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005話 学校というコミュ強の……

 四歳になった。

 四歳ともなれば家の中を自由に歩き回ることができ、ある程度ちょこまかと動くことができる。

 俺は背伸びをしてクローゼットのとってを掴み、全体重を乗せそれを開き中へと駆け込んだ。

 決して広くないその空間で足を抱え丸くなり、一息つく暇もなくどうにか手を伸ばし戸を閉めた、そうして俺は一瞬の静寂に心を落ち着かせる。


「ふぅ……ただいま、俺のマイベストハウスよ」


 まだよく回らない舌で、年齢にそぐわない安堵の呟きを発す。

 それがいけなかったのかもしれない……

 何者かの、小さいパタパタとか効果音がつきそうな足音が迫ってきていた。

 いま俺が逃げ惑っているあの娘は物凄く耳聡い……見つかったとしてもおかしくない。


バタン!!


 クローゼットのある部屋のドアが些か乱暴に開けられた。

 俺は自分の口を両手で押さえ、どうにかこうにか悲鳴をあげるのを抑えることに成功する。


「コニー、どこぉ!!」


 追跡者の声色は非常に可愛らしいが、この声に騙されてはいけない、なんてったってこの声の主は……

 戸の隙間から覗くとそこには……なんとも愛らしい、まるで人形のようだと形容してしまっても何ら恥ずかしくない美幼女、カレン・イングルフちゃん(4才)が俺を探すために尻尾をブンブン振りながらオモチャ箱をひっくり返している姿があった。

 俺に与えられた木工細工のお馬さんが、哀れ壁に叩きつけられる。かわいそうに……


 しかし、クローゼットの存在に気がついてないのか、それとも俺がこんな場所にいると思ってないのか、とりあえずはここがバレる心配はなさs ……


バタン!!


 先ほど開け放たれたばかりのドアが、また乱暴に壁へと叩きつけられた。

 やめて差し上げろ、流石にいつか壊れるから……


「こんっちわーー!!

 ミアかコニー、あっそびにきたよーー」


 声色から察するに我が姉ミア・ウィスタリアの友達であらせられる、元気娘さんこと《アニタ・ブルースカイ(8才)》さんの登場のようである。

 その登場にサッと血の気が引いていくのを感じる、なんてったってこのお方は……


「あれれ? カレンちゃんひとり?

 コニーは、ねっコニーは?」


 アニタが尋ねると、カレンは尻尾をショボンとさせながらこう答えた。


「コニーがね、コニーがね、かくれんぼしてるんだけどねっ、見つかんないの!!」

「ほっほう、かくれんぼねっ

 よーし、わっかた。アニタお姉ちゃんも手伝ったげる!!」


 さ、最悪の組み合わせだ。

 俺はその組み合わさってはならない化学反応に戦慄する。

 俺の中で、暴力のカレン、暴走のアニタと勝手に二強呼びしてる二人の最凶タッグなのだ。

 

 カレンは、種族柄なのか性格なのかは分からないがとりあえず力が強い。それはもう凄まじく、泣いて駄々をこねた時など俺では対処のしようがない、後そのとき蹴られた我が父エドヴァルドが冗談抜きで痛そうにしていた……多分、俺が蹴られたら死ぬ!!


 アニタさんは、姉ズの中でダントツに行動力があり、わりと無鉄砲かつ無鉄砲だ(大事なことなので二回言いました)。特に、探検とか冒険とかの名を冠する遊びは、本気で危険なことを平然とやる。まぁ、一応メンバーに許可はとるのだけど基本巻き込まれる俺に拒否権はない。

 しかし……しかしだ、通常なら我が姉ミアが止めに入るためそこまで酷いことにはならない。つまり、現状ミアがいないこの空間は危険ということだ!!


 どうにかして、この二人に見つかるのだけは……


ニコ……


 アニタさんと目が合った。



「あらあら、コニーがこんなに泥だらけになるなんて、とっても楽しかったのねぇ♪」


 泥やら砂やら、よく分からないモノやらでグチャグチャになった服を脱がしながら、我が母ミーシャは和かにそんなことを言う。

 楽しかったとかではないですお母さん、マジ死ぬかと思いました本当に……河辺で探検ごっこなんて、4歳児がしていい遊びじゃねーですよ。

 思い返すだに恐ろしい光景を思い描く……


 川辺は我が家の裏にあり、そこは付近の住人たちも生活で利用するような場所である。生活用水やら、農作業に使う水やらの調達や、水浴びやらに利用しているわけだ。普通に使う分には何の危険もない。

 しかしだ、その近くに設けられているアスレチック(?)はアカン。ギコギコ異音を立てる吊り橋に、異様に暗いトンネル、ジャンプしないと渡れない丸太など……どこのSASUKEだとツッコミ入れたくなるレパートリー。それだけならまだ良いが、俺はアニタさんとカレンにビビりまくりで心臓が張り裂けそうだった。二人が近づく度に身体をビクビクさせる身にもなってほしい。


「?」


 母が小首を傾げながら顔を覗き込んでくる。俺は実の母の顔に頬を赤らめながらコクリと頷き、そっぽを向いた。

 視線の先には丁度姿見があった。そこに映る自分の姿をマジマジと見てしまう。本当にコレ、俺なんだよな……

 光を透かしてしまいそうな薄い紫色の髪に、エメラルドのような深い緑の瞳、顔は幼いながらに整っており将来イケメンに育つことが容易に想像できる。父と母、両方の特徴を上手い具合にミックスしたハイブリット児……それが今世の俺、コンラッド・ウィスタリアの姿である。


 前世の自分からしたら、あんまりのバージョンアップに毎度頭がクラクラする。

 もっと、こう、普通の見た目でよかったんですよ管理人さん……


「コニー、どうかしたのぉ?」


 母が、モフモフのタオルで頭を優しく包み込む。

 俺は内心ドキドキしながらも、その心地よい不思議な柔軟剤(?)の香りに身をまかせることにした……と、いうより、身体が硬直し動けないためなすがままだ。


(深く考えるのはよそう、とりあえずはエドヴァルドとミーシャの言うこと聞いて大人しく暮らそう……)


 そう思っていた時期がありました。



「コニー、明日から教室に通おうか?」


 それは唐突の発言であった。

 我が父、エドヴァルドの言葉に口元まで運んでいたスプーンをその数ミリ先で静止させ硬直する。

 父の発言に反応したのは俺ではなくミアさんであった。


「お父様、とっても良いアイデアだわ!!

 明日からコニーと一緒に通学できるのね♪ とっても楽しみ♪♪」


 ミアさんは目を輝かせながら食事を止め、両手を合わせ感激をあらわにする。

 通学というワードが脳内にこだまする……


(通学、登校班? 無理、死ぬ……

 ひとり、ぼっち、誰もいない、孤独、寂しい……う、頭が)


 何かが込み上げてきて眉間を抑える。

 大丈夫、大丈夫、きっと大丈夫、そう俺に学校はまだ早ぁ……


「そうよね、エドの言う通りよねぇ。

 ミアが同い年くらいの時は通ってたものね♪」


 外堀が埋まっていく。

 思いの外早いスピードで外堀が埋まっていく!!

 俺は自分の血の気が引いていくのを感じずにはいられなかった。

 

 だって、だって……あれだろ学校ってか教室ってコミュ強の巣窟だろ知ってる!!

 俺みたいな弱者は、教室の隅で怯えながら過ごすか、恰好のイジメのターゲットにされるに決まってるんだ!!

 そりゃぁ、生まれ変わってからもボッチでいるつもりはないけど、ないけども……もっとせめて10歳になってからでも。


 ミアさんが俺に振り返りギュッと両手を握ってきた。

 俺は、顔が真っ赤になり心拍数が跳ね上がるのを抑えられなかった。


「一緒に教室いこうね、コニー♪」

「う、うん、よろしくねお姉ちゃん……」

 

 口からでた肯定の言葉に俺は俺を殺してやりたい気分に陥った。

 この……この流されやすさどうにかしないと、マジでやばいよなぁ。

 うーー、明日どうすっかな……


 俺は天井を仰いだ。

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