特典のティッシュ箱感覚で」

「はい。あなたには《鑑定》《テイマー》《解呪》それとささやかながら《幸運》のスキルも付与いたしました。詳細は《鑑定》のスキルを念じることで確認することができます」

「ああ、そう」

「ほかにご質問はありますか?」

「特にない」

「そうですか。では私はこれで失礼いたします」

「早っ!?」


 深々と一礼するとセルフィエラの体が光とともに消えていく。思いのほか短いやり取りだった。これ別に手紙でもよかったんじゃね? これ俺が無駄にイライラさせられただけだろ。

 なんとも釈然としない思いが胸中にわだかまりつつ、帰って行く女神の姿を黙って見送っていたのだが、不意に女神が忘れていたとでも言いたげに手を叩いた。


「そうでした。もし彼女たちの力を解放する時は口づけをしないとダメなので、覚悟してくださいね」

「……は? 何の話だ?」

「いずれ分かります。では、グッドラック」


 薄く微笑んでサムズアップする姿に嫌な予感を禁じ得ない。口づけなんて不穏なワードが飛び出している時点でろくでもない話なのは明白だ。

 どうにかして問い詰めようと駆け寄るがしかし、結界に阻まれ接触することすらままならない。その間にもセルフィエラの姿が徐々に薄くなっていく。


「おいコラ、説明しろ!」

「それよりシグレさん、今は私に構っている場合ではないと思います。一刻も早く目覚めた方が身のためです。急いでください」

「デタラメ言ってはぐらかすな……っ!?」


 怒鳴ろうとした直後、唐突に息苦しさが体を襲った。まるで誰かに鼻と口を塞がれているように息ができない。

 苦しさにもがく中、霞む視界の中で女神が再度一礼する姿を捉えたのが最後、俺の意識は暗い闇の底へとフェードアウトした。


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