前進せよ 鉛の壁
「し、仕留めるって本気なの!?二人しかいないし、私なんか戦力外じゃない!」
「ええ、分かってるわ。だからあなたは私から離れないで。」
ハンドガンで空を切り、握る右手に軽く力を込めるとハンドガンが鈍く輝いた。
その隙を狙って、獣が一頭こちらへ向かってくる。
「・・・バカね。」
呟き、銃を構えた瞬間に発砲する。
一発だけ放たれた弾丸は寸分の狂いもなく獣の眉間を貫いた。
絶命した獣は勢いだけを残して雨音の前まで転がった。
近くで見るとよりいっそうおぞましいその姿に、雨音は軽く吐き気を催した。
「・・・まずは一匹。」
討伐した獣には見向きもせずにじっと正面を睨み付ける理沙、
獣も一瞬出方をうかがっていたようだが、すぐに襲いかかった。
二頭同時に通路の両端に別れるようにして、彼女の弾丸を撹乱しようとしている様にも見えた。
「まさか、知能があるの!?」
「ええ、そうよ。」
しかし彼女は取り乱すことはない。
冷静に一頭に標準を定め、撃ち抜く。
即座にもう一頭に切り替え、これも一撃で沈めた。
「奴らにあるのは知能と学習能力、それと人間を襲うという思考回路のみ。私たちは『アニマ』と呼んでいるわ。」
「アニマ・・・?」
「ラテン語で生命と呼ばれる元の言葉に動物のアニマルを足した言葉らしいわ。その正体は・・・っと、雑談している場合じゃなさそうね!」
アニマと呼ばれる獣たちはその数を半数までに減らされていた。
その危機的状況が、彼らの知能に指令を下す。
残された三頭が集まり、体毛を逆立て、その一つを二人に向けて射出した。
真っ直ぐと高速で進むそれは理沙の頭を一直線に狙っている。
「くっ・・・!」
しゃがみこんでかわすと、その体毛は後ろの壁に突き刺さった。
「な、何あれ!?」
「奴らの名前はウルフ・アニマ、群れでの活動を基本としている種で、その数が減ると体毛の一部を硬質化して発射するの。鋭利な上に猛毒、面倒この上ない攻撃よ。」
未だにウルフ達は体毛を逆立てている。
臨戦態勢を解除する気は毛頭無いらしい。
「・・・仕方ないわね。粗っぽいけど、こっちもゴリ押しで行くわよ。」
理沙が手にしたハンドガンを額にそっと当て、瞳を閉じる。
ハンドガンを包んでいた光が徐々に強くなり、やがて収縮した光がハンドガンに吸い込まれていった。
一頭のウルフが遠吠えし、それを合図に無数の硬化した体毛が弾幕のように襲い来る。
それとほぼ同時に、理沙はハンドガンを再び構えた。
「バレットウォール!!!」
彼女が引き金を高速で引くと、先ほどまでとは比にならない量の弾丸が射出され、ウルフの体毛を全て弾き落とす。
片手で撃っているとは思えない量の弾丸が、さながら鉛の壁を形成しているようだった。
それだけではない。
ゆっくりと、彼女は前進していたのだ。
ウルフのほぼ隙のない体毛の槍の段幕を、それを上回る密度の段幕で押し返していた。
そして、ついに両者のその距離は二メートル程となり、
ウルフの段幕が途絶えた。
「・・・終わりよ。」
━━━三連続で響いた発砲音は、通路に静寂をもたらした。