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EP.004[パーティー]

 数年前にハマった深夜アニメのオープニングテーマが耳に入る。

 眉を寄せて上半身を起こす。

 あくびをして、ようやく意識がはっきりとする。

 これは携帯電話の着信音だ。

 サイドテーブルに置いてある携帯電話を取り通話に出る。


「もしもし」

「お、おきたか」


 低いおっさんの声が聞こえてくる。

 ため息を吐いて、返事をする。


「どちらさま?」

「おい! 俺だよ!」

「あー痔?」


 ベッドから降りながら首をまわす。

 そしてパソコンの前に立ち、マウスを動かしスリープモードから立ち上げる。


「痔じゃねぇよ!」

「はいはい、起きたから切るぞ」


 問答無用で通話を終了して携帯電話を机の上に置く。

 スリープから回復したパソコンをいじり、開いていたブラウザー上の公式プレイヤーズサイトを更新する。

 一番上に出た[5/16 緊急メンテナンス追報]を別のタブで開き内容を確認する。


「メンテ開けは4時か……ってかメンテの理由って進行不可能バグかよ」


 呟きながら、パソコンの隣に置いてある電波時計を確認すると3:17と書いてあった。

 40分ちょっと余裕があるな。

 そのまま『Sky』を開き打ち込む。


「メンテ明けまでに飯食ってトイレいっとけよっ……と」


 カタカタと音を鳴らし入力を済ませたら、送信する。

 すると、すぐに自分も準備しなくては。


「おっと、忘れてた」


 集合は中央広場の噴水前、と追加で送信して今度こそパソコンの前から動いた。

 キッチンに向かって電気ケトルのスイッチを入れる。


「んー……塩かな」


 気分で買い溜めしておいたカップラーメンから塩を選んで、隣に置いておく。

 手を組んで背伸びしながらトイレに行き用を足す。

 手を洗うついでに顔も洗って意識を完全に覚醒させる。


 体をほぐしながら、キッチンに戻るとお湯が沸いていたのでカップラーメンに注ぐ。

 線より少し低めになるように調整して注ぐのをやめる。

 着信音と同じ歌を鼻歌で歌いながら、引き出しから箸を取り出してカップラーメンの上に乗せた。

 そして、冷蔵庫を開けて500mlペットボトルのコーラを取り出してカップラーメンと共に持ち、パソコンの前に移動する。


 エル字テーブルのモニターを置いてない方にカップ麺を置いて、コーラのキャップに手をかける。

 少しだけ開けると溜まっていた炭酸ガスの抜ける音が、プシューと聞こえた。

 一気に開けなくてよかった、と思いながら完全に開けて飲む。

 そのまま机の上に置いてから椅子を引いてパソコンの前に座る。

 チューナーで録画した深夜アニメを1つのモニターで流しながら、もう2つのモニターでwikiと匿名掲示板の情報を精査する。

 アニメのオープニングが終わった辺りで、カップラーメンのフタを剥がして啜る。


「やっぱ塩だな」


 カップラーメンをすぐに食べ終えてしまい、机の上に置いてあったクッキーをちょびちょび食べ始める。

 ちらちらとアニメを見ながらブラウザーをスクロールする。


「んー……東の情報すくねーな。でもやっぱ北に向かうか」


 匿名掲示板から有用そうなレスを拾い、手元のメモ帳に書き込んでいく。

 繰り返しているうちに、アニメがエンディングを迎えてテーマソングが流れる。

 それを合図に、電波時計を見ると3:50を示していた。

 ブラウザーの余分なものを消し、公式プレイヤーズサイトを開いた状態にしておく。

 そのまま、キーボードに備え付けられてるボタンを押してスリープモードにする。


 食べ終わったゴミを手に取り、立ち上がりキッチンに向かう。

 ゴミ箱に捨てたら念のためトイレにもう一度行く。

 トイレから出てきたら手を洗ってそのままベッドに向かい、サイドテーブルに乗せてた『VRV』を装着して横になる。


「ヴァーチャル・ダイブ」


 音声起動をすると、触覚が消えていった。

 気が付くと、コンソールの前に立っていて、プレイタイトルの選択を迫ってくる。

 迷うことなく≪Expedition Online≫を選ぶと、サーバーメンテナンス中だと言われる。

 構わず選択、弾かれる。

 選択、弾かれる。

 選択、通った。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 最速タイでログインすると、緊急メンテナンスに入ったせいなのか、始まりの街の中央広場に居た。

 こりゃ場所変えたほうがいいかな、と考えているうちにみんな集まっていた。


「うっす」


 片手をあげながらやってきたジークだったが……。


「おい、なんだ、その背負ってるの」

「ふっふー、いいだろう」


 早速、狙撃銃にいちゃもんを付けてきた。

 目ざといやつめ。


「……気づいてなかったの?」

「は?」


 クルーネからもきつい言葉が飛んでいきジークに突き刺さる。


「ん~っとねぇ、wikiに載ってたよー」

「マジで!?」


 アリエルからも追撃があり。


「吾輩も見たぞ!」

「うっそぉん」


 ノワールからのとどめがあり、ジークのHPがゼロになった。

 そのまま、ポリゴンとなり……。


「消えて行ったのであった、さらばジーク、永遠に。」

「死んでねーっつうの!」


 復活の速いやつめ。

 全員集まってるのを確認する。


「wikiに乗せてないこともあるからパーティチャットするぞー」


 全員にパーティ申請を送って、パーティを組む。

 揃ってる事を確認して満足気に頷く。


『それで、なんだ?』

『聞いて驚け……インスタンスダンジョンへの片道切符を手に入れたのだ!』


『『『『は!?』』』』


 声を合わせて驚かれた。

 ふふふ、どうだ。


『なに、レッドオーガを倒したらドロップしたのさ』

『かっこつけてないでー、情報プリーズぅー』


 催促されて、全て話した。

 入手に至る経緯も含めて。


『うぅむ、休憩なぞいかずに、ギルマスに付いていけばよかったぞ!』

『ほんとだよねー、ずるーい』


 雲行きが怪しくなってきた。

 完全にダメになる前に流れを変えなければ。


『ってことで今から行こうか』

『……賛成』

『よっしゃ、気合がみなぎるぜ』


 しかし、こういう系の使うと無くなるアイテムは全員で持ち寄るのが最も効率がいいんだが。

 そうすれば自分は1つしか消費せずに、人数分いける。

 ……そうだ、持ってる人居るじゃん。


 メニューからコミュニケーションを選んでフレンドリストを開く。

 唯一のフレンドはちゃんとインしていた。


 《もしもし、ヘイズルだけど今平気?》

 《あ、どうもっ。さっきぶりですね!》


 共に激戦を乗り越えた戦友と個人チャット……ウィスパーチャットがつながる。


 《今から例のインスタンスダンジョンに行くんだけどさ、一緒にどう?》

 《あ、もちろんいいですよ。僕の分も行きますか?》

 《ぜひぜひ……あ、僕のギルメンも一緒だけどいいかな?》


 知らない人がいるなら行かないって言う場合もある。

 というより、ある程度ゲームが成熟していくとそういう事ばかりになる。

 この人の募集だから行こう。この人の募集は空気悪いから行かない。みたいな。


 《もちろんですよ、というかペアで行こうって言われたらどうしようかと》

 《よかったよかった。迎えに行くから噴水広間で待っててくれる?》

 《りょーかいでーすっ》


 ウィスパーチャットを終わらせて、パーティチャットにする。

 未だに「レッドオーガずるーい」と話し合っている。


『例のレッドオーガを一緒に倒した占星術師も来るらしいからちょっくら迎えに行ってくる』


『任せたぞ』

『行って来い』

『いってらー』

『……てら』


 メンバーの声援を受けて、広場に向かう。

 結構、インしてる人も増えてきて混雑していた。

 けど、ぴょこぴょこ動く亜麻色の髪はとても目立っていて。


「よ、待たせた?」

「来たばっかですっ」


 待ち合わせたカップルみたいな会話をしながら、移動を開始する。

 すこし、視線を感じるが……wikiを見た人か、盗撮スレの人か。

 いちいち気にしててもしょうがないしフラックスを連れて逃げる。

 幸いにして、追ってくるなんてこともなく、無事もどれた。


「この人が俺とレッドオーガを倒したフラックス。ちなみにドロップしたのはブーツだそうだ。」


 4人の仲間にフラックスを紹介する。


「よっろしくねー、ところでツインテールにしてるけど何つかってるの?」

「西の森の蔓です、よろしくです」


 クルーネが挨拶よりも髪の結び方を気にして真っ先に話しかけた。

 そんなあいさつでいいのか。


「よろしくな、俺はジークだ」

「痔だ」

「よろしくお願いします、痔さん」


 ジークの挨拶中に小さく割り込む。ばれるはずがない。


「痔じゃねぇ! おいヘイズル! 痔さんとか呼ばれてるだろおい!」

「ん? 俺は何も言ってないぞ、聞き間違いだろ」


 何故かばれかけたけど、ジークだしほっとこう。

 どうでもいいし。


「……クルーネ。よろ」

「クルーネさんですね、よろしくです」


 口数の少ないクルーネにも朗らかに挨拶を交わす。

 これは余談だが、クルーネは前のゲームでもいちいち「……」を打っていた。

 なんだよそのこだわり。


「吾輩はノワールである! 鉄巨人である!」

「……よろしくお願いしますね、ノワールさん」


 流石のフラックスでも対応しきれないのか、少し引いている。

 キャラ濃すぎなんだよ。


「それでこの騒がしい連中が俺のギルド【Win-TIGER】のメンバーだ」

「はいっ、よろしくです!」


 一通り自己紹介は終わったかな。

 よし、フラックスにパーティー申請を送ってっと……。

 数秒後、受諾された。


『じゃあインスタンスダンジョンの話するぞー、パーティーチャットでな』


 と言っても、あんまり悩む必要もないな。

 職業ごとにできることは決まってるし。


『タンクはノワールな』

『もちろんである!』


 格闘士。言い換えればモンクであるノワールは、敵のヘイトをコントロールして、ダメージを一手に担う役目。

 一般的なMMOだと盾を持っている場合が多い。

≪Expedition Online≫の格闘士は、パリィと言って、受け流し専門のタンクだ。

 敵の攻撃を流してダメージを抑えるのが主。

 更に、種族特性として鉄巨人はVIT――耐久力が高い為、タンクにはピッタリだったりする。

 AGI――機動力が低いのが玉に瑕だけど。



『サブタンクはジーク』

『おう!』


 ジークはベルセルク。狂戦士とも訳されるそれは、≪Expedition Online≫ではスイッチ職として扱われる。

 リキャストはあるものの、オンオフが任意で可能だ。

 オンの時はVITを下げる代わりにSTR――物理攻撃力とAGIが上がる。

 オフの時はその逆であり、タンクの代わりにヘイトコントロールしながら耐えることや、攻撃に参加することも出来る職業だ。

 また、龍人はSTRとAGIが高く、MPが低い。



『クルーネはヒーラーを頼む』

『……おk』


 クルーネはクレリック。浄化魔法や治癒魔法を主とする。

 ヒーラーは、パーティーメンバーの命を担う役と言っても過言ではない。

 もちろん、状態異常やダメージの回復も重要ではあるが、タンクがコントロールしきれないヘイトを稼がない事が重要だ。

 基本的にMMOという物は、回復の方がヘイトを稼げるように出来ている。

 つまり、本気で回復しまくれば敵がヒーラーを殴りに来て、ヒーラーが死んでしまいジリ貧のまま、壊滅。も、ある。

 優秀なヒーラーはタンクを殺さず、ぎりぎりで生かしながら敵を殴るという。

 クルーネの種族は……聞いてないな。



『アタッカーはアリエルと俺』

『はいはーい』


 アリエルはウィザード。

 MPを消費して-Marchen-に命令を送って超常現象を引き起こす職業。

 基本的に攻撃魔法がメイン。

 狐獣人はINTとMIND――精神値に補正で、STRが下がるらしい。


 俺はガンナー。

 ちなみにエルフはVITが下がりINTとMIND補正。


 アタッカーは簡単だ。敵を殴って殺す。

 ダメージディーラーともいう。



『最後にバッファーはフラックス』

『了解です!』


 占星術師はランダムに13種類のカードを引き、対応するバフを正しく味方に付ける職業だ。

 また、妨害系の魔法や、攻撃系、治癒系も使えるため、状況に合わせて冷静な判断をする職業。

 彼女はヒューマン。人間だ、補正無し。



『じゃあ、インスタンスダンジョン〔悪鬼洞〕に挑戦だ!』



 ネトゲ廃人の朝は早い。

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