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戦占たる者どもの道しるべ  作者: いぬぶくろ
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感想とかお待ちしています。

 「早く早く」と俺を呼びながら前を駆けていくヨウリを追う。

 魔王軍と戦うために鍛え抜かれた未来の体であればどうとでもない速度だが、12歳程度の体ではヨウリについて行くのがやっとだった。

 記憶にある体と今の体が違うのと、軽装とはいえ鎧を着けていた時と今のように体全体を使って走るのは勝手が違うので、どうにも走ることが下手になってしまっている様だった。


「もう、ユウトってば走るの(おそ)ぉーい!」

「これでも、必死に走ってるつもりさ」


 笑顔で返すが、ヨウリはそれが気に入らなかったのか頬を膨らませた。

 子供の自分なら負けず嫌いな反論をしていただろうけど、今は彼女の一言一句が全て愛おしい。これは、愛する人に対してというよりも親が子に向ける愛情に、今は近いかもしれない。



 ヨウリの背中を追って走ること数分で、やっと村にたどり着くことが出来た。

 今まで思いだすことが出来ないくらい暗い闇の中に沈んでいた故郷の光景だったけど、いざ目の前にすると瞬時にその当時の光景が蘇るのが不思議だ。

 豚飼いのおじさんが歩いている。事故で子供を無くしてしまっていた隣のおばさんは、僕たちを本当の子供のように可愛がってくれていた。

 この村の自警団を務めているお兄さんは、父親から戦う手ほどきを受けながら、戦う技術を上げることに余念がなかった。

 まだ平和だった時の光景。この光景を守らなければいけない。



 その夜、夕食を終えたところ父親から「話がある」と言われた。

 夕食後はいつも何をしていただろうか、と考えていた時だったので、余り記憶にない出来事だったので驚いてしまった。


「ユウト。最近、何かあったか?」

「何か?」

「ヨウリちゃんが、ユウトの様子が変だったって心配していたぞ」


 なるほど、そういうことか。確かに、ボケッとしていたり普段とは違うことを口走っていれば心配にもなるだろう。

 ヨウリのおせっかいも、当時は嫌だったけど、今思えばそれだけ俺のことを思っていてくれたのだろう、と心が温かくなる。


「友達と喧嘩でもしたか?」


 男の子の様子がおかしくなるといえば、悪戯をしてそれがバレそうになっているか、喧嘩をして機嫌が悪くなっているくらいだろう。

 男なんて単純な生き物だ。

 でも、俺はそうじゃない。いずれ来る破滅の未来を変えるために、魔女に呪いをかけてもらってまで時間を巻き戻って来たんだ。


「父さんは――」

「ん?」

「父さんは、魔王って居ると思う?」


 魔王という存在は、この国の――大陸の歴史を振り返ると、過去の歴史上存在したただの魔法が上手く扱える化け物染みた人間のことだ。

 魔法使いはとりわけ女性が多く、その総称として魔女という言葉を使う。ただ、多いと言っても国に魔法使いや魔女は一人か二人居れば良い程度の存在だ。


 それに、魔法も万能ではなく。どれだけ強かろうと、ただの人間でも対処のしようによっては何とかなる存在だ。

 ただ、その魔王と呼ばれた奴は、対処のしようが特殊で多大なる犠牲を払ったというだけだ。

 しかし、俺たちが対峙した魔王は、そんなもんじゃなかった。大陸全土の総兵力を集めても太刀打ちできなかったのだ。

 これがまずおかしかった。


「あぁ、居た(・・)。昔――な。今居るか居ないかと問われたら、分からないというしかない」


 父は俺から投げかけられた質問に対し、笑うこともなくはぐらかすこともしないが、戦う者として「居ない」とも「居る」とも断言しない曖昧な答えで返した。


「なんだ、お前? さては、何か怖い話を聞いたな?」


 ニヤニヤ、といやらしい笑みを浮かべながら、父は俺の頭をその大きな手で雑に撫でてきた。

 魔王が来る、というのは悪いことをしたり、夜寝るのを渋ったりした子供に言い聞かせるための怖い話の類としてよく使われる。たぶん、父もそのことを思い出したのだろう。


「安心しろ。お前が悪いことをしない限り、魔王なんて来やしない。何もしてないのに来たときは――」


 父は、大木のように太い腕を曲げ、力こぶを作って笑顔で言う。


「俺がこの村を守ってやるから、安心しろ」


 その言葉を聞き、心に安堵が生まれた。もちろん、父親では対抗できないということは俺にだって分かっている。でも、父はこういう人だし、安心してしまったんだ。


 ――でも。


「――でも、それは無理だよ」

「おっ? 何だ、何だ? 父さんの言うことを信用できないのか?」


 ガッハッハッ、と息子に信用できない、と言われたにも関わらず父は豪快に笑うだけだった。


「今から4年後に、魔王軍の第一次侵攻が開始される。それは、どこかの国から始まった訳ではなく、世界で同時に魔王軍が姿を現したんだ。当然、各国はそれに対抗すべく兵を送り込んだ――が、魔王軍はそれら全ての裏をかくように出現した」


 父は、初めこそ呆気にとられた表情をしていたが、それもすぐに引き締めると俺の話を真剣に聞き始めた。母もただならぬ雰囲気を察したのか、早々に洗い物を切り上げて俺たちの元まで速足で来た。


「魔王軍は、人を襲い食った。人を食えば食うほど自分たちを増殖・増強することが出来るから、それも当然だった。大陸全土、全てが一丸となって魔王に対抗しようと声を上げる国も居たが、その時にはすでに小国は消滅しており大国ですら疲弊し、他国の言葉に耳を傾けることなどできない状況になっていた」


 こうして、人類は滅びの一途をたどりました。と小さく付け加えて、話を終えた。


 そこに、俺が王子たちと共に魔王と戦い敗れたことも、今ここに居る俺がそこから戻って来たということも言っていない。どちらも、信じてもらえるとは思っていないからだ。

 話終えると、少しの間を置いた後、父は拍手をすると共に大声で笑いだした。


「母さん、どうやらうちの息子は詩人の才能があるようだ!」


 詩人とは、街の人通りが多い場所で楽器を使い歌い、流行っている詩を弾き語りして金銭を得ている者のことをいう。

 戦中であっても――いや、戦中であるからこそかもしれないが、各地に詩人が一人二人居り兵士を癒していた。


「そうね。でも、お母さんはもっと優しいお話の方が好きよ」

「あぁ、そうだな。今の時代、荒々しい話が流行っているとはいえ、魔王がどうとかいう話はあまり面白くない」


 信じてくれるとは思っていなかったので、こうして別の方向へ話が持っていかれても、さして問題は無かった。

 問題は、次の話だ。


「――だから、街へ行きたいんだ」

「街へ行きたいのか? この間、行ったばかりじゃないか?」

「違う。隣町じゃなくて、メイヴェンに行きたいんだ」


 この村で、「街へ行きたい」と言えば、隣町のアターシュというところになる。こことは比べ物にならないほど大きな町だけど、それは何もない田舎基準だ。

 それでも、この村にとっては無くてはならない存在だ。しかし、そこまでの道のりが非常に遠い。

 俺から行きたい街の名を聞いた母は、その名前の街がどこなのか見当もつかないらしく首をひねったが、父は傭兵として各地を歩き渡っていたのですぐに思いついたようだ。


「メイヴェンだって!? 何でまた、メイヴェンなんかに行きたいんだ? そもそも、誰に聞いたんだ? それに、何をしに?」

「メイヴェンに行く用事があるから。首都の名前は、これから知っていく。会いたいのは、カウセス王国第四王子のアリル王子に」


 母はこの村からあまり出ることが無いから知らないのは当たり前だが、たまに町へ出かける父もアリル王子のことは知ら無いようだ。まぁ、お披露目はされていてもメイヴェンでくらいだろうし、第一と第二の王子が目立っているので第四王子なんてきにもかけないだろう。


「すぐにでも行きたいんだ」


 早く王子たちに会って、今後の方針を決めたかった。

 しかし、予想はしていたが、父は首を縦に振ってくれなかった。


「ダメだ」

「何で?」

「お前は子供だし、メイヴェンは遠すぎる。そもそも、王子様に会ってどうするつもりなんだ?」「今言った通り、襲ってくる魔王軍に対抗すべく話し合いをするために」


 嘘をついたところで、子供の俺一人ではメイヴェンへたどり着くことが出来ない。無駄だと思いつつも、もしかしたら父がメイヴェンに行く用事があってそれについて行くことができれば、とおもったけどダメなようだ。


「何か、変な物語でも読んだな? あぁ、そうか。あの日の詩人か……」


 この村にも、時々、先ほど言った詩人がやってくる。ただ、最近来たのかは俺の中では古い記憶過ぎてどうか分からなかった。


「とにかくダメだ。お前はまだ幼い。大きくなったら……まぁ、なるべくこの村に残ってほしいが、外へ出る機会もあるだろう」


 その時に行けばいい、と父は暗に言ってきた。でも、それでは遅いのだ。

 その外へ出る機会、というのが、このままいけば徴兵ということになる。


「分かったよ」


 不服な顔をすることなく、簡単に頷いておいた。

 それに母は、「良い子ね」と優しく抱きかかえて、頭を撫でてくれた。


「父さん、明日は柴刈りに行くから、ナタを借りても良い?」

「あぁ、いいぞ。――ただし、馬鹿なことをするなよ? あくまで、柴刈りをやるために貸すんだからな」

「分かってるよ」


 あんな馬鹿な話をした後に、柴刈り用のナタを貸してほしい、と言われても馬鹿なことをしているようにしか見えないだろう。

 でも、軽く注意してくるだけで簡単に貸してくれた父は、何だかんだで俺のことを信用してくれているのだ。


 それが、とても嬉しかった。


12月15日 誤字修正をしました。

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