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十話・鑑定スキル

 痛みが引いたのち、遅れて俺もアイシャさんの家へ向かうとすでに三人はテーブルで待機していた。一応俺を待っていてくれるだけの良心はあったらしい。

 ちなみにアイシャさんの家は俺たちの家とは比べものにならないくらいオシャレだ。どうやら独り暮らしなようで、小さいながらも掃除が行き届いており、女性らしさを感じさせる可愛らしいリビングの内装も彼女のイメージによく似合う。


「どうぞ、冷めないうちに食べてください」

「ではお言葉に甘えて、いただきます」

「「「いただきまーす」」」


 アイシャさんに促されクルシュたちとともにさっそくいただく。テーブルの前に並べられているのはパンが二つとスープ、それにチーズと少しばかりの肉が皿に盛られている。

 この町の発展度合いから推察するに、客に出す料理としてはなかなかの好待遇ではなかろうか。独り暮らしで金銭面に余裕があるわけでもなかろうに、ここまで親切にしてもらうとさすがに申し訳ない。

 一方、そう思う俺の傍らでは、


「お姉ちゃん、パンおかわり」

「どんだけ食うんだよ!? 少しは遠慮しろ!」

「いいんですよ。まだまだパンはありますから」


 親の仇のようにガツガツと貪り食う三人をたしなめるが、アイシャさんは迷惑した様子もなくテーブルの真ん中にパンの盛られたカゴを置く。それから彼女ははにかんで三人に話した。


「実はこれ、私が作ったパンなの」

「へぇ、お姉ちゃんすごい」

「とってもおいしいです」

「何万個でも食べられる」

「いや何万はさすがに無理だろ」


と、一瞬思ったがドラゴンならいけるのだろうか。現状こいつらの胃袋は未知数だ。もしも健啖けんたんなら今後、我が家の食料問題は深刻の一途をたどるだろう。

そうならないためにも早く職を見つけねば……。


「アイシャさん。この町にどこか働き口ってありますか?」

「働き口、ですか?」

「できれば手っ取り早く金を稼げる職がいいんですが」


 そんな都合のいい仕事があるとも思えないがダメ元で訊くと、意外な答えが返ってきた。


「そうですね……一応冒険者という職があります」

「え? あるんですか!?」

「はい。魔物討伐や採集などのクエストを達成することで、その見返りに報酬をもらいます。難易度が高ければ高いほど報酬額も上がりますので、一獲千金を夢見る冒険者も多いです……ですが、誰にでもできるわけではありません。ある程度の戦闘技術がなければケガどころか命すら落としかねない危険な職業です」


 なるほど、ハイリスクハイリターンか。俺は腕っぷしが強いわけではないからこの仕事は向いていないかもしれない……だが、ゲームみたいで憧れる気持ちも少なからずある。



「堅実な仕事で言えば生産系の職種はどうでしょう? ポーション作りなんかはセンスと技術がいりますが、ものにできれば高収入も期待できますよ?」

「生産職か……」


 そっちの方が安全そうではあるが、金を得るまでに時間はかかりそうだ。その間にこいつらを飢え死にさせるわけにもいかないし……冒険者か生産職か、悩むな。


「シグレさんは何か戦闘に役立つスキルをお持ちですか?」

「スキル?」


 言われて思い出す。そういえばセルフィエラが言っていたな、この世界にはスキルという概念があると。

 確か俺のスキルの一つが《鑑定》スキル。

 俺は自分の両掌を見つめ、それから目を閉じて念じた。すると、


◆倉坂時雨(21歳)レベル:1

・種族:人間

・状態:健常

《攻撃:120》《防御:110》

《体力:250》《魔力:400》

《筋力:180》《敏捷:100》

《精神:100》《知力:140》

基本スキル:《鑑定》《幸運(小)》

固有スキル:《テイマー》《解呪》


 おお、これはすげぇ。頭の中に自然と自分のステータスが浮かんできた。

 やはりこの世界に来たばかりなせいか、レベルは1で能力も低い。やはり今の俺では冒険者は厳しいか……。

 ところで、固有スキルとかいう項目に《解呪》と《テイマー》のスキルがあるが、どういう効果なんだ?

 詳細を見ると以下の文が脳内に表示された。


《解呪》

 ある特定の呪いを一時的に解除することができる。

《テイマー》

 大体の魔物が懐く。


 説明がこれまた曖昧かつ雑だな。ある特定の呪いってなんだよ、大体の魔物ってどれだよ。

 もう少し具体的に表示されないものかと粘るがこれ以上の情報は表れない。

 思ったよりこの鑑定スキル使えないなぁ。


 まあ、これを授けたのがあの説明不足と欺瞞に定評のある女神セルフィエラなのだから、このスキルのポンコツぶりは初めから予期できたことだ。


「あの……シグレさん? どうかしましたか?」


 我に返るとアイシャさんが不思議そうにこちらを見つめていた。どうやら鑑定スキルに気を取られて黙り込んでしまっていたようだ。


「すみません、少し考え事をしていました。有用なスキルは確認する限り《テイマー》が使えそうです」

「《テイマー》……初めて聞くスキルですね。もしかして固有スキルですか?」

「はいそうです」


 肯定するとアイシャさんは驚いた顔をした。


「すごい! 固有スキルを所持してる人って結構珍しいんですよ」

「そうなんですか?」

「もちろんです。基本スキルは個人差はあれ誰でも習得できますが、固有スキルはこの世に二つとして存在しないその人のみが持つ独自のスキルなんですから」


 固有スキルってそんなすごい位置づけだったのか。しかも俺はそれを二つ所持している――なんだかんだであの女神の恩恵はすごかったらしい。いまいち使い道が判然としないのが厄介だが。


 しかし改めて自分の平凡としか思えないステータスを確認してみても、これといって優れている点があるとも思えない。第一この世界の住人たちの基準が分からなければ判断しようがないのだ。


 しばしの間黙考した俺は、またアイシャさんをちらりと見返して、心の中で詫びを入れた。

 すみません、ちょっと失礼します。


◆アイシャ(16歳)レベル1

・種族:人間

・状態:健常

・身長:153cm、体重:46kg

・B85・W57・H82

・弱点:鎖骨、胸

《攻撃:80》《防御:90》

《体力:200》《魔力:400》

《筋力:90》《敏捷:110》

《精神:120》《知力:130》

基本スキル:《料理》《治癒(B+)》


 他人のは随分仔細に表示されるな……というか個人情報ダダ洩れじゃねぇか!

 やばい、想像以上にプライバシーに触れる行為だった。本当にごめんなさいそんなつもりじゃなかったんです。ただ平均的なステータスを確認したかっただけなんです。


 心の中で伝わるはずもない謝罪を何度も述べつつも、俺の視線は無意識にアイシャさんの胸へと吸い寄せられていた。言っておくが断じて『意外にデカい』などと思ってはいない。

 粛々と目線を外して、何の気なしに隣の小娘三人組の様子を確認する。

 せっかくだからこいつらの能力も見ておくか。


◆クルシュ(1000歳)レベル150

・種族:トワイライトドラゴン

・状態:呪縛(能力制限)

・身長:143cm、体重:38kg

・B67・W51・H68

・弱点:背中、太もも

《攻撃:4300》《防御:3300》

《体力:4400》《魔力:7500》

《筋力:3700》《敏捷:3800》

《精神:4000》《知力:80》

基本スキル:《光属性強化(A+)》《闇属性強化(A+)》《攻撃強化(A+)》《飛行》《神通力》《結界破壊》《精神攻撃無効》《毒無効》《全属性耐性(A+)》《レベル上限突破》《幸運(A+)》

固有スキル:《浄化》《侵食》《空間操作》


◆リヘナ(1000歳)レベル150

・種族:インフェルノドラゴン

・状態:呪縛(能力制限)

・身長:145cm、体重:40kg

・B71・W52・H69

・弱点:首筋、腋

《攻撃:3500》《防御:4200》

《体力:4700》《魔力:6800》

《筋力:4400》《敏捷:3600》

《精神:3800》《知力:110》

基本スキル:《火属性強化(A+)》《土属性強化(A+)》《防御強化(A+)》《飛行》《神通力》《結界破壊》《精神攻撃無効》《毒無効》《全属性耐性(A+)》《レベル上限突破》《幸運(A+)》

固有スキル:《噴火》《地震》《地形操作》


◆ヴィム(1000歳)レベル150

・種族:グレイシャードラゴン

・状態:呪縛(能力制限)

・身長:139cm、体重:36kg

・B65・W48・H66

・弱点:耳、へそ

《攻撃:3600》《防御:3600》

《体力:5000》《魔力:7000》

《筋力:3500》《敏捷:4300》

《精神:4000》《知力:95》

基本スキル:《水属性強化(A+)》《風属性強化(A+)》《敏捷強化(A+)》《飛行》《神通力》《結界破壊》《精神攻撃無効》《毒無効》《全属性耐性(A+)》《レベル上限突破》《幸運(A+)》

固有スキル:《凍結》《暴風》《天候操作》


 高っ!? 知力以外。見た目ちっこいのにこいつらこんなに強いのかよ。スキルも見るからに殺る気満々の戦闘特化だし、固有スキルなんて三つもあるぞ。反則だろ。

 あと状態:呪縛(能力制限)ってなんだ? まさかこの能力値でまだ万全じゃないのか?

 さすがに伝説の三大龍と呼ばれるだけあって底が知れない。

 黙々と食べ進める少女三人の姿を、俺はしばし唖然として見つめる。


「もしもしシグレさん? 大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫です」

「そうですか。それであの、お仕事の方はどうされますか?」

「そうですね……」


 アゴに手を当て考える素振りをするが、実はもう何の職を選ぶかはすでに決まっていたりする。ちらりと小娘三人を一瞥してから、薄く微笑んでこう答えた。


「少し冒険者に興味があるので、自分で調べてから決めようと思います」

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