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夏のハレ  作者: パシリ
9月1日
2/2

祭囃子

登場人物

ナツノ

手塚将一 (てづかしょういち)

クラスメイト達

「失礼しました」

 自分でもわかるほど抑揚のない挨拶とともに応接室を出て自分のクラスに向かう。

 私としてはこの先の展開が嫌というほど読めるのでこのまま自主休講(高校だと休校か?)するのが理想なのだが・・・出席日数や先ほどの()()()()のことを考えるとやはり教室に行くしかない、というのが現実であった。


 応接室から帰って来た私を待っていたのは

でかでかと黒板に書かれた「自習」の2文字とーーー

案の定クラスメイト達からの野次馬根性むき出しの視線とひそひそ話だった。

「ねぇ、やっぱりナツノさんだけ無事みたいよ」

「無事って・・・他の奴らも遊んでるだけだろ?」

「でもナツノさんが関わってるなら何かあるかもーーー」

「そうそう!アイツ何考えてるかわかんねーし、マジで今回ヤバくね?」

「そういえば誰かの姉ちゃんがナツノに泣かされたって話は・・・」

 冗談じゃない!こちとら今まで泣きじゃくる欧米人や意味不明の質問しかしない駐在相手に

3時間も拘束されてたのよ?挙句今日1日このひそひそ声に晒されて学校にいろというのはいくらなんでも酷ってもんだ。

 だがまあ、この周囲の興奮や燥ぎ様は分からなくもない。席に着きながらこの村のことを改めて考える事で周囲の声を意識から追い出す事にする。

 総人口5千人ちょっと面積77.05 km²程度のこの村では何か事件が起こればすぐに伝わってくるものだが、住民性なのか如何せん「緊急」などという言葉からかけ離れたこの村では「6人の若い男女に連絡が付かない」なんていった事件は17年間この村で育った私の知る限り最大級のインパクトを持つ出来事だ。

 ・・・というか今までに事件なんて何も無かったという方が正しいのかもしれない。

「2年くらい前に有名などーぶつ博士だか医者だかが観光に来ただけで大騒ぎしたもんなぁ」

 私は聞いたことも興味もなかったがエミリがアツく話していたので憶えている。

「ねぇ、今良いかなナツノさん?」

 そういえばエミリ達親子が来た5年前も話題になったな、今思うとよくもまあ私なんかと一緒に

「起きてるよね?ナツノさん?ナツノさんってば」

 そういえば村長がこの前無防備都市宣言を発議したが、全く話のタネにもならなかった。

公共的に見た村の動きや人口や面積までを把握している事が私の自慢の一つだが正直他人理解は得られないだろう。

「ナツノさん、ナツノさん」

 この時間終わったらもう帰ろうかな・・・

「ナツノさんってヴぁ!」

 ・・・

「何ですか?私眠ってたんですけど。睡眠の・・・不足なんですけど!」

「いや、さっきからブツブツ呟いてたし寝言って感じでもなかったよ・・・寝たふりしてたの?そういうの君はよくやってるのかな?」

 私の特技「突っ伏して寝たふり」を見破るだけじゃなくサラッと抉ってくるとはデキルぞコイツ。

ていうか

「どちらさん?」

 本気でわからん。

 かなりマズいぞ、ただでさえ浮いているのにクラスメイトの顔も覚えてないことがバレると一体どうなってしまうんだろう。

「ああ、ごめん自己紹介がまだだったね。僕は2組の手塚。今まで一緒になったことなかったけど」

 ヨロシク、とどこぞのCM顔負けの白い歯を見せて手を差し出してくる。

よく見るとかなり整った顔立ちで如何にも「温和」といった言動も合わせると

その挨拶だけで彼に好印象を持つ事が出来るだろう。さっき傷を抉られた私以外だったら、ね

「そう、で手塚君はなんで隣の教室に来て私の隣に座ってるのか教えてくれる?」

 会ったことがないのに私を知っている事に関しては悪目立ち関連だろうから突っ込まない。握手もスルー。そもそも、そんなキャラじゃないし私。

「ああ、この席はナツノさんに話があるって言ったら君の隣にいたサワ君が快く移動してくれてね。」

 あの理系オタク・・・余計なことを

「分かったわ、で話って?」

「ああ、それなんだけど」

 ここではちょっと・・・と言葉を濁した手塚の視線を追ってようやく教室内に意識が向いた。

「手塚の奴、ナツノに何の用かな」

「あれじゃない?彼って睦月君と仲良かったし」

「それっぽいな、てかマジでナツノが黒幕なんじゃね?」

「黒幕ってお前、それ言うなら犯人だろ」

 こいつらまだ飽きてなかったのか。というかそういった話はせめて本人に聞こえないようにしろよ

くだらない恋愛話しなんかはきっちり声落とす癖にホント。

「とりあえず外に出ない?さっきこっちの担任に聞いたんだけど臨時会議だかで今日は昼から休校か自習になるって言うんだ」

「休校・・・学校はかなり重く捉えてるみたいね」

「そりゃそうさ、77km²の中で5000人中6人も消えたんだからね。一大事だよ」

「へぇ・・・でどこに連れてってくれるワケ?」

「えっ?僕の話に付き合ってくれるのかい?」

「そんなに驚くことかしら」

 手塚は心底驚いた様な表情だが私としては寧ろ付いていかない理由がなくなったので必然の発言である。

「あ、いや。ナツノさんはもう少し気難しい感じかと」

「そうじゃないと感じたなら貴方、ちょっとズレてるわよ」

「やはり会って話さないと分からないことばっかりだね」

 微妙にかみ合わない・・・これが男女の差か?それともイケメンとそうじゃない奴の?

「何が分かったの?もしかして本気で気難しくないとか思ったわけ?自分でいうのもなんだけど私・・・」

「ああいや、ただナツノさん可愛いなって君がさっき笑ったとき思ったんだ」

 コイツ恥ずかしがりもせずに言った!

しかもさっきのは私的に「ズレてるおバカさん」みたいなニュアンスの笑いだった気がするし・・・

ていうかお世辞でももう少し考えて言って欲しいものだ。生まれてこの方「可愛い」なんてじいちゃんからも言われたことがないぞ

いや…私にそう言ってくれた娘が1人だけ居たのか。

「やっぱりさっきのは前言撤回するわ」

「え?」

「貴方かなりズレてるわ」

「よく言われるんだ、でも僕のあり方だから」

そういって笑顔100%で再び右手を差し出してくる。相変わらずの白い歯と言葉選びだが

今回は握り返すことにした。

変人に乾杯。

クラスメイトの囁き声は再び私の耳には届かなくなっていた。

読んでいただいてありがとうございます。

読みにくかった点や分かり難いところなど

指摘していただけるとうれしいです。

また描写がどこまで許容されるのか新参者でまだわからないので今後そういった指摘や忠告アドバイスなども嬉しいです。

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