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萌えよ 戦場~オタクの最終戦争(ラストウォーズ)~  作者: Kureo
スキル・オブ・ジャンルレス
18/42

戦慄せよ 八足の海洋類






旧羽田空港前の駐車場に車を止め、まずはターミナルを目指す。


広大な敷地の各所にはかつて賑わっていた空港の名残が見えた。


「静かだね・・・」

「この空港が機能しなくなったのはここ最近じゃないわ。昔は日に数十万人が利用していたそうだけど、今となってはただのアニマの巣窟よ。」


確かに先ほどからいくつものアニマがこちらをにらんでいる。


しかし、なぜかどの個体も攻撃を仕掛ける様子は見られなかった。


多くが力なく床に伏し、起き上がっているものも立つのがやっとという状態だ。


「ここは旧東京国際展示場、つまり神アニメから比較的近い場所にあるからな。軟弱な個体が雨風をしのぐためにここへ侵入すれば、たちまち使い物にならなくなる。」

「つまりここは私たちにとって有利な戦闘場所なんだぁ。雨音の初任務をここに選んだのはそういう理由もあるんだよぉ。」


機能が停止しかけているアニマが相手なら私も戦いやすいだろう。


彼らの心遣いをありがたく受け取り、


即座に私は背中に差した剣を握った。


ほぼ同時、いやそれよりも早く3班の全員が武器を構える。


「・・・まあそれでも個体によっては抵抗できるのもいるんだけど。」

「そういう奴は、やはり逐一潰していくんだ。」

「室内だと戦いずらいんだけどねぇ。」


目の前には、ウルフアニマ、だろうか。


だが、私が始めてみたときとは見た目が少し違う。


まず目を引くのは体の形がハッキリしないほどの荒れた剛毛、


目の焦点は合っておらず、開かれた口からは血が滴り落ちている。


それでも、感じる殺気はより濃く、より強力に感じる。


「感染種・・・長い時間神アニメの神気に当てられ、体を蝕まれてなお殺意だけを膨らませた種。」


理沙はゆっくりとハンドガンの弾をリロードし、


「・・・やつらに罪はない。ただの人間の身勝手で、生きるために殺気を無理やり膨らませられた哀れなモノ。」


紅は指先だけ龍の鱗を纏い、


「この子達も元々は普通の動物なんだぁ。こんな子を増やさないためにも・・・」


すももは手にしたハンマーにオーラを従わせた。


「私たちは、戦い続ける・・・!」


理沙の言葉が終わると同時に、一斉に一撃だけ攻撃を繰り出す。


その三連の攻撃は的確にアニマの急所を貫くと、


アニマはゆっくりとその場に伏せ倒れた。


「・・・行きましょう。印は滑走路を指しているわ。ターミナルを伝えばすぐに着くはずよ。」


そして驚くほど淡々と三人は歩き出した。


私は倒れたアニマを一瞥すると、置いていかれないように早足でその場を去り、皆を追いかけた。

























数十分ほど歩いただろうか。


道中、数回アニマと戦闘になったが、いずれの戦闘も私の出る幕はないほどあっさり終わってしまった。


こうも簡単な任務なのか、いやそんなはずはない。


疑わしいがまだ任務は終わっていない。


建物の中に目標はいなかった。


つまり標的であるアニマは最後に残されたこの滑走路にいるらしい。


とはいえ、


「このだだっ広い滑走路から一匹のアニマを探すのは手間だねぇ。」


その通りだ。


眼前に広がるのは見渡す限りのアスファルト、そして散乱した様々な廃車や機材。


車の中や機材の隙間に隠れられていたら探すだけで日がくれてしまいそうだ。


「・・・仕方ないわね。紅、お願いね。」

「やれやれ、俺は魚群探知機じゃないんだぞ・・・」


紅はため息をつくとおもむろに目を閉じた。


そして、紅の髪の一部がみるみるうちに変色し緑がかった色に変わる。


彼の能力が発動しているのだ。


「・・・どこだ・・・違う・・・なら・・・」


ぶつぶつと何かを呟く彼の後ろで私はただ呆然とするしかなかった。


「・・・っ!?冗談、だろ・・・!?」


彼は驚いたように言葉を漏らすと、即座に右腕のほぼ全てを龍の腕へ変貌させる。


その表情は何かに焦っているようだった。


「理沙ッ!貴様、今回のターゲットはタコだと言ったな!?」

「え、ええ。」

「どうしたのぉ?タコさん相手にそこまで龍装を使うことあるのかなぁ?」

「タコさん、か・・・悪いが、今回の相手はそんなに可愛くはないぞ?」


突如、地面が揺れ、地鳴りのような音と共に背後のターミナルが崩れ落ちる。


瞬間的に全員が距離をとり、ガラクタの山となる鉄の集まりと、そこにうごめく赤い物体を見つめる。


「・・・何、あれ!?」

「ふわわわわ!?」

「ふん、探しても見つからないわけだ。標的は最初から、俺達の上で昼寝をしていたんだからな・・・!」


不規則に動く八つの触手が鉄屑を巻き取り、砕く。その触手の裏に見える無数の巨大な吸盤が小型のアニマを吸い付け、そのまま口へと運ぶ。嘴の様な黒く鋭く

光るそれは容易くアニマを粉砕し、やがて飲み込む。大きく膨れた頭部に残る生々しい傷痕は奴がどれだけ生きてきたのかを語りかけてきた。


灰色の陸と空に映える赤い体躯のその生き物は、海洋棲の軟体動物「たこ」に酷似していた。


「・・・想定外ね。まさか、巨大種だなんて。」

「どうする?4体1だが、こちらのリスクの方が大きいぞ?」

「こんな辺境まで援軍が来るまでどれだけ時間がかかるかなぁ・・・」


空港は基本海に隣接している。


周囲を海洋で囲まれた島国であるこの国、海が見えるということはそれはつまり、それだけで陸地の中心からは離れているということ。


援軍要請は、受理されたとしても到着までアニマが動かないはずがない。


「・・・っ!動き出したよっ!」


赤い触手が伸び、地面を捉える。


意思の感じにくいその目は私たちの背後遥か遠くを見つめていた。


「この方角・・・まさか、海に向かうつもり!?」

「まずいよぉ!止めなくちゃぁ!」

「・・・っ!総員、戦闘準備!!!オクト・アニマを何としてもここで止めるわよ!!!」


かつてないほどに3班のみんなが焦っている。


各々が散開し紅とすももがアニマの両脇に回り、理沙はハンドガンを構えてアニマの動きを測っていた。


「ど、どうしてここまで急ぐ必要が?」

「それは奴が海洋棲で巨大種のアニマだからよ。考えてみなさい。この地球は陸地より海の方が面積率が大きいことを、そして、アニマの生体を・・・」


海洋の面積率?


確かに地球は水の惑星と呼ばれるほどだ。


陸地の面積に対して海洋の面積は約七割を占める。


アニマの生体、


確かオタクだけを攻撃するよう遺伝子に組み込まれていて、繁殖方法が特殊で・・・


「・・・アニマは、普通の生き物にその遺伝子を埋め込んで繁殖する・・・!」

「その通りよ、だから海に逃がすわけにはいかないの。幸いなことに私たちは今まで海でアニマに遭遇したことはない。それは今のアニマが海に適応していないということ。そして今、恐れていた事態が起きている!」


理沙は鉛の弾丸をアニマに向けて数発放つ。


しかし、よほど表皮が厚いのか、それとも弾力か、鉛の弾はその赤い皮膚を貫通することなく失速していく。


先陣を切った二人も思うように攻撃が通っていない。


「しかもよりによってタコだなんて、ついてないわね・・・!」


タコは全身が筋肉の塊。小さな物でも巻き付かれれば跡が出来るほどきつく締め付ける。


おまけに猛毒を持つ個体もいる。


陸地に上がった海洋棲生物とは言え、これほど戦いにくい相手はいないだろう。


「どうしたものかしら・・・一か八か狙撃フォルムで・・・」


そう言いかけて理沙は言葉を止めた。


アニマが八つの足のいくつかを巧みに駆使し、瓦礫の山となったターミナルから鉄骨や廃材、果てには廃車をつかみ出した。


そして、


「ダメだっ!二人とも、逃げて━━━」


私の声とどちらが速かったのか。


渾身の叫びを打ち消すようにアニマは手にした『それ』を前線の二人めがけて打ち付けた。


爆発音とも金属音ともとれない轟音が滑走路に響き渡り、破片が砂煙をあげる。


「紅!!!すももさんッ!!!」

「雨音っ!今行ったらあなたも巻き込まれてしまうわ!」

「でも・・・!」

「大丈夫、あの二人はこのくらいでやられたりはしないから。」


駆け出そうとする私の腕を掴み、じっと砂煙を見つめる理沙。


晴れてくると、そこにはそれぞれ間一髪で難を逃れている二人の姿があった。


「ふん。強力だが、単調だな。」

「うん、気を付けていれば問題無さそうだねぇ。」


二人は全くの無傷、いや、それだけではない。


あの状況下で即座に最短の安全地点を割り出し、更には攻撃の癖まで見抜いていた。


その証拠に猛攻を再開したアニマの攻撃を全て避け続けている。


それどころか隙を縫い反撃に転じる様子も見てとれた。


前線の二人、その連携は完璧だった。


アニマの振り回す鉄骨をすももがハンマーで破壊し、そのすぐ脇から小柄な紅が飛び出し触手本体にダメージをいれる。


だが、決して深追いはしない。


一撃入れては一度撤退、即座に攻撃を繰り返している。


怒濤の攻撃に、学習したのかアニマは巨大なコンクリート片を二人へ投げつける。


すかさず、すももがオーラを纏い回転の力を加えてコンクリートを砕き、空中の破片を蹴り紅が加速した。


複雑かつ高速な動きにアニマはたじろぎ、その一瞬で、


紅は一本の触手の根本へたどり着き、容易くそれを切り裂いた。


「・・・はっ、なるほどな。」


痛みに暴れ狂うアニマから距離をとり、私たちのいる場所まで二人は撤退する。


「弾力性と衝撃吸収に特化した皮膚だ。おまけにその奥には隙間なく筋肉が敷き詰められている。単純な打撃はほぼ効かないだろう。理沙の狙撃フォルムでも貫通は難しいかもな。」


紅は冷静に分析を開始した。


ほんの数回の攻撃で膨大な量の情報を仕入れている。


「だよねぇ。廃材とかは砕けても、正直私じゃ攻撃が通る気がしなかったよぉ。」

「私の銃もダメだったわ。これは、紅をメインで戦うしか無さそうね・・・」

「・・・ふん、お前にしては珍しく視野が狭いな。」


嘲笑するように吐き捨てると紅は私の腕を龍の鱗が無い方の腕でつかんだ。


「斬撃なら、3班に新戦力が入っただろう。剣など斬撃の象徴のような武器だ。まあ、戦力になるかは知らんがな。」

「・・・まさか、雨音を前線に立たせるつもり?」

「こいつの武器は所詮剣だ。敵との肉弾戦が出来ないようでは、いつまでも護衛対象のお荷物だ。」

「そこまで言うことないんじゃないのぉ!」

「お前には聞いていない。・・・選べ、水鳥雨音。」


紅の瞳は真っ直ぐこちらに向いている。


彼は私に決断を迫っている。


今後の私の3班での存在意義を決める決断を。



「お前は荷物か?それともつるぎか?」



心臓が早鐘のように脈打つ。


怖い。


あのときと、初めて一人でアニマと対峙したときと同じ、死を目の前にした恐怖。


立ち向かうも逃げるも私の選択次第。


ここで逃げれば、紅が一人で倒すだろう。


その方が効率はいいのかもしれない。


けれど、


半ば挑発に近いような煽り方をされて、



黙って引くほど私もいい子じゃない。



「何言ってるの、私は剣だよ?・・・まだ無名ルーキーだけどね!」



「・・・よく言った。称賛してやろう。」


私の肩を強めに叩き紅は理沙に向く。


「・・・と言うわけだ。こいつを前線に借りるぞ。」

「待ちなさい!彼女は今日が初任務なのよ?前線で戦うには戦闘経験が・・・!」

「ふん。そんなもの、実績の前では無意味に等しい。ライオン・アニマのメスを単独で討伐したのだ。俺に及ばずとも、そこそこは動けるのだろう?」

「・・・足引っ張らないように頑張るよ。」

「・・・だそうだ?班長。」


依然として理沙の表情は険しいままだった。


班長として新人を守るという責任を感じているのだろう。


「理沙、私なら大丈夫だよ。危なくなったら逃げるし。」

「・・・」

「それに今はみんなもいる。ライオン・アニマの時みたいに私一人じゃないから。」

「・・・はぁ。分かったわ。危険なことはしない、これだけは約束して。」

「ええ!許しちゃうのぉ!?」


すももは驚愕していた。


理沙の決断が予想外だったのだろう、


必死に説得を試みている。


「大丈夫よ、すもも。前線には紅もいるし、標的が集中することは無いでしょう。それに・・・」


彼女は瞳を閉じると、深呼吸をしてアニマに向いた。


「私が『万が一』なんて、絶対に起こさせない。」


決意と熱意のこもったその一言は、私の心から恐怖の感情を一切拭い去った。


たった一言でここまで人を安心させる、


それは彼女が膨大な戦闘を経験しているからこそ可能なことだった。


「さぁ、碧はどうなんだ?」

名字そっちで呼ばないでよぉ!・・・もう、わかったよぉ。廃材は私が全部壊すからぁ。」

「決まりだな。さて、そろそろ奴が動き出すぞ。」


紅がそう言うと、アニマは新たな武器を持ちこちらを睨み付けていた。


陸上の動物とはまた違った感情の読めない赤い眼光、


それは私たちよりも遥か先を見ているようだった。


「・・・私たちは眼中にない、みたいだね。」

「ふん、舐めてくれるじゃないか。」


私たちは新たに隊列を組み直した。


先頭を私と紅が、そのすぐ後ろにすもも、そして後方には理沙という態勢だ。


私は今一度大きく深呼吸をした。


今私は最前線に立っている。


アニマと私の間に割って入るものは何もない。


己の実力がものを言う世界に、足を踏み込んだ自覚がふつふつと沸いてきた。


「戦闘開始ッ!!!」


理沙の掛け声で私を含めた全線の3人は一斉に駆け出す。


同時にアニマも標的を絞り、近くにあった鉄骨を振り下ろす。


最初の標的は、私だった。


「弱いのから潰そうってこと!?」


私は全速力でアニマから距離をとる。


・・・どうやら大丈夫のようだ。


あの時程の速度はないが尋常ではないスピードが出ている。


私は隣のターミナル目掛けて疾走し、走る勢いをそのまま跳躍に変えてターミナルの上を行く。


軽く10メートルは飛んだだろうか。


危うく飛び越えてしまうほどの跳躍でターミナルに乗り移った。


「ここなら・・・」


安全、そう言いかけたが下の光景を見て私はすぐにその場から飛び退いた。


その数秒後には私の元いたターミナルは1つ目のターミナルと同じような光景に変わっていた。


「・・・そうだよ、どれだけ高く上っても破壊されちゃう。」


驚くべきはそこではない。


確かにあのアニマの破壊力は強大だった。


だが、それよりも注目すべきはその速さ。


私は出せる限りの全速力でアニマから距離をとったはずだ。


しかし私がターミナルにたどり着いて数秒で奴は私に追い付いた。


驚異的な速さだ。


その裏付けとして今、紅とすももがアニマに追い付いたのだ。


「雨音!あまりこいつを動かすな!手当たり次第に建物を破壊されては俺達が戦いにくくなるだけだ!」

「・・・はいッ!」


滑走路は奴が破壊し武器として使用した残骸と、今しがた破壊されたターミナルで散乱としていた。


これでは直線で走って加速するのは不可能に近い、これ以上こいつを移動させるのは危険も伴う。


現に新たに破壊したターミナル周辺の残骸を既に武器として拾い始めている。


だがすももが上手く立ち回り、なかなか

新たな武器を掴めないでいた。


アニマは今、すももの相手に忙しいようだ。


「落ち着け・・・落ち着け私・・・」


冷静に、速攻で策を導き出さないと。


何か奴に対抗できる策を。


「どうしよう・・・!どうすれば!?」


思いつかない。考えれば考えるほどに焦りが脳の機能を低下させていく。


無い、無い、無い。


何も考えが無い。


こんな浅はかな思考で前線に立つなんて命知らずも良いとこだ。


「クソ・・・!クソッ!!」


頭の中がキャパオーバーだ。


もうパニックも同然だった。


そのとき、


強烈な発砲音と共に光がアニマの腕を廃材ごと貫き、私の横の瓦礫の山へ被弾した。


『大丈夫よ、雨音。焦ることはないわ。』


突如として聞こえた聞き覚えのある声に思わず振り替える。


しかしその場には誰もおらず、はっとして耳に手をやるとそこには機械が取り付けられていた。


ここへ来る前に彼女から渡されたインカムだった。


発砲によってクリアになった頭脳に浸透するように声が流れていく。


『あなたが全てを背負っているわけではないわ。ゆっくり周りを見渡して、それからでも判断は遅くないわ。』

『そうだよぉ、私なんて何も考えてないしねぇ?』

『そもそもお前に全てを賭ける等とハイリスクな事を俺が提案したか?俺は共に、お前と前線に立つつもりなんだが?』


3人の声が流れていく。


そうだ、私が一人で戦っている訳じゃなかった。


おかげで落ち着いた。


冷静に周りを見渡し状況を判断する。


とは言っても、どこもかしこも廃材やスクラップになった車だらけでまともなものは何一つ・・・


いや、違う・・・


これだ。


これだからこの状況をどうにかできる。


私はさっきこれを見た。


私でも奴に一撃喰わせる事が出来るかもしれない・・・!


「・・・3人共!出来るだけあの蛸足の武器を弾けないかな!?」


この考えには3人の協力が不可欠だ。


私一人じゃ到底実現できない。


『・・・二人とも、全力で攻撃を続けて!一瞬たりともアニマの意識を雨音に向けさせないわよ!』

『俺に指図するとはな。しくじるなよ!』

『ぶっ壊すのは得意だよぉ!』

『雨音!好きにやりなさい、私たちが全力でサポートするわ!』


3人は怒濤の攻撃をアニマに繰り出し始めた。


私も、負けていられない。


私は下半身に力を込め、ターミナルの残骸目掛けて駆け出した。


残骸は原型は留めていないが程よく山になっている。


ちょうどスキージャンプのジャンプ台のような形だ。


これを利用して、私はスピードを殺さないまま空を駆けた。


私の体は放物線を描いてアニマへ落下していく。


助走と跳躍の勢い、さらには重力による落下の速度が加わる。


アニマに到達する直前、すももが弾いた巨大なコンクリート片が私の近くを舞った。


それを蹴り、さらに加速する。


立て続けに紅の切り裂いた車のボンネット、


理沙が吹き飛ばした鉄骨を蹴る。


勢いそのままに滑走路へ降り、今度は散在する瓦礫やアニマの動きで隆起した地面を使い加速する。


加速に加速を重ね更に加速する。


今の私の運動能力だからこそできる技、


さっき紅がやってのけた弾かれた瓦礫を使った加速をアレンジしたオリジナルの加速、


これなら、


「行けるッ!!!」


私は空中に舞う破片でアニマに照準を定める。


背後をとった。


がら空きの赤い皮膚。


腕がすぐ近くにあるが、この加速ならあの巨体では追い付けない。


「うおおおおおおおおっ!!!」


仲間の力を借りた超加速を乗せた透明な切っ先が赤い皮膚を切り裂く












ことはなかった。


「・・・なん、で・・・!?」


加速の勢いは十分に乗っていた。


そして私の体からこの剣へ全て注がれた。


しかし、


その勢いは敵の体を切ることは無く見る間にその弾力のある皮膚に吸収されていったのだ。


「そんな・・・」


渾身の一撃が不発に終わった。


それは私の心を戸惑わせるには十分すぎる要因だった。


そして、


「避けろおおおおおおおッ!!!」

「え━━━━━━」


その戸惑いが私の体を支配している間に、


深紅に燃える大木のような触手が


私の体を芯で捉え私の意識を切り裂いていった。







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