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萌えよ 戦場~オタクの最終戦争(ラストウォーズ)~  作者: Kureo
ミッション・オブ・エスピナージ
5/42

決意せよ 潜入任務




快適な椅子、快適な温度に快適な乗り心地。


前から後ろへ流れていく景色は、今はもう、雨音にとって全く見覚えのない風景に変わってしまった。


車に揺られて十数時間、広い車内のおかげで体に不調は全くなかった。


全くなかったが、雨音の精神面は大打撃を受けていた。


「雨音様、見えてきました、東京です。」


運転手が振り返らずに告げる。


車内には雨音の他にはこの運転手しかいなかった。


やたら広い政府専用車をほぼ貸切状態、


一般高校生である雨音がなぜこのような待遇を受けることになったのか。


それは、彼女の功績・・・いや自業自得と言った方がいいかもしれない。


車が速度を緩め、路肩に停車すると運転手がドアのロックを解いた。


「私が案内できるのはここまでとなっております。これより先は、軍人が立ち入ることはできませんので。」

「はぁ、いよいよかぁ・・・」

「潜入任務の遂行、くれぐれもお気をつけください。」


ドアを開け車を降りると、ぬるく湿った夏の夜風が雨音の頬を撫でた。


軽く周囲を見渡すと至るところに寂れた高層ビルが見える。


日本の中心、東京。


かつては多くの人が集まり超過密都市とまで言われていたが、


今はその面影はほとんど見てとれない。


ここから先は戦地、治安も良いかはわからない。


「・・・道なりに進めば夜明け前には着くかと思われます。」

「よ、夜明け!?今まだ10時だよ!?」

「ご安心を。こちらは激戦区ではないので、命の方は安全かと。」

「命の方はって・・・」


他にも色々保証してほしかった。


女子高生が夜道を一人で、とか危険な香りこの上ない。


「・・・雨音様、覚悟をなさってください。これはあなた様ご自身がご決断なさったことでしょう?」

「そう、だけどさ・・・」


昨日、雨音は防衛省と対談した。


いや、対談と呼べるものではない。


会話のペースは完全に防衛省側だった。


一見対等に話せたようにも思えるものだが、多対一という状況は少なからず雨音にプレッシャーを与えていた。


・・・そう思い込むようにしていた。


「報酬は任務完了後に雨音様の口座へ振り込まれます。それでは、御武運を・・・」


そう言い残して去っていく運転手とその車、


「報酬・・・そうだよ、全ては5億のため。」


この任務に成功すれば一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入る。


雨音はそれだけをモチベーションにこの仕事、潜入任務を受けた。


早い話、お金に目が眩んだのだ。


「たった2年間働くだけで後の一生が楽になるんだ。こんなに効率のいい仕事はないよ。」


言い聞かせるようにして自らを鼓舞し、


町を包む夜の静寂の中、雨音はオタク領地への一歩を踏み出した。











━━━━━━━━━━━━━









月光と星明かり。漆黒の空に輝く、白く鈍い光が銃身に反射する。


乱れた呼吸を整え、手にしたハンドガンに意識を集中させる。


微かな重量の変化だが、その微細な変化を見逃すことはない。


彼女にとっては幼い頃からの相棒だ。


「・・・こちら3班、敵影を捕捉したわ。応援をお願い。」


インカムに応援を要請するが、応答がない。


中心街から随分と離れてしまったので電波の通りが悪いようだ。


ため息を一つ吐くと物陰から背後を見る。


青い瞳が捉えたのは、異形の獣。


クモのように地面へと延びる足、3対の複眼、蟲のような体躯に狼のような顔と牙を持つその姿。


どの図鑑を探そうとその情報を得ることは出来ない、敵国の産み出した生物兵器。


「一体・・・いや、倒すと仲間を呼ぶ・・・」


インカムからの返答は依然として返ってこない。


周囲に味方の姿はいない。


しかし放っておけば、奴は必ず被害を出す。


一人で狩るしか選択肢はなかった。


「・・・戦闘開始。」


掛け声と共に向かいのビルへと走る。


その瞬間に獣が標的を彼女へ定め、高速で突進を開始した。


「気持ち悪い・・・!」


ハンドガンで襲い来る獣を撃つ。


高速で射出された弾丸は獣の複眼を容易く破壊する。


視界の一部を失い奇声を発する獣を横目にビルの階段を駆け上がり、


あっという間に屋上へ着くと、見下ろす先に獣を捉える。


視界に慣れた獣が再び彼女を狙う。


「あなたは・・・眼中にない。」


まぶたを閉じ、ハンドガンに意識を集中させる。


するとハンドガンを形成する形が弾けると弾けた粒子が別の形へと姿を変える。


ハンドガンよりもずっと大きく、スマートな見た目、火力も段違いの黒色のスナイパーライフル。


スコープに写る獣をじっと見つめ、


そして、引き金を引く━━━



数秒の間、獣は認知することができなかった。


弾丸の行方も、自らが既に致命傷を負っていることも。


天を仰ぎ、ゆっくりと倒れて霧散していく獣をスコープ越しに眺め、ほっと一息ついた。


端末を取り出し、マップを広げると彼女へ近づく印がいくつかあった。


「よかった。援軍は間に合ったみたい。」


マップを閉じホーム画面に戻ると、そこに写るのは二人の少年の画像、


それを見た彼女は恍惚の表情を浮かべて吐息を漏らす。


「あぁ、なんて尊いの・・・この戦場で戦い続けられるのは、貴方達のおかげ・・・」


目を輝かせて画面を見つめていると、インカムから通信が入る。


渋々といった様子で画面を閉じ、気持ちを切り替えた。


「こちら3班。・・・人影、東北東に?援軍じゃなくて?」


スナイパーライフルを持ち上げ、スコープで東北東を見やると、


そこには確かに人影がいた。


武装はしていない、見慣れない女。


年齢的に女子高生くらいだろうか。


「・・・エリアSより東北東距離800、非戦闘員を確認。見慣れない服装をしているわ。」


あの少女はどこから来たのだろうか。


彼女の来た方向は確かオタク領ではなかったはず。


あれこれと考えているうちに指示の伝達をされた。


「・・・了解。3班班長、氷川理沙ひかわりさ、非戦闘員との接触を試みるわ。」


ライフルから意識を反らし、空を見上げる。


東の空がうっすらと白んでいく、


夜明けはもうすぐだった。




~ミッション・オブ・エスピナージ fin~







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