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EP.003[勝利]

「あれがレッドオーガか」


 フラックスの案内により30分ほどかけて、岩場についた俺たちを待っていたのは3メートルほどの大きさの赤い塊であった。

 牛のような顔に巨大な2本の巻角を有し、筋肉質の体は不格好なまでに大きく、腹回りは巨木のそれと大差ない。

 微かな知性の表れなのか、腹の下にはボロボロの毛皮を巻き付けている。

 奴に気づかれぬよう、手ごろな草むらに息をひそめる。


「フラックス、占星術って狙って出せる?」


 先ほどの技量が上がるバフの事だ。

 あれ自体は1分ほどで効果が消えてしまったから新しいのがほしい。


「そうですね……、ドローを繰り返して出るのを待つのでしたら」

「そうか、じゃあ頼む。バフが掛かったら俺が突っ込むから援護よろしく」

「了解です。<ドロー>っ」


[♉]


 どうやら1発で引けるほど運が良いわけでもないようで少しだけ安心する。

 レアエネミーとのエンカウント率だけでなく、引きたいカードが引けるならそれは運命と言っても差し違えない次元なんだがな。


「<ドロー>っ」


[♎]


 あ、きた。

 聞いた話によると13種類あるらしいんだが2番目で引くってやっぱり運が良いな。

 カードのバフが飛んできてDEXが上がった。

 それを確認してライフルを構える。


「<魔装弾>ッ!」


 MPを消費するアクティブスキルを発動すると銃弾が発射される。

 薬莢が地に落ちて音を鳴らすと同時に、寸分の狂いもなくレッドオーガの頭にヒットして奴のHPを3割ほど削る。

 防御力無視の銃弾をヘッドショットしても3割とはなかなかに心に来るが、逆に言えばあと3発同じのをぶち込めば倒せるという話であり……。

 ダメージを与えられたレッドオーガのヘイトが俺に向かう。

 それを確認してから飛び出す。


 奴は一見して素手だから距離を保ちながらなら何とかなる。

 そう思っていたが、流石はレベル7。手ごろな石を拾い投擲してきた。

 銃弾ほどの速度はないものの、プロ野球選手の投げる球のような勢いでこちらに向かってきた。

 再度ステップしながら引き金を引く。

 発砲音がなり、タイムラグなく奴の腹部にヒットするがダメージは軽微。

 HPを5%も削れていない。

 やはり、ヘッドショットをしなければならないか……。

 と考えていると再び石が飛んでくる。

 ステップでよけながら頭を狙って魔装弾を放つが微かに外れて角を折る。

 部位破壊によるものか、ヘイト値によるものかは分からないが石を投げるのをやめて突進してくる。

 それは思ったよりも高速で避けきれない、と思った。


「星言葉は”ナチュラルな穏やかさ” 彼の星の銘は”ベータ・インディ”っ!」


 フラックスの唱えた呪文により、レッドオーガの突進が1秒とまった。

 しかし、その1秒が非常にありがたい。


「グッジョブッ。<魔装弾>」


 ステップで回避しながらMPを10消費して弾を放つ。

 そして狙いたがわず奴の頭にヒットしてHPを減らす。

 ――残り30%ッ!


 硬直から解放されたレッドオーガは、既に虚空となっている空間に突進していった。

 そのがら空きの背中に向かって撃つのは<麻痺弾>。

 3%ほどHPを削ったそれは低確率を成功させてレッドオーガを麻痺させた。


 良しッと声が漏れる。

 痺れの影響で動きが鈍くなったレッドオーガの頭部に照準を合わせることは容易で――。


「<魔装弾>」


 だが、その言葉の途中で[♎]のバフマークが消えた。

 そしてそれはただならぬ影響を及ぼして、ぶれた銃弾はレッドオーガのもう一つ残っている角を折る結果となった。

 そして奇しくもそれが引き金となる。


 空気を震わす咆哮。

 感覚的に終わらせたいと思い、トリガーを引く。

 しかし、無情にも発砲とはならなかった。

 よく見ると弾切れのアラームだ。


「……ッ! <リロード>」


 そして、レッドオーガは無くなった2本角の代わりに炎を生やした。

 否、角だけではない。腕や尾などからも炎を立ち昇らせている。

 オーガはその炎に包まれた右腕を振るう。

 腕の届かない距離に居た俺だったが、炎が伸びてその攻撃が直撃する。

 ノックバックが発生して吹っ飛ぶ。

 幸いにして、HPは1/3減ったというところだ。

 レベル様々だ。


「星言葉は”攻撃性を秘めた理想” 彼の星の銘は” シータ・コロナェ アウストリーネェ”っ!」


 呪文により-Marchen-に命令が送られてフラックスの目の前に荷電粒子が生成される。

 そして、それはある時を境に亜光速で発射された。

 つまり、フラックスから白いビームが伸びる。

 それはレッドオーガの脚部に直撃して圧倒的熱量でその身を焦がす。

 というのが-Marchen-によって引き起こされた現象である。

 その熱量とは裏腹に、ダメージ計算は別で行われており……。

 見た目ほどのダメージは与えられない。


 だが。


 物理現象は引き起こす訳で、レッドオーガの片足を見るも無残に吹き飛ばした。

 部位破壊によるダウンで身動き一つ取れなくなったレッドオーガに別れの挨拶を述べる。


「<魔装弾>」


 破裂音が空気を震わせ、薬莢が落ちる音が終了を告げる。

 そして、眉間に風穴を開けたレッドオーガはポリゴンの塊となり、消滅していった。


[Result]_________________________[×]


 Congratulations!

【討伐】

 ┗レッドオーガ


【入手】

 ┣920EXP

 ┣5170Money

 ┣フレア・デモニオ

 ┗ダンジョンキー〔悪鬼洞〕


 _____________________[Expedition Online]



 更に、電子音と共にレベルアップの通知がきた。

 それに伴ってHPとSPとMPが全回復する。

 また、入手したアイテムを見てみよう。


【フレア・デモニオ】

 ┣威力:100 属性:炎

 ┣炎鬼の力が封じられている狙撃銃。

 ┗5%の確率で対象に火傷。


 お、新しい武器ゲットだ。

 威力:100と書いてあるが、現在の【ノービス・ライフル】は威力:70なので約1.5倍のダメージが期待できる。

 銃はSTRやINTに依存しない武器種の為、武器の交換が重要だ。

 ただ、気になるのは属性:炎である。

 炎属性に抵抗があるエネミー相手だと【ノービス・ライフル】の方がダメージの通りがよさそうだ。

 それに、狙撃銃だからメインで取り回すのは難しいだろう。

 とはいえ≪Expedition Online≫はツインウェポンシステムを搭載している。

 単純に言えば、武器は2つまで装備できますよ。という事だ。

 なので、気にせずにサブウェポンに装備する。


 すると、背中にずっしりとした重みが加わった。

 そして背から外してまじまじと見る。

 狙撃銃と書いてあった通り、長い銃身を持っていた。

 通常のそれとは違うところは、スコープを接続している部分が先ほどのレッドオーガの角と酷似している所や、バレット……銃の尻の部分から伸びる炎の紋様だろう。

 ひとしきり鑑賞した後、構える。


「コマンド・スクリーンショット」


 呟いた瞬間、幽体離脱したかのような感覚に陥る。

 感覚で空中を浮遊する。そして、狙撃銃を構えている自分が一番かわいく見える角度からいつの間にか持っていたカメラで撮る。

 満足したのでスクリーンショットモードを解除すると自分の体に戻った。


「それ、ドロップしたんですか?」


 フラックスが嬉しそうに話しかけてきた。

 そのフラックスは先ほどとは違うブーツをしており……。


「ああ、そっちはブーツ?」

「そうですよー、ばれちゃいましたか」

「まぁな」


 ニヒヒとお互いに笑う。


「そう言えば、ダンジョンキーとかっていうの落ちたか?」

「はい、どうやらインスタンスダンジョンへの片道切符みたいですね」


 インスタンスダンジョン、IDとも呼ばれるそれは一時的に外部から遮断されたダンジョンが生成されて、特定以下の人数で挑戦するダンジョンの事である。

 そのダンジョンに挑戦できるアイテムってことか。

 あとで、ギルドで行くか。


「じゃあありがとうございました、助かりましたよ」

「いや、いいって。俺にも実り多かったし」


 指輪と狙撃銃、それだけで大満足である。

 狙撃銃の事wikiに載せないとなぁ……。と思っていると「あの!」と声をかけられた。


「フレンドいいですか?」

「もちろん」


 ネットゲームでのフレンドという物は基本的にその人がインしているかどうかを見るためであり、そう難しい物でもない。

 むしろ、フレンドだけ交換してその後、絡むことない人だってたくさんいた。

 ただ、まぁこの子とは再び組む予感がするんだけどね。


「じゃあ街まで戻りましょうか」


 それに同意しようとした瞬間に、アラーム音が鳴った。


[◇運営チームからのメッセージ:こんにちは、運営チームです。大変盛況な状況ではございますが、予期せぬ不具合を確認いたしましたので5分後にサーバーを閉じさせていただきます。皆様方には大変申し訳ないのですが、しばらくお待ちください。メンテナンス終了時刻に置きましては、追って公式サイトの方で連絡申し上げます。また、今回の不具合修正によるロールバック等は発生いたしません。これからも本ゲームをよろしくお願いいたします。◇]


 ……まぁしょうがないか。

 ネトゲにはありがちだ。


「あらら……」


 フラックスと顔を見合わせて苦笑する。


「じゃあまた今度」

「はい」


 そう言って俺たちはログアウトした。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ベッドに横になっていた俺は起き上がり、ヘルメット型のVRハード『VRV』を外して時計を見た。

 今の時間は19:20といったところだ。

 サーバーオープンが15:00だったのでゲーム内時間で13時間ほど遊んだことになるのだろうか。


 ベッドから降りてパソコンの前に座る。

 3つあるモニターの内の1つに写る、無料通話サービス『Sky』のグループ会話を見る。


 ジーク:メンテバーストwww[19:21]

 クルーネ:メンテバーストwww[19:21]

 アリエル:メンテバーストwww[19:21]

 ノワール:メンテバーストwww[19:21]


 思わず、苦笑い。

 恐らくSNS『Twilight』でも「メンテバーストwww」と流れているのだろう。

 まぁ、ネトゲにある程度慣れてる人間は心が壊れてメンテナンスするたびにこうやって笑ってごまかす癖がある。

 さてと、グループ会話に書き込むとしよう。


 ヘイズル:メンテバーストwww

      メンテ空け監視は俺→痔→ク→ア→ノで。1時間交代。

      携帯はコンセントに刺しておいてマナーモードは解除しとけよ。[19:22]


 簡単に説明すると1時間ごとに1人ずつ起きてメンテナンス終了を監視するという物だ。

 そして1時間経つかメンテが終わったら全員の携帯に電話をして無理やり起こす。

 起きるまで電話をしまくる。


 ジーク:痔じゃねぇよ。[19:22]

 クルーネ:おk[19:23]

 アリエル:はい[19:23]

 ノワール:うい[19:23]


 うむ、みんな了解してくれたようだし、wikiを編集した後、匿名掲示板で情報収集だ。

 そうと決まったら軽食をとろう。食べれるときに食べる。

 冷凍食品の焼きおにぎりがあったはずだから……。

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