十三話・ペット?
「というわけで、俺に冒険者は無理だ」
「どういうわけさ……」
薬草採集任務を断念した俺たちは、早々に村へと帰還していた。隣でクルシュが呆れた目線を向けてくるが気にしたら負けだ。
「結局連れてきちゃいましたけど、どうするんですか? この子」
リヘナに問われて隣を見下ろす。そこにはヴィムに撫でまわされて気持ちよさそうに寝転がるガルムの姿があった。
あのあと俺とガルムはクルシュたちに無理やり引き剥がされ、名残惜しくも別れを余儀なくされたのであったが、感動的にもガルムは飛んで帰ろうとする俺たちを走って追いかけここまで来てくれたのだ。(余談だが俺は飛んでる間気絶しており、この事実を知らされたのはついさっきだったりする)
これを友情と呼ばずして何と呼ぶ。数分にも満たないふれあいの中で俺とガルムの間には強い絆が生まれていたのである。異世界転生して初めて良かったと思えた。
俺が強い眼差しでガルムも見つめればガルムもまた俺の瞳を見つめ返してくる。俺は確信して静かに頷いた。
「よし、飼おう」
「「「ダメ」」」
「何でだよ!」
即座に却下されて思わず声を荒げてしまった。
「うちはただでさえ満足にご飯も買えないのに」
「犬を飼う余裕なんてありません」
「今すぐ森に返してきなさい」
「お前ら俺のおふくろか! 俺が責任をもって面倒見るからいいだろ!」
「余計ダメだよ! シグレが犬の面倒なんて見たらあたしたち構ってくれなくなるじゃん!」
「やっぱお前ら自分の保身しか考えてねぇな!?」
双方譲らず道の真ん中で応酬を繰り広げるもんだから、通行人の視線が滅茶苦茶痛い。
まずいぞこのまま変な噂が流れたらガルムをこの町に置いておけなくなる可能性が出てくる。早急にこいつらを説得しなければ……!
「心配するな。犬を飼ったからってお前らのことをないがしろにしたりなんてしねぇよ」
「本当に?」
「ああ、一度飼ったペットは最後まで面倒見るさ」
微笑みかけて優しく諭すと三人が黙って俺を見上げる。これはもう九分九厘懐柔できただろうと俺が勝利を確信しかけた直後、なぜかガキどもが微妙な顔を向けてきた。
「……ねぇあたしたちって、ペット的な位置づけなの?」
「ん? まあ、預かってる親戚の子供か知り合いのペットみたいなもんだろ」
俺の認識を伝えると真っ先に愕然とした反応を示したのはリヘナだった。
「そんな……私たち、同棲中の恋人じゃないんですか!?」
「誰が恋人だ! 何が悲しくてガキと恋仲にならにゃならんのだ! てか恋人三人って俺ただの外道じゃん!」
「大丈夫。この国、一夫多妻制だから」
「ああそうなのか、なんだよかった――じゃねぇよ、何も解決してねぇよ。幼女三人侍らせる関係とかいろんな意味でアウトだわ」
ヴィムがサムズアップしてきて一瞬安心しかけたが、余計話がややこしい方向にねじれただけだった。
というか今さらだけどこの会話、周りに丸聞こえじゃん。俺これ完全にロリコンの変態みたいになってんじゃん。通行人の視線が針のむしろ通り越して槍衾みたいにぶっ刺さってくんだけど。現代日本なら通報もんだよ。
やばい状況が悪化の一途をたどっている。そもそも何で俺たちこんなところで言い合ってたのか本来の議題すら思い出せない。
社会的に命の危機を感じた俺は、適当に誤魔化してここから退却することを決意する。
「とりあえず場所を変えよう。話はそれからだ」
リヘナとヴィムを小脇に抱え、クルシュを頭に乗せて全速力で逃走する。逃げたことでさらに住人の疑惑が濃厚になるような可能性もあったが、そこまで気が回るほど今の俺に余裕など残されていなかった。