1st 0-1 番外編 1
遅くなりました。すいません。
今回はちょっと苦労しまして…。
藍夜君の過去編と言う感じです。
これは僕が虐められた記憶。
これは私が自分の愚かさに気付いた記憶。
そして二人の想いが変わって行く記憶。
***
「ただいま…」
「んー。」
私の名前は神尾紅陽、普通の15歳。
学校は私の事を天才だと持て囃す、まあ、悪い気はしない。寧ろもっと言え。私の通うA中学校は進学校として結構有名である。テレビに出てる子役の子とかも何人か入ってる。(まあ、私の敵じゃない。)私はそんな学校の生徒会会長だ、お母さんもお父さんも喜んでくれた。
愚弟も嬉しそうな顔をしていた。そこらの子役より断然可愛いが、何故かスカウトとか全然受けない、何故だ?
「藍夜~、お茶頂戴~!」
「うん、どうぞ。」
うむ、今日もご苦労。
私の為に尽くせよ?
***
9月 21日
今日も沢山殴られた。体のあちこちが痛い。
でも、これを姉さんに言うつもりは毛頭無い。脅された訳じゃないし、姉さんに飛び火するのが怖い訳じゃ無い。姉さんには飛び火しても親衛隊の皆さんがいる、僕が怖いのは、僕が虐められた事実を姉さんに知られたく無いから。今まで迷惑を掛けたから、虐めくらいは自分で解決したかった。
そう思って何年目だ?
全然進歩が無いじゃないか。
守られるのはもう、嫌になってきた。
卒業まで、耐え忍ぶ。
結論はそんなことだ。
***
「行くよ、藍夜。」
「うん」
家の愚弟は愛想が無い。なんでもかんでも「うん」か「はい」のイエスマンだ。この前もちょっとした冗談で、東京の美味しいお店のスイーツを買ってこいって言ったら土日を使って本当に買って来た。かなり驚いた。冗談だと言うと、「でも美味しそうだよ?」とか言ってた、しかも私の分しか買って来てなかったのだ。(実際、美味しかった。)鳥肌が立ったね。
そんな私の愚弟だが、最近様子がおかしい、何かを隠している気がする。「家族間の隠し事は禁止」と母さんも言っているのに、だ。それとなく聞いてみたが、全く真意が解らなかった。まるでパンドラの箱だ、気になって仕方ない、でも、開けたら後悔する気もする。
何か、気に入らない。
おっと、もう着いたみたいだ。こんなことを考えていたら既に10分も掛かっていたらしい。学校が近いって良いね♪
「じゃあね、ちゃんと勉学に励みなさい。」
「はい、姉さん。」
私と愚弟はそこで別れた、なんとなく後ろを振り返ってみた。
愚弟の背中は小さい、でも、今日は何時もより小さくて、虚飾で塗り固められて、直ぐにでも潰れそうだった。
***
9月 30日
今日も沢山殴られた。頭が痛い。水を掛けられて風邪にでもなったかな?まあ良いや。
虐めの頻度が多くなった。大丈夫、まだ耐えれる。絶対に気付かれちゃ駄目だ。虐めは自分で解決する。姉さんは喜ぶかな?僕が虐めを何とかしたって聞いたら。姉さんはおじいちゃんの学校が好きだから、喜んでくれるよね?
その為なら、例え殴られて骨を折っても、撲られて内臓が壊れても、消えない火傷があっても、リンチされても、殺されかけても、溺れかけても。
許してあげる。
姉さんの為に。
もう眠いよ、寝よう。
***
その日、私は珍しく忘れ物をしてしまい、学校に戻っていた。私も人間だし、忘れ物くらいするよ!誰だよ、私が今まで忘れ物したこと無いって言った奴。出てこい、忘れ物し辛くなったじゃないか!
「………っ、………?!」
「………ぁ!」
むむ、喧嘩か?神聖な学舎で喧嘩を起こすとは、よそでやれ、私が止めなきゃじゃないか!めんどくさい。
でも、何か聞いたことがある声だった。
私は恐る恐る覗いて見た。
びっくりした。
愚弟が口論していたのだ!何時もイエスマンだった面影は無く、何かに対して激しく怒っているようだ。心無しか口調も荒々しくなっている。
「テメェ…さっさと言うこと聞いて紅陽先輩連れて来いや!」
「嫌だ、つってんだろが、自分でやれや。んで親衛隊の皆さんに絞められてろ。お前には渡さねえよ。」
……………え、誰?
あ、あれ?誰?私、あんな弟知らない、あれは猫を被ってたの?猫って言うか全ての可愛い小動物をまとめた様なものを被ってたけど、ああ、ちょっと待って、藍夜、そんな怖い顔しないで、何時もの頼りない感じにしてくれると私的にはとても有難いんだけどってそうじゃない!
何があった、藍夜。
とりあえず、殴り合いに発展する前に喧嘩を止めなきゃ!
「ちょっと、私の弟に何か?」
「!?」
「姉さん…?」
「さっきそこでチラッと聞いたけど、私に何か用があるみたいだね?何かご用ですか?」
「ちっ……何でもねぇよ。藍夜、覚えてろ。」
「生憎と僕が出てる間は何も覚えてねぇんでな。」
そう言って生徒Gくらいのモブは歩いて行った。
よし。
「藍夜、どうしたの…?そんなに口悪くなっちゃって。」
「解離性同一性障害って知ってるか?」
勿論知っている。俗に言う多重人格の事だ。本人が堪えられないストレス等の精神的ダメージを、自分の事でないと感じたり、その時の嫌な思い出なんかを記憶から切り離してそれを思い出せなくして精神的ダメージを軽減する事で引き起こされる障害、中には離人病や解離性健忘等の障害があるなかで、一番重い病気で、切り離した感情や記憶が成長して、別の人格が表れるっていう感じの心の病気だ。
「勿論知ってるよ?」
「その病気なんだよ、僕は。」
まあ、話の流れからしてそうなるね。
「僕が出てきたのが…三、四年前か?心が弱すぎたんだ、母さん達は仕事、姉さんは小中変わらずずっと生徒会長と言うハイスペック。それなのに僕は何をするにも平凡その物。負い目も感じる訳で。」
「いや、学年2位は平凡じゃないと思う。」
「姉さんに比べれば屁でも無いさ。万年1位じゃないか?」
「いやまあそうだけど。」
それはまあ、努力の証ですから。
「頼る人が居ない訳じゃない、頼ろうと思わなかった訳でも無い。なのに何で僕は頼らなかったか。」
「……………?」
「褒められたかったんだよ。」
「え?十分褒められると思うんだけど?」
「褒められるのが普通だと思っちゃ駄目だぜ、姉さん。」
「どういう事よ?」
「姉さんにはカリスマ性、リーダーシップ、協調性、判断力、実績と、色々あるけど、僕にはそれらが皆無なんだよ。小学校の時からは姉さんと比較され、周囲から「いまいち努力が足りない」とか言われて、だからと今までより一層勉強すれば「目障り」だと虐められる。挙げ句には「お前の姉が気に入らない」と殴られる。そんな中、健気に耐えた心はぼろぼろになっていった。」
「え…?!」
「…これで僕からは終わりだ。元に戻ったら僕の事は言うなよ?」
え、何、話が急展開過ぎてちょっと混乱してるんだけど?!
「…あれ?姉さん?」
「へ、あ、ああ戻ったのか…?」
「なんの事?あ、どうしたの?こんなとこで。」
「えーと、た、たまたま見つけたから一緒に帰ろうかなぁ…なんて。」
「うん、良いよ。帰ろ。」
翌日、私は初めて忘れ物した。
***
10月 1日
先輩に呼び出されて待ち合わせ場所に行ったけど、居たのは姉さんだった。
僕を待っててくれたらしい。凄く嬉しい!
先輩との約束を破る事になるけど、きっと殴られるからいいや。痛いのは嫌だし。
それよりも、姉さんを拐って強姦するとかしないとか、そんな噂を聞いた。場所は割れてる。
何が出来るか分からないけど、事前に迷惑行為を仕掛けとこう。
今回は姉さんを狙っているようだ。させない。相手は複数らしい、全員刺し違えてでも殺す。
姉さんを守る為に。
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