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萌えよ 戦場~オタクの最終戦争(ラストウォーズ)~  作者: Kureo
スキル・オブ・ジャンルレス
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苦悩せよ 雨音の悩み




「アハハハ、そいつは雨音も災難だったでヤンスね。」


猪型アニマとの戦闘を終えた私とすももは、ミズミの車に揺られながら私の仮住まいである病院を目指していた。


「笑い事じゃないよ!身動き取れなかったから顔も守れなかったし、その衝撃のせいで泡吹いて失神って、もうお嫁にいけないじゃん!」

「いや、雨音を嫁にもらうような物好きはそうそういないと思うでヤンス。」

「ミズミ、素直な気持ちは時に人を傷つけるよ?」


この子、自らの気持ちにとても素直なだけに言葉が時々心に来る。


「はぁ。で、あなたもいつまで笑ってるんですか?すももさん!?」


そして私は隣に座る女性に標的を変えた。


「いやっ、ほんとっ、面白すぎてさぁ、あははっ!」


よほどツボにハマったのか、爆笑を止められない様子で腹を抱えていた。


彼女の名前は碧すもも、私が所属する班の先輩でハンマーを使う。


見た目は年端もいかない幼女のようだが、最近聞いた話、実は私より3つも年上らしい。


つまり19、来年には二十歳になるそうだ。


にわかに信じがたい。


「いやぁ、危ないかなぁとは思ったんだけどさぁ、まさか気絶するなんて思わなくってぇ。思わず私、写真撮っちゃったよぉ。」

「は!?ちょ、えぇ!?何てことしてるんですか!?」


彼女の手にした端末には白目を向き、泡を吹いて気絶している情けないよく見る顔があった。


「今すぐ消してくださいっ!!!」

「いいけどぉ、もう3班のグループに送っちゃったよぉ?」

「ホントに何してるんですか!!!」


読めない、この人は読めない。


いや、もともと変人の巣窟と言われているような班だ。


他の二人も大概まともではない。


私の所属するのは3班、正式名称は第一次戦闘防衛3班。


数ある班のなかでも群を抜いて戦闘回数が多く、そして個々の戦闘能力も高い。


よく言えばエリート、悪く言えば怪物の集団だ。


集団、と言っても班員は私を入れて四人の超少数部隊だ。


それでもそれで成立していて他の班からも一目おかれる存在なのだ。


その班に、いるのに・・・


「・・・」

「・・・?どうしたのぉ?急におとなしくなってぇ。」

「いえ・・・なんでも、ありません。」


8月9日、私が3班に所属してほぼ一月が経過した。



私は、一ヶ月前のあの日以来能力を発動させることが出来ないでいた。



原因は分からない。だが、どう足掻こうと発動はしないのだ。


この剣も、ただそこに『あるだけ』の存在。モノを切ることはできず、輝きも失い、もはやただの棒と変わりない。


それでも班に所属する以上、任務には出なくてはいけない。


単独任務もできないこの状態のせいで一ヶ月間、私は班員の世話になり続けている。


本当に、何て情けないんだろう。


「まあ、部屋に戻って、と言っても病室でヤンスが。そこでゆっくり話せばいいでヤンス。」


ミズミの声を聞き、顔を上げると私の入院している病院の前だった。


「やっとついたねぇ。もうくたくただよぉ。」

「片道15分しか経ってないでヤンスが?」

「私車って苦手なんだぁ。」

「今度からはボンネットにくくりつけてやるでヤンス。」

「さぁ、早く中に入ろうよぉ。」

「・・・ホント、人の話を聞かない人でヤンスね。」


すももについていくように私も車を降り、ミズミに礼を言うと病院の中へ入る。


受付をほぼ顔パスで通り、一般病棟とは反対側の通路を歩く。


奥へ奥へと進み、やがてすれ違う人もいなくなった頃に私の病室へ着いた。


実験用病室と書かれたプレートの上から手書きの文字で


水鳥雨音ひけんたい


と書かれている紙が貼られている。


実を言うとこの数日、この『ひけんたい』という文字に大分心を抉られている。


何となく、自らに自由がなく常に監視されているような気持ちになってしまうのだ。


ため息を吐き、ドアノブを捻る。


「ただいま・・・ってやっぱりいるんだ。」

「うるせえぞ被検体、ここにいる限りお前の自由はねえと思え。」


ボサボサの黒髪に白衣の男、五十嵐が頭を掻きながら気だるそうに睨み付ける。


この人は私の担当医的な人だ。


この一ヶ月間、私はこの人にさまざまな検査をされている。


それも、私の能力が関係しているのだが。


「で、どうだ?発動はしたのか?」

「ダメだったみたいだよぉ。やっぱり消えちゃったんじゃないのかなぁ?」


一足先に病室に入っていたすももがベッドで転がりながら伝える。


「一度発動した能力は消えることはねえ。現に剣だけなら出せるんだろうが。それはまだ、能力がこいつの中にあるってことなんだよ。」

「んー、そっかぁ。なら気長に待つしかないねぇ。」

「いいのよ、どれだけかかっても。すぐに体現する方が希だわ。」


一人の少女が、窓際の椅子に座りコーヒーを飲みながら答えた。


その所作からは落ち着きと気品と美しさが自然と漂っている。


「氷川、てめぇが言うんじゃ説得力ねえだろうが。そーいうのは本当に能力取得に苦労した奴が言ってこそなんだよ。」

「私だって苦労はしたわよ?神アニメの話を聞いてから5年間、ずっとずっと待ち続けていたもの。きっと目覚めの早さもその思いの強さなのよ。」

「目覚めたって使えなきゃ意味ねえんだ。その点お前は化け物じみてるからな。実態型のくせに強化型みたいな運動能力しやがって、本当に人間なんだろうな?」

「私の知る限りじゃ、人として生まれて人として育てられたけど?」


彼女は氷川理沙、私の所属する3班の班長。


美人で性格もよく、およそ欠点が見当たらない完璧超人、


おまけに戦闘能力も支部長クラスに一目おかれるレベル。


周りには彼女のことを『化け物』と呼ぶ人も多い。


「まあ、今となっては疑わしいが、もう一人ここにもいるんだよな。お前に似た、言わば『化け物の素質』を持ったやつならよ。」


五十嵐のその言葉で、部屋中の視線は全て私に注がれた。


「素質ってのはあくまでも基盤だけだ。いくら豊かな土地でも耕す奴がいねえんじゃ意味ねえからな。」

「そう、だからここ数日は私と毎日訓練場に通っているんでしょう?」

「うんうん、その成果は出てたよぉ。雨音の反応速度はもう一般的な兵士より速いんじゃないかなぁ?」


思わぬフォローだったが、訓練の成果が出ていたのは嬉しい。



二週間ほど前だろうか、


私は死にかけた。


それは私を入れた3班全員での初の合同任務でのことだ。


内容は、


旧羽田空港に現れたオクトパ・アニマの討伐、及び空港の補修。


陸地に上がったタコだ、放っておけばそのうち息絶えるが、


理沙も簡単な任務で私に任務慣れをさせようとしたのだろう。


その日の空模様と似たような色合いの灰色の滑走路と、ひときわ目立つ赤く不気味にうごめく吸盤・・・


あの日を、私は一生忘れないだろう。


人生ではじめて、走馬灯を見た日になったのだから━━━





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