無実
激しい光の中に包まれたミキトは、目を開けることもままならず腕で目を覆い隠しながら立ち尽くしていた。
徐々に光がなくなっていくのをまぶたの裏側で感じたミキトは少しずつ目を開けていった。
次々と起こる非現実的な事に混乱しているミキトの目に飛び込んできたのはなんと…
牢獄の中だった!
「え〜〜〜〜〜!!!」
ミキトは叫んだ。
それもそのはずである。
世界を救って欲しいと謎の女性に言われてみてきた所がなんと牢獄の中とは、
ミキトは騙されたような最悪の気分だった。
「な、なんだよここ!!」
続けて叫んだ。
「うるさいぞ!新入り!!」
隣であろう牢獄の中から男の怒りの声と、ガシャン!と鉄格子を蹴り飛ばす音に、ミキトは恐怖で身がすくんだ。
「す、すみません…」
ミキトは咄嗟に謝った。
状況が理解できないミキトはしばらく牢獄の中で立ち尽くしていた。
「王女様こちらです」
牢獄の中からは見えない位置から牢獄の中の男でないであろう男の声がした。
カツ…カツ…カツ…
ゆっくりと女性のような足音がミキトの牢獄の方に近いてくるのがわかった。
(王女様?がいるのかここには?)
ミキトは他人事のように近いてくる王女であろうの足音を聞いていた。
そしてミキトの牢獄の中から顔が見える位置まで来た時、王女の顔を見たミキトはスローモーションの様に1秒が10秒の様に感じたのだった。
「あっ!!」
ミキトは驚き声をあげた。
「えっ?!」
王女もミキトの声に驚き声をあげた。
「え?あっ?か、髪切った??」
ミキトの目の前に現れたのはここに連れて来たであろう謎の女性にそっくりだった。
しかし顔は似てるものの髪の毛が短くなっていて、訳も分からずミキトは変な言葉を口走ったのだった。
「え?か、髪の毛は切るときは勿論ありますがさ、最近は切ってませんよ??」
王女は驚きながらも丁寧な口調で答えた。
「そ、そうなんですね…」
ミキトは納得がいかない顔で首を傾げた。
次にミキトは視線を王女の顔から少し下げた。
「あ!ペンダント!!」
ミキトは謎の女性から頼まれたペンダントを破壊して欲しいという言葉を思い出した。
「え、え?そ、そうですよこれが先ほどのペンダントですよ」
ミキトの挙動不審な言動に少し苦笑いをしながら王女は答えた。
(先ほどのペンダント?壊して欲しいペンダントってことなのか?)
ミキトはそう解釈をした。
「ミキト、本当にごめんなさい。あなたの疑いは必ず晴れると思いますから、もう少しだけここで辛抱してくださいね」
ミキトは王女の言っている意味が全く理解できなかった。
聞きたい事が山ほどあったミキトは王女にたずねようとした。
「あ、あの」
「はい?」
王女は不思議そうな顔をした。
その時
ドカーーーーン!!!
物凄い音と共に地響きがした。
「王女様!大変です!奴らがまた攻めて来ました!」
「早く地下通路からお逃げ下さい!」
別の男が焦りながらこっちに来た。
「ちょ、ちょっと待ってミキトが…」
王女の言葉を無視し、男2人は王女を避難させるべく連れて行ったのだった。
牢獄の中に取り残されたミキトは相変わらず呆然と立ち尽くしていた。
外では轟音が鳴り響いていた。
ドカーーーーン!!!
更に大きな音と共に上から瓦礫が落ちてきた。
「うわぁーー!し、死ぬかと思った…」
ミキトは間一髪瓦礫の下敷きにならなくてすんだ。
落ちて来た瓦礫の方を見るとそこには穴が空いており夜空が見えていた。
どうやらここは地下牢だったのだ。
「ら、ラッキー!あそこからでれ…」
ミキトは出れると思ったのだがとても出れるような高さではない事に気付き、落胆したのだった。
「ミキト!さぁ来るんだ!」
落胆したのもつかの間、空いた穴から手を差し伸べ、自分の名前を呼ぶ声がした。
「クミコか!?」
自分の名前を知る人がいるってことはここは全く知らない世界ではなかったんだとミキトは思った。
しかし月明かりもないのか、顔が暗くてよく見えなかった。
ミキトはクラスメイトの名前を適当に呼んだのだった。
「なにを馬鹿な事を言っている!自分の疑いを晴らすんだ!」
手を差し伸べてくれた女性はそう言った。
ミキトは意味はわからなかったが、助けてくれるならなんでもいいと思った。
その女性の助けで牢獄を脱したミキトが見た光景は悲惨なものだった。
場所は中世のお城のようだ。
辺りは煙が上がり所々崩れていた。
兵士らしき人も沢山倒れてた。
ミキトはただの平凡な高校生である。
勿論戦争なんか経験したこともなかった。
足はすくみ息は詰まっていた。
ガキン!ガキィーン!
鉄製の物が激しくぶつかる音を耳にし、そちらの方を見ると、
園庭のような場所で戦っている1人の男がいた。
その男の周りにはこの世の物とは思えない翼の生えた女が何人もいた。
しかもよく見るとその何人もいる異形の女は全て同じ容姿をしていたのだ。
あまりの状況にミキトは吐きそうになった。
ここでミキトは自分の使命を思い出した。
そう、ペンダントを破壊することだ。
ペンダントを破壊することでこのありえない状況から抜け出せるかもしれないと思ったのだ。
ふと周りを見渡すと、牢獄から助け出してくれた女性の姿が見えなくなっていた。
「うぅ…」
近くに倒れている兵士のうめき声をきいた。
ミキトは生きてるんだと思い近づいた。
「あの!大丈夫ですか!?」
「すみません城から抜け出せるような地下通路ってどっちですか!?」
ミキトは王女を連れて行った兵士の言葉を思い出しペンダントを破壊するべく王女の居場所を知ろうとしたのだ。
「うぅ…」
兵士は今にも息絶えそうなうめき声をあげながらゆっくりと指をさした。
「ごめんなさい…ありがとう…」
ミキトはその兵士を助けるすべをもたない。
見殺しにする自分へ謝ったのかその兵士に謝ったのかもわからず、ミキトは兵士が指さした方向へ走り出した。
ペンダントを破壊することがこの世界を救うこと。
ミキトはそう自分に言い聞かせ、全力で走った。
「はぁ…はぁ…」
ミキトは平凡な高校生。
マラソン大会でも中の下の成績だったミキトはすぐに疲れ、息があがっていた。
ミキトは迷路の様な城を当てもなくただただ兵士の指を指した方角へと走っていった。
そして曲がり角を曲がった瞬間、目に飛び込んできたのは、
なんと先ほどのまで男と戦っていたはずの異形の女が今にも王女を殺す事ができるぐらいの位置に立っていた。
ミキトから王女の距離まではまだ遠く、とても助けられると思えなかった。
しかしミキトはペンダントを破壊するということだけを考え全力で突っ込んでいった。
「うぉぉぉぉおおおお!」
ミキトは叫んだ。
その叫び声に、異形の女も王女もミキトに気付いた。
「み、ミキト…きちゃだめ…」
王女の声はミキトには届いていなかった。
しかし次の瞬間。
ミキトの周りに風が走りミキトは体が浮くような感覚に襲われた。
「なっ!」
それはミキト自身も驚いたが、ミキトは疾風の如く駆け抜け一瞬で王女の元まで辿りついたのだった。
「な、なに!」
これには異形の女も驚きを隠せなかった。
「おおおおおおぉぉぉ」
ミキトは王女の元に辿り着き異形の女に背を向ける形で王女との間に割り込んだ。
そして、ペンダントを掴んだ。
「これでこわせ…」
グサッ!
「え?」
ミキトがペンダントを破壊できると思ったと同時に、ミキトの体は右脇腹から大きくなにか鋭いものでえぐられた。
「嘘だろ…」
ミキトは絶望した。
死を悟ったのだ。
ペンダントを破壊する力なんて残っていない。
使命を果たせなかった。
そう思ったミキトは涙を流しながら倒れた。
「まだ諦めないで」
誰かがそう言った気がした。
王女が言ったのかとミキトは思った。
次の瞬間、
ミキトが倒れながらも必死で握りしめたままのペンダントが強烈な光を放った!
「なんだこの光はぁぁ!」
異形の女の顔が歪んだ。
その光は柔らかくミキトの体を包みこんだ。
この状況は牢獄に来る前と同じ感じにも思えた。
瀕死のミキトは目をつむったまま動くことはできなかった。
ミキトは意識が遠のいていく…
自分はもう死ぬのか…
ミキトは人生で初めてできた彼女の、恥ずかしそうな笑顔を思い出していた。
(死ぬ前にデートぐらいしたかったなぁ…)




