無知世界
ミキトはとても騙された様な気分だった。
世界が消滅するとか。
自分の存在がなくなるとか。
要するに彼女が出来たのになかったことになったのだ。
(こんな酷い話しはないだろ…)
ミキトはそう心の中で叫んだ。
激しい光は相変わらず続いており、ミキトはずっと目を閉じていた。
しばらくすると、清々しいような陽気と、爽やかな風、鳥のさえずる声が聞こえてきた。
目を開けようとしたその時、
「動くな!!」
突然先ほどとは違う女性の怒号のような声がした。
驚いたミキトは閉じていた目を見開いた。
最初に、目に飛び込んできたのは1本の矢だった。
その矢はとてつもない早さでミキトの左頬をかすめ、5mほど後ろの木に深く突き刺さった。
恐怖で動けないミキトの左頬から少し血が流れた。
「ん?」
その女性は少し驚いた表情をしたが、すぐにこちらを睨んだ。
女性は俺の立っている場所から100mは離れているであろう木の上から弓を構えたまま、軽快に木から飛び降りこっちに近づいてきた。
「ちょ、ちょっと待って!俺はなにもしないって!」
ミキトは命乞いをするように大きな声で言った。
「なんだお前は?盗賊の仲間じゃないのか?」
「それになんだその奇妙な格好は?」
よくわからないが盗賊と間違われたらしい。
ミキトの服装は学校帰りなので当たり前だか制服だった。
「と、盗賊!?生まれてこの方万引きもしたことありません!!」
聞きなれない言葉に混乱したミキトはよくわからないことを口走った。
「そうか、すまんすまん。今しがた盗賊を追っ払っていたところだったから、仲間だと思ってしまった。まぁ怪しい奴には変わりないんだが」
どうやら悪い人ではなさそうな感じにミキトは安堵しながらも、自分が怪しい奴だと自覚をしていた。
「で、お前は何者で何処から何しに来た?」
「この辺りでは見かけない顔に服装だが?」
尋問のような質問を女性がしてきた。
「え、えと、日本って国から髪の長い女性にこっちの世界が大変だから来てくれって連れてこられました」
オドオドしながらミキトは答えた。
「日本?聞きなれない国名だな?」
「その髪の長い女性の連れはどこだ?」
「え?あ、あれっ?」
辺りを見渡すとそこは森の中で、ここにミキトを連れてきたはずの女性どころかミキトと目の前の女性以外誰も居なかった。
「うーん。要するに迷子か」
なんか物凄く子供扱いされたような感じで釈然としなかったが、取り敢えず命の危機は脱したようで安心した。
「私の名前はフォーラム・リ・エリスだ。」
「エリスって呼んでくれ。お前の名は?」
「咲間ミキトです」
突然の自己紹介が始まった。
「サクマ・ミキト?名前まで聞きなれないな」
「嘘ばっかり言ってないよな?」
エリスは疑いの顔でミキトの顔を覗き込んだ。
「う、嘘なんかついてません!!」
急に近づいたエリスの豊満な胸元をチラ見しながら顔を少し赤らめて言った。
「なんで顔が赤くなるんだ?まあ嘘つきの顔ではなさそうたな」
初めてエリスは笑顔を見せながらそう言った。
「もうすぐ夕暮れだ。行くあてがないならうちの村に寄って行くかい?」
「悪い奴じゃないなら歓迎するよ」
「え!いいんですか!」
ぐうぅぅぅ〜
安心とともに空腹もやってきたらしい。
「あっはっは!お腹はもう準備万端みたいだねぇ〜」
ミキトはエリスの行為をありがたく受けることにした。
ザッザッザッ…
とても静かで穏やかな森中で足音が響いていた。
そんな静寂の中、エリスが話しかけてきた。
「ミキト、だったかな名前は?」
「は、はい!」
エリスは改めて見ると、とても美しい女性で、ミキトは少し緊張をしていた。
「そんな緊張をするな、とって食ったりはしない」
エリスは笑いながらそう言った。
(そういうことじゃないんだけどな…)
ミキトはそう思ったが口にはしなかった。
「ミキトはなにをしにここにきたのだ?」
エリスは先ほどの聞きそびれた質問をもう一度した。
「えっと…目的はペンダントを探しに…かな?」
そう答えるとエリスの足が止まった。
「ペンダントだと…?」
エリスはこちらを振り向き出会った時のような鋭く冷たい視線でミキトを見ながらそう言った。
「どんなペンダントだ?誰に頼まれた?」
続けてエリスは質問した。
「ど、どんなペンダントかはわからない…」
エリスの眼差しは心を見透かしているよう鋭く、その目で睨まれると嘘をつけなくなる感じがした。
蛇に睨まれた蛙、まさにそんな状況だ。
ミキトは少し怯えながら答えた。
「そうか…誰にどんなペンダントを頼まれたかは知らないが、そのことはあまり口にしないほうがいい」
「わ、わかりました…」
あまり下手に変なことは言わないほうがいいな、とミキトは思った。
ミキトがそう返事をすると、エリスは目線を前に戻し黙って村の方角に再び歩みを進めた。
気まずい雰囲気の中、30分ほど歩いただろうか村の入り口が見えてきた。
「さぁ着いたぞミキト!」
そう言って振り返ったエリスは優しい顔に戻っていて、村に着いたことと相まってとても安堵した。
空は夕焼けで赤く染まっていた。
ミキトはエリスに連れられ村の門をくぐった。
「ん?」
ミキトが村に足を一歩踏み入れた時少し違和感を感じた。
「なんだミキト?感じることができるのか?」
ミキトはエリスの言っている意味はわからない。
「村には結界が張ってあるから、邪悪なものは寄りつかないから安心していいぞ」
(邪悪なもの??)
「おう、エリスおかえり。今日は早かったな。獲物は捕まえられなかったみたいだな」
村に1番近い家の前にいた男がエリスに話しかけてきた。
「ただいま。今日は盗賊を追っ払ってたし、迷子の子猫ちゃんを拾ったから早めに帰ってきたんだ」
(迷子の子猫ちゃんってもちろん俺のことか…)
ミキトはまた子供扱いをされたような感じがしてムッとした。
「お、旅の人か。珍しいな。ゆっくりしていくといい」
このおっさんも優しそうだとミキトは思った。
「ありがとうございます!」
ミキトは深々とお辞儀をした。
男と挨拶を軽くかわした後、2人は村の中心部へと歩いて行った。
「エリスおねぇちゃ〜ん!」
次に会ったのは小さな子供達3人だった。
「ただいまぁ」
エリスが見せた笑顔はまるで聖母のように見えた。
「あれ?このおにぃちゃんだ〜れ?」
子供はどこに行っても無邪気なものだ。
「森で迷子になってたんだよぉ〜」
「ははっ…」
ミキトはエリスの子供扱いに慣れてきたのか苦笑いで子供達に笑いかけた。
「まいごだってぇ〜あはは〜。ねぇ〜おにぃちゃん遊ぼうよ〜」
「コラコラ、お兄ちゃんは旅で疲れてるんだよ。休ませてあげなきゃ」
「え〜〜!」
子供達は納得していなかった。
ドサッ!
ミキトは突然倒れた。
「おい!ミキト!大丈夫か!」
ミキトは森の中を歩くのは慣れていなかった。
なにより非現実的なことが次々に起こり、心身共に疲れ果てて倒れたのだった。




