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萌えよ 戦場~オタクの最終戦争(ラストウォーズ)~  作者: Kureo
ユニット・オブ・サード
14/42

所属せよ 3班新班員



・・・暗い。


どこだ、ここ。


わからない。


周りには何もない。


あるのは暗闇だけ、どこまでも続く、深い深い暗闇。



━━━あなたは、背負うものとなりました━━━


聞き覚えのある声、あの時ビルの屋上で聞いた声だ。


「背負うって、何を?」


━━━いずれわかります 私の口からは言うことはできない━━━


「そっか・・・さっきはありがとう。あの剣、あなたがくれたんだよね。神アニメの聖霊、でいいのかな?」


━━━神アニメ 私たちの希望はそんな風に呼ばれているのですね━━━


優しく、包み込まれるような柔らかな笑い・・・


でも、どこか寂しげで儚くもあった。


「あなたが、あのアニメを作ったの?」


━━━私が、と言うのは間違いですね━━━


「違うの?」


━━━はい あれは私『達』が作り上げたもの━━━


『達』、と言うことは彼女のような存在が他にもいるのだろうか。


彼女が神アニメの聖霊なら、他の聖霊は?


「教えて、あなたは一体何者なの?」


━━━私は六神の一人 『声の神』宝玉の声を操り、心に届ける者━━━


「声の神って、神様だったの!?」


━━━と言っても今の私に力はありません 長い歴史の時の渦は私を蝕み、やがて力は完全に失ってしまいました━━━


「じ、じゃあもう神の力は無くなったの?」


神が死ぬと言うのは、いつの時代も果てしない影響を世に及ぼすはずだ。


彼女が神としての力を失うと言うことは、神が死んだに等しいのでは・・・


━━━いいえ 時を超えても、姿を変えて神は残り続けます 私や他の神も子孫がまだ世に残ってくれています━━━


「じゃあオタク領のどこかにはその六神の力を継いだ人がいるんだね。」


━━━いずれあなたも会えるでしょう 時が来れば彼らの力が必要になることもあるはずです━━━


時が来れば━━━


そんなときが来るのだろうか。


神としての力があると言うことは当然一般人と同じ扱いはされていないだろう。


簡単に会うことはできないはずだ。


それに、


二年後にこの領地は政府の攻撃で消えてなくなってしまう。


それなら、無理に会う必要はないじゃないか。


━━━あなたの心は、まだ政府にあるようですね━━━


「あはは、バレちゃった?どうするの、始末する?」


━━━いいえ、背負う者となったあなたにはこれからもあの領地にいてもらいます その間で心が揺れ動くと信じて━━━


ふと周りを見ると少しずつ暗闇が晴れてきている。


先ほどの暗黒から、今はもう白んできている。


━━━目覚めの時ですね もうすぐ向こうに戻る時間です━━━


「あ、やっぱりここ現実世界じゃないんだね。」


どうりで暗いし足元もふわふわして浮いているような感覚だったわけだ。


━━━あなたにはまた会わなければならないでしょう それまで、あなたの仲間を信じて進んでください━━━


「勝手だね。私スパイだってのに・・・まぁ、作戦決行までの二年間くらいは仲良くするよ。」


━━━今はそれで構いません では、あなたに天声の導きあれ━━━


最後に神様っぽい事を言い残して彼女の声は聞こえなくなった。


同時に意識が遠退いていく感覚に陥る。


不思議と怖くはない。


次に会えるのはいつだろう、


また、あの声を聞けたらいいな。













































































規則正しく聞こえる電子音が私の意識を引き戻していく。


目を開けようとするがひどくまぶたが重い。


目を擦り、強制的にまぶたを開き辺りを見渡す。


無機質な白い天井に、同じく白い壁、そのせいか茶色のドアがひどく目立って見える。


すぐ横に見えるのは何かしらの機械。電子音の正体はこれか。


次に私の状況。


これには驚いた。


服装は着替えさせられ、制服から締め付けの緩い、病人のような服装に変わっている。


右手の腕から延びる管は横の機械に繋がれており、どうやらこれは点滴のようだ。


身体に力を入れようにもうまく動かない。


諦めて窓の外を見ると、夏の朝日が部屋に差し込んでいた。


時刻は6時過ぎ、季節の太陽の南中高度から考えて朝で間違いないはずだ。


どうしようかな。


辺りを散策して現在の情報を掴むか。


いや、体が動かないんじゃ散策はおろか立つことも出来ない。


それに、もうすぐ点滴が切れそうだ。この点滴を入れ換える人が来るに違いない。


そして私の推測は大当たりだった。


木製のドアが開かれ誰かが勢いよく入ってきた。


「はーい水鳥雨音さーん、回診ですよー!」

「おはようございます。あの、ここどこですか?」

「どわぁ!?起きてたんですか!?どんな回復力してるんですか!!」


何だか分からないが心底驚いているようだ。


点滴の替えを落とし、辺りに器具が音をたてて落ちた。


ポニーテールの看護師らしきその人はあたふたと落とした道具を拾い集めながら何やらぶつぶつと呟いていた。


「おかしいなぁ、師匠の見立てじゃあと一週間は起きないはずなんだけどなぁ・・・はっ!まさかこれは師匠が私を試した!?」


彼女は道具を置くと舞台で演じる女優さながらになぜか一人芝居を始め出した。


「受けられた使命をこなすだけでは一人前にはなれない、自らの意思で不測の事態に対処し、最悪の展開を避けトゥルーエンドへ持ち運ぶ・・・そうよ!きっとこれは師匠から私に向けた愛の修行なんだわっ!」


何だかとても楽しそうだが、完全に私のことは忘れ去られてるみたいだ。


患者ほったらかしにして何してるんだこの人。


「そうと決まれば、水鳥雨音さん!あなたにはもう一度眠ってもらうわ!」


そしてもう一度私に向き直った彼女は、なぜか戦闘体制で私を睨み付ける。


「ええ!?ち、ちょっと待ってくださいよ!状況もよく分からないまま眠らされるのは恐怖でしかないんですが!?」

「心配しないで。何もクロロホルムを使おうって訳じゃないから。酸素濃度を一瞬だけ低下させて気絶してもらうわ。私の能力ならそれは可能!」


ダメだ、こちらの話を聞こうともしない。


こうなったら逃げるのが懸命な判断だが、逃げようにも体が動かない。


このままじゃせっかく目覚めたのに何も分からないまま再び眠りについてしまう。


何か策はないの!?


考えている間にも看護師はジリジリと少しずつこちらに近づいてくる。


その右手に光るのは、オタクの能力発動を意味する粒子。


そして、とうとうベッドの真横まで接近されてしまう。


「さあ!おやすみなさいっ!」


もうダメだ!


思わず強く目を瞑る。


「メディカル・ブレ・・・」

「バカ野郎。」


突如、男の声が耳に届く。


恐る恐る目を開けると、視界に写るのはなぜか空中に浮いている看護師と、ボサボサ髪の長身の男。


「し、師匠!?離してくださいっ!私は課せられた使命を・・・!」

「お前に単独行動なんて死んでもやらせるかよ。患者が爆発でもしたらどうしてくれる。」


看護師は浮いたままジタバタと手足をばたつかせ、男は気だるそうに頭を掻き、睨むように私を見る。


「よう、やっとお目覚めか。随分な快眠っぷりだったな。」

「あの、ここどこなんですか?あなたは一体・・・?」


男が軽く看護師をつつくと等速度運動をしながら彼女は部屋をさ迷い出した。


私のベッドの隣に立ち、機械を数秒いじると近くの椅子に腰を掛けて話し出す。


「俺は五十嵐だ。ここは集中管理治療室原宿支部、平たく言えば病院ってとこか。」

「原宿・・・五十嵐さん、ここ原宿支部なんですか?」

「ああ。所属のないお前を3班の連中が担いできてな。聞けば原宿支部から出たって言うじゃねえか。支部長のクソガキに押し付けようとしたら興味深い被験体だったもんでな。俺もここに残ったんだよ。」


クックッと失笑するように笑う五十嵐。


ここは原宿か、そして病院。


状況的に入院していたのだろう。


一体どれだけ眠っていたのだろうか。


「今がいつか知りたそうな顔だな。教えてやるよ、お前は一週間寝てたんだよ。そりゃ筋肉も落ちるし、まともに動けねえだろうな。」

「一週間・・・!?」


そんなに長い間眠っていたのか。


あの戦闘からもう一週間も経過しているとは。


はじめての戦闘で相当体力は使ったと思うが、そこまでの疲労だったのか?


「・・・!!そうだ、ミズミは!?移動班のミズミは無事ですか!?」

「呼んだでヤンスか?」


聞き覚えのある特徴的な語尾、声のする方に目を向けるとショートカットの少女が笑顔で

私に手を振った。


「ミズミ!無事だったんだね!」

「おかげさまでこの通り、軽い擦り傷で済んだでヤンスよ。」

「それもこれも、あなたの決断のおかげよ、雨音。」


ミズミの後ろには銀髪の美少女が手に果物を持って立っていた。


「理沙・・・!他の二人は!?」

「ふふ、精鋭部隊の3班が、あれしきのアニマに負けるわけないでしょ?二人とも元気よ。今は任務外なだけ。」

「そっか、よかった・・・」


安堵の息を漏らす。


私の無茶な作戦で壊滅的な被害になったらどうしようかと、心の隅では思っていたのだ。


しかしそもそもが私より圧倒的に強い3人、心配自体が杞憂にすぎなかった。


「おーし、感動の再開は済んだか?五十嵐先生の回診の時間だぞー。」

「師匠っ!回診始める前に私下ろしてください!」


今の会話の間、ずっと空中を等速度で移動し続けていた看護師がタイミングを逃すかとばかりに大きな声で訴えかけた。


そのあまりの必死さに一同からは自然と笑みがこぼれ、病室は和やかな空気に包まれていた。


「・・・笑いは済んだか?なら、ここからは真面目な話だ。」


しかし、一瞬にして五十嵐の重く低い声が場を支配した。


彼が指をならすと看護師は床へと落下した。


どすん、と腹に軽く響く音だけが鼓膜を通過する。


「まずは、何でお前が一週間も眠っていたかだ。これについては既に結論が出ている。単純に能力の過剰使用だ。」

「ねえ五十嵐さん、本当なの?雨音に能力が体現したって。」

「ああ、本当だ。嘘なんかついたって下らねえだけだからな。」


彼はポケットから端末を取り出すと画面を病室のモニターへ写す。


そこに写っているものの正体は・・・


残念ながら私には全く理解できない図だった。


「頭に?マーク浮かんでんな。これはお前の遺伝子配列だ。これ見りゃ一発で能力が使えるかがわかる。」


五十嵐はさらに図を拡大する。


どこまで細かくなるのだろうか、螺旋構造まで見えてしまった。


「普通人間の配列ってのは分かりやすく言うならA T G Cの四種類の塩基だ。これは中学で習うだろ?だが神アニメの能力を使えるようになったやつには、新たにある特殊な塩基が追加されるんだよ。」


画像が切り替わり、螺旋の内側にはいる。


その中心、ちょうど空洞となるところに一筋の線が入っていた。


「こいつがその特殊塩基、俺が『パンドラ塩基』と名付けた。」

「あなたが見つけたんですか?でも、こんな細かい細胞どうやって・・・」

「決まってんだろ、俺の体で調べたんだよ。」


彼が着崩した白衣の袖をまくると、大小様々な傷や縫合跡だらけの腕が生々しく延びていた。


「アニメ見ただけで使えるようになるこの便利すぎる能力、調べようにも他人の体は使えねえ。なら答えは一つ、俺自身を披検体にすればいいんだってな。」

「そんな・・・もし実験で失敗したら只じゃ済まないじゃないですか!」

「失敗が怖くて科学者やってられっかよ。まぁとにかく、俺は自分の体と犠牲にこのイカれた結果を叩き出したんだよ。」


嘲笑するように笑い、端末を再び操作する五十嵐。


・・・無謀すぎる。


未知の細胞相手にもっともリスクの高い道を押し通すなんて。


私には実験結果より、この人の方がイカれて見える。


「こいつは能力を使うときに螺旋を飛び出し脳の周辺に集まっていく。するとどうだ、とたんに消えちまうんだよ。きれいさっぱり跡形もなくな。」

「消える・・・?」

「消えたこの塩基はどこへ行くのか。答えは簡単だ。お前も何度も見ただろ、能力発動前のあの青い光を。」

「まさか、あれがパンドラ塩基なんですか?」

「正確には少し違うな。あれはパンドラ塩基が気化して体外に放出されたものだ。」


五十嵐は壁に寄りかかり、ポケットを漁ると中から煙草を出した。


火をつけようとライターを取り出したが、理沙に取り上げられた。


「・・・少し位良いじゃねえか。」

「病室で煙草なんて非常識すぎます。」

「チッ・・・わーったよ。」


彼は煙草を足で踏み潰すと説明を続けた。


「脳から受けたイメージを一度気化して体外へ放出、その後そのイメージ通りに実体化する・・・これが俺の出した仮定だが実際はほとんど分からねえ。」

「分からないんですか?」

「ああ、全く正体の掴めねえブラックボックス、だから俺はこいつをパンドラ塩基って呼んでんだよ。神話のパンドラの箱に準えてな。」


パンドラの箱、確か箱の中が気になって開けたら中には悪魔がいたって言う神話だった気がする。


つまり、その悪魔のような細胞が私の遺伝子に組み込まれた?


いよいよ化け物だね、これじゃ。


戻るところもない、きっともとの生活に戻っても、もとの日常は戻らない。


化け物になった私なんて、誰もが排他的に接するだろう。


「んで、こっからはお前の能力についてだ。これに関しちゃ俺は直接見てねえからな。そこの移動班のガキんちょに聞いた話だ。」

「ガキんちょとは失礼でヤンスね・・・マッドサイエンティストに言われたくはないでヤンス。」

「ちょっとミズミ!あんた師匠をマッドサイエンティストだなんていい度胸してるじゃない!?」

「姉さんもいい加減目を覚ますでヤンス。こんなオヤジのどこがいいんでヤンスか?」


この二人姉妹だったのか。


看護師の名札は、ナズナ、ナズナさんって言う人なのか。


ナズナさんは耳まで真っ赤にしてミズミに掴みかかっている。


どうやら図星らしい。


「姉妹喧嘩は他所でしろ!さっきから話が脱線しまくって全く進まねえ!」

「でも師匠!この子が・・・!」

「ナズナさん、今は押さえてちょうだい。早くこの子に伝えることを伝えたいの。」

「ぐ・・・むむむ、理沙ちゃんが言うなら、分かったわよっ!私は大人だから許してあげるわ!」


そう言うとこが子供なんでヤンス、と私の横に来ていたミズミの口からこぼれたが、なにも言わないでおこう。


仲の良さそうな姉妹だな。


「ったく・・・んじゃ話戻すぞ。まず能力にも種類がある。主なのは実体型、間接型、強化型の三種類だ。実体型が武器を直接使うスタイル、間接型が触ったりしたものに効果を与える、強化型が自分自身の肉体が武器になるものだ。」

「今まであなたの出会った人だと、私やすももが実体型、五十嵐さんが間接型、紅が強化型ね。ミズミのあの車も実体型と遜色ないのよ。」

「じゃあ、私のあれは・・・」


鮮明に思い出せる。


一週間前の出来事だが、私にとってはつい先ほどの記憶だ。


「ほぼ確実に実体型でヤンス。シンプルな刀剣、運動能力はもともと高い方でヤンスね?」

「うんまあ、低くはないかな。」


それでも体育で5をとる程度の身体能力。


ビルから飛び降りて無傷で済むほどの体はしてなかった。


「身体能力も底上げされるからな。五階建て位なら受け身取りゃ余裕だ。」

「そうだとしてもよ・・・」


少し不安げな声が理沙の口からこぼれる。


いや、これは不安と言うよりは、疑問?


理解し難いものを目の前にしたときに出る唸りのような声だ。


「理沙・・・やっぱり気になるでヤンスよね。」

「お前も、不思議に思ってたか。」

「師匠、私もそれは不可解だとは思っていました。」


私以外の人たちは話が通じている。


置いていかれた気がして少し寂しいのと、何の話なのか気になるのがある。


「一体、何の話を・・・」

「雨音、理沙が能力の習得にどれだけかかったか知っているでヤンスか?」

「え、能力って・・・そりゃあ神アニメを見てからでしょ?でも、理沙がいつ神アニメを見たかなんて私知らないし。」

「・・・私が神アニメを見たのは10歳の時よ。と言うか、10歳になったら一度強制的に見ることになるわ。」

「じゃあ、皆10歳で使えるようになるんだ。そうなんでしょ?」

「・・・」


沈黙。


私の一言で場の空気は静まり返る。


誰かのため息が聞こえ、五十嵐が口を開く。


「能力の適応は個人差がある。理沙みてえに速攻習得するやつもいれば一生かかっても出来ねえやつもな。」

「うちは理沙とは小さいときから一緒だから、よく覚えているでヤンス。周りの誰よりも神アニメを待ち望んで、アニメを見た数分後には今の能力の原型を使っていたでヤンス。」

「妹は、ミズミは習得に二年かかったわ。それでも同年代の中じゃかなり早い方なの。でもそのとき既に理沙は戦場に立っていた。」

「だから雨音を見ていると、何だかあのときの理沙と重なるんでヤンス。」


心の底で何かが重くのし掛かる。


早くに目覚めてしまい、周りとの格差が広がってしまった。


まだ年端もいかない当時の理沙はどんなに苦しんだだろう。


「・・・そして、あなたの適応は私を凌駕した。習得初日、おまけに初戦闘でクインライオン・アニマを単独で討伐、尋常ではないほどの適応率だわ。」

「その適応は、あなたの治療を担当した私から見てもうかがえる。あなたは最初、二週間は目覚めないだろうと予想していたの。でもその半分の日付で目を覚ました。驚異的な回復速度よ。」

「それもパンドラ塩基の謎の一つなんだがな。」


得体の知れない底無しの闇を見るかのような感覚。


一体これからどうなるのか。


ここまで調べ尽くされては私の知らない私の情報まで知られていそうだ。


私は、自らがスパイであることを隠し通せるのだろうか、それだけが不安で仕方なかった。


ここでバレては作戦に支障が出てしまうかもしれない。


何としても隠し通さねば。


「で、だ。これからのお前の事なんだが。面倒なことが起きたんだ。」

「面倒なこと・・・?これからって何ですか?」


先程から質問してばかりだ。


一週間の間に起きたことだけではないから仕方がない気もするが。


「お前は逃亡者、つまり外界出身の人間だ。逃亡者は普通、専用の施設に入るんだが、お前は入れさせてもらえなかったんだよ。」

「な、何でですか!?」

「さっきも言ったが適応率が高すぎるからだ。ねえとは思うが、もし万が一お前が暴動でも起こしたら?施設の奴等は能力こそあれ、その適応は高くねえ。高い適応者相手じゃ太刀打ちできねえんだよ。」


つまり、人の群れに怪物は入れられないと。


普通のJKからなんだか一気に人間離れしてしまったな、私。


「ならばと思って、各班長にお前の身柄を受け持ってくれねえか、って頼んでみたがな。まあ、結果はお察しの通りだ。」

「どこも、受け入れなかったんですね。」


それはそうだろう。


外界出身と言うだけでも不確定要素が多い。


にもかかわらず、こちらとしては望んでもいないが怪物的能力の保持者。


そんな存在を班に入れれば、常に爆弾を抱えて過ごすのに等しい、そんなリスクは背負いたくないと思うのが普通だろう。


「まぁ、いたんだがよ、一つだけ。変人の巣窟みたいな班だが、お前の身柄を受け持とうってな。班長自ら進んで俺のところに来やがった。」


何て物好きだろうか。


だがこちらとしてはありがたい。


どんな雑用班に所属してもいい、とにかく腰を落ち着けねば。


「その班は、何の班なんですか?」

「ああ、お前も世話になったはずだぜ。正式名称、第一次戦闘防衛3班。略称、『3班』」

「3、班・・・?3班って・・・!?」


一番聞き覚えのある班だ。


超少人数の超戦闘部隊、


班長は、私と同じ怪物の素質・・・


「変人だなんて失礼ね。あれでもかわいい私のチームなんだから。」


表情一つ変えずに淡々と語る彼女こそ、


3班班長、氷川理沙だ。


「戦闘集団がよく言うでヤンス。でもまあ、理沙が受け持つなら安心でヤンスね。雨音もその方が気が楽なはずでヤンス。」

「私が・・・3班・・・?」


あの超人のような人の中に外界出身が馴染めるのか。


いや、そもそも危険ではないか?


理沙は3班をもっとも危険な活動をする班の一つ、というような言い方をしていた。


現にアニマとの最前線に立ち、街への被害を最小限で押さえているのを私は目撃している、


そんな中に入れと言うのか、


だが、それ以外の選択肢はない。


怪物を飼い慣らすのは同じ怪物と言うわけか。


「異論があるなら聞くわ。どうするの?最後に決めるのはあなた自信よ。」


正直怖い。


能力があっても死ぬときは死ぬ。


またあの化け物と対峙しなければならない。


しかも今度は護衛対象としてではなく、戦闘員として戦うことになる。


でもこれが私の生きる新たな世界なんだ。


やってやる・・・


生き抜いて、私は私の任務を遂行して見せる。


私は大きく息を吸い、目を閉じる。


ゆっくりと目を開け、これからの私の上司へ視線を向けた。


決意と期待とその他諸々を込めた視線だ。


「やります・・・私を、3班に入れてください・・・!」


その言葉を聞くと、彼女はゆっくり頷き微笑んだ。


「第一次戦闘防衛3班班長 氷川理沙より通達。本日7月17日0935より、逃亡者 水鳥雨音を正式に『3班班員 水鳥雨音』として登録する。常に危険と隣り合わせよ、精進しなさい、雨音。」


班長より通達を受け、私は逃亡者から戦闘者となった。


私の新しい日常、その時計の針が大きく音をたてて動き出した瞬間、


ここから、3班としての私の日々が始まるのだ。


部屋に差し込む夏の朝日と涼しげな風は、夏が始まる予感を知らせてくれていた。











ユニット・オブ・サード fin


to be continue......


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