表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

特殊能力者の快楽

未来を見る

作者: なむなむ

その日は雨が降っていた。暗い部屋には、男が一人。いや、正確には一つ。床に伏せたまま動かなかった。

回り込んで顔を確認すると、それは、口から血を流し、虚ろな目の・・・・・・



「俺だった訳か」

目の前の猪野がため息交じりに吐く。

猪野は厳しい目つきで、口に手を当てている。

「だから言ったじゃんか。自分の死に目なんて見るもんじゃないって。それも殺し屋なんて職業の奴が」

コンクリート打ちっ放しの灰色の部屋には、重苦しい空気が横たわり、二人の口を閉ざしている。そこには、しとしとと雨の音が侵入している。

「それはいつなんだ、俺が殺されるのは?」

猪野がすがるように聞く。

「だから、それは分からないって。ただ、死ぬのはこの部屋で、それも遠くない未来だってことは確実だね」


私には、未来が覗ける。ただそれは、時間という絶対の座標を基準としてはいない。誰か、人の一日一日の人生を基準にしての、未来観察だ。


「じゃあ、もう一回見てくれよ。その、少し前を」

猪野は相当焦っている。

「見てどうなる?」

「運命を回避する手掛かりが何か手に入るかもしれないだろ」

「直近の未来は強力だ。そう簡単に変えられるものじゃない」

猪野はそれでも食い下がり、しかし、しかし、と繰り返す。

私も根負けし、未来を覗くことにした。

目を閉じ、集中した。


 部屋には、死体となった猪野の他に、二人の男がいた。二人とも、全身白い服をきて、胸には、十字の赤いペンダントをつけていた。手には拳銃を握っていた。

二人は、何かを探して部屋の中を荒らしていた。恐らく猪野はこいつらに殺されるのだろう。


「何だその白服の男ってのは?詳しく教えてくれ」

聞き終わるなり、猪野はすぐに訊き返す。

「お前身に覚えがないのか?詳しく言うと、髪はどちらも短髪だったが、顔は、隠されていて分からなかった」

猪野の顔は酷く青ざめ、目を見開いて辺りをキョロキョロしている。

「それだけか。まあいい。とりあえず何処かへ逃げよう、な?」

額から大粒の汗を流している。先程よりも強くなった雨が、鉄筋コンクリートをすり抜けて猪野にだけ降りかかっている様だ。

「無理だ。変えられない」

私はあくまで冷たく言い放つ。感情を込めると、冷静な判断が出来なくなるから。

「じゃあ、頼む。もう一度、もう一度だけ見てくれ」

服を掴まれ、私は頼みを断れなかった。二度の能力の発動で、頭が痛かったが、何とか精神を集中させた。


薄明かりで照らされた部屋には、男が二人いた。猪野と、口論をしている、私だった。未来には居なかった私が、この時点では、存在していた。


見るなり、私は近くのクローゼットに駆け込んだ。バタンと大きな音を立て、戸を閉めた直後。


ドアをノックする音が聞こえた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ