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萌えよ 戦場~オタクの最終戦争(ラストウォーズ)~  作者: Kureo
ミッション・オブ・エスピナージ
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決断せよ 国家機密




「・・・よし。ここなら、誰の邪魔もなく話せるな。」


彼女に連れてこられたのは生徒指導室だった。


特別棟と呼ばれる日常的には使用されない教室が集められた場所の更に奥、


早い話、普段は誰も寄り付かない密室だ。


時に不良がサボりに、稀な例としてはカップルのホテル代わりに使われることもあると言う。


どちらにしても、あまり長居はしたくない場所だ。


「そうですね、包み隠さず話してもらいますよ。試練とやらについても、オタクについても。」


雨音はこの機会に得ることの出来る情報は出来るだけ得ておきたかった。


別に知ったところでどうもしない、


ただ気になるのだ。


この国を内乱へと導いた者達のことが。


「・・・そうだな。では、少し昔の話をしよう。長くなる、適当に腰かけてくれ。」


促された雨音は近場のソファに腰を下ろした。


ギシギシと言う音が薄暗い密室にこだまする。


「・・・やつらが世間に知られるようになったのは、2000年前後の事だ。それまでも活動はしていたが、あまり表に出ることはなく、言わば影の住民だった。しかし、事態が動いたのは2022年の事だ。」


声色を変えず、淡々と話すイスルギ。


その表情は、恐ろしい程に冷たいものだった。


「きっかけは街中での出来事だった。路上を歩いていたオタクと市民が衝突、暴動が起き、あっという間に数十人が病院送りとなった。しかし、オタクは誰1人として病院には行かなかった。やつらは集団による攻撃でダメージを最小限に押さえた。思えばこの時から、やつらの得意とする集団戦闘の基礎は既に完成されていたのだ。」


何てことだ。


圧倒的な多勢に無勢、それがやつらの戦闘形式なのか。


想像するだけで冷や汗が垂れる。


「この事態を重く見た政府は一つの法令を出した。これは学校で何度も習っているだろう、『オタク禁止法』だ。これによって国内からオタクの種とも呼ばれるもの、我々が『ハームフル・メディア』と呼んでいるものが姿を消した。」

「ハームフル、メディア・・・それってどう言うものなんですか?」

「ハームフル、害となる。メディア、媒体。オタク達が好む趣味嗜好を象徴したものだよ。平面に描かれた動く害悪、『アニメ』と呼ばれるものなどだな。」


アニメ・・・聞いたこともない単語だ。


いったいどんなものなのか少し興味はあるが、まともなものではないのだろう。


「ハームフル・メディアの消滅によりオタクは自然に浄化されると思われていた。・・・だが、歯車は最悪の回転を始めたのだ。それが・・・」

「第一期秋葉原事件・・・」


歴史の教科書に大々的に貼られていた写真が印象的だったのを覚えている。


緑や青など、色彩豊かな髪の毛をした集団が秋葉原を占拠していた写真、


これにより秋葉原は完全にオタクの手に堕ちてしまったらしい。


「・・・そこからのやつらの侵略はまるであっという間だった。秋葉原駅を拠点とし、山手線が3日で堕ちた。」

「3日で・・・!?く、国は何か行動を起こさなかったんですか?」

「ああ、当然起こしたさ。だが奴等の集団戦法には国の軍では全く歯が立たなかった。記録によれば、まるで正体不明の化け物を相手にしているようだった、とまである。」

「そんなバカな、相手はただの人間ですよね?」

「いや、一概にもそうは言えない。現に我々防衛省は、やつらとの戦闘は人間を相手にしているとは思わないようにしている。それほどまでに恐ろしい連中なんだ。」


わからない。


疑問を解決するためについてきたはずが、疑問を増やしてしまった。


実際、オタクが戦争を続けるメリットがわからない。


なぜ3世紀もの間、国を敵に回してまで戦い続けるのだろうか。


「・・・こんなところか。何か質問は?」

「・・・あの、オタクのことはある程度わかりました。危険なやつらだってことも、学校では教えてくれないような深い話も聞けていい経験になりました。でも、一つ疑問が。」

「ほう、話したまえ。」

「どうして、こんな田舎の学生達を訪ねたんですか。試練って、何ですか。どうして私が選ばれたんですか?」


オタクは危険、


それならばこんな学生に構っていないで軍事開発でもするほうがよっぽど有意義ではないのか、


訪ねた目的である試練とは、


そしてなぜ平凡な女子高生である自分が選ばれたのか。


疑問は身近の物の方が多い。


「それについては今から話そうと思っていた。・・・水鳥雨音。」

「は、はい・・・」

「これから話す内容は末端とはいえ、国家機密の最重要プロジェクトだ。他言は一切許されない。約束してくれるな?」

「は、はいっ!」

「いい返事だ、やはり君を選んで正解だったな。」


イスルギがソファから立ち上がると、護衛?部下?らしき人たちがその後ろに整列した。


一切の乱れもない統率された行動に雨音は少し畏怖の感情を抱く。


イスルギはしばらく見つめるように雨音を見ていたが、


数秒の後に、冷たい刃物のような眼差しに豹変する。


「・・・2年後だ。」


やがて彼女は、落ち着いた声色で淡々と告げた。


「2年後で掃討作戦は最終段階に入る。この作戦は3世紀に渡るやつらとの決着をつけるもの。作戦の名は━━━『最終戦争ラストウォーズ』」

「ラスト、ウォーズ・・・」

「数年前から計画されていたこの作戦は、国の全兵力を以てオタク共を抹殺するというもの。抑制でも、鎮圧でもない。やつらを待つのは、死と言う名の償いだ。」


これまで国は抑制こそすれ、オタクに対して大規模爆弾や殺戮兵器と呼ばれる非人道的な作戦は行ってこなかったと言う。


それはたとえオタクでも元は国民、むやみやたらに殺してしまうわけにはいかなかったからだ。


しかし、300年という長い年月が国家にとって忍耐の限界を迎えたのだ。


「・・・すでに兵器、人員は完成しつつある。残すはほぼ無いに等しい奴等の情報の収集。これにはすでに顔が割れている軍人が行くわけにはいかなかったのだ。」

「ま、まさか・・・」

「そう、水鳥雨音。君には国家のスパイとして、オタク領に潜入して欲しい。」


イスルギの目は本物だ。


決してからかいや冗談で言っているわけではない。


彼女は雨音に、オタクは危険な存在であるということを十分に話した。


そして雨音がそれを理解したのも分かっているだろう。


全てわかった上で雨音に頼んでいるのだ。


「どうして、私が・・・」

「もちろんリスクは承知だ。その上でお願いしたい。国家のためにこの危険な任務を請け負って欲しい。」


イスルギが合図を送ると、整列していた部下の一人が3つほどトランクを持ってきた。


開かれたそのトランクに入っていたものは、


「・・・こ、これは・・・!?」

「5億だ。任務成功の暁には所得税なして君に贈呈しよう。」


いきなり目眩がするような額を出されても戸惑うだけだ。


雨音の脳内は既にキャパオーバーしている。


なにより命の危険が伴うのだ。


目先の金にやられて軽はずみな選択をするわけには・・・


「さあ、君の答えを聞かせてくれ。」


雨音の答え。


それは今この瞬間に決まった━━━






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