004話 ケモ耳少女登場
転生してから三年が経とうとしていた。
俺のコミュ力&対人耐性も(身内と姉御3人衆に限り)成長したと思う。
しかし、しかしなぁ…流石にまだ人見知りとかしますし……
いきなり見知らぬ女の子(同い年くらい?)と一緒にされるとか、無理なんだよなぁ…
恐る恐る半目を開けて、部屋の隅からその女の子を見る。
茶髪混じりの黒髪を肩まで伸ばし、青色の瞳がクリクリしてて可愛い少女だ。
それらのパーツだけとって見ても美少女にカテゴリされる存在なのに、なんと言うことでしょう……
ピクピク……
彼女の頭部にて、可愛らしく自己主張をするイヌ科のそれを思わせる一対のケモ耳、そしておもちゃ箱を漁っている今もブンブンと振り回されているモフモフした尻尾。
…対人能力が低い俺には、女の子と二人っきり(つっても、3歳なんだろうが)はまだキツい。
それも相手が、他種族ならなおキツい…
目が覚めたらこの女の子が居た。
母の策略か、はたまた姉の友達かは定かではないが、少なくとも俺の知っている娘ではない。
そりゃあ驚いたさ、だってそりゃおま……別に俺がコミュ障でなくとも驚くだろ普通。
彼女の青い瞳が俺を見た。
「……!?」
やゔぁい、やられる……
そうか、俺はここで死ぬんだ、野生の幼女に襲われて死ぬんだぁ。
「ね、あそぼ♪」
そういうと、女の子はおもちゃ箱からボールを放って来た。
その際に女の子の尻尾も可愛らしく揺れ、なんとなくだけど『気分がいいんだな!!』ってことがわかる。
俺はボールをビビリながら避け、涙目で投げて来た子をみた。
なんてことしやがるんだ。当たったら痛いじゃないか!!…じゃ、なくて。
くっそう、俺には獣人耐性なんてないんだよ。
犬好きとしては、モフモフしたいけど、したいけど、したいけど!!……対人能力ゼロなのが悔やまれる。
俺の心の中は、モフモフしたい感情と、対人コワいな感情が鬩ぎ合ってる状態だ。
前世の俺は無類の動物好きだった。
多分、人間と碌に接していなかったから、その代償行動だったのかもしれない。
でも、動物が大好きだったのだ。
暇があれば一人でペットショップに行っていた。
モフモフしたい…
「もぉう、ボール来たら、ほいっ、て投げないと駄目なんだよ?」
女の子が頬を膨らませて抗議の声を上げた。
くっそう、動物なら動物、人なら人、どっちかにしやがれ!!
人じゃ、撫でて良いか解らないじゃないか!!!
…て、そうじゃないだろ。
自分の理不尽な怒りに、セルフ突っ込みを入れる。
もう、駄目だ、なんか思考が乱れとる…
なんとかしないと…なんとかしないと…
「じゃぁ、もっかい投げるね…」
俺の近くに落ちたボールを拾おうと近付いて来た。
ソレを咄嗟に避けてしまったのが運の尽きだったんだと思う…
女の子が不思議そうな顔で俺を見て来る。冷や汗がでた。
一歩、俺に近付いて来た。俺も、一歩後退る。
また一歩近付いて来た。また、俺も後退る。
女の子の顔が笑っていた、朗らかな笑みだ。うん、可愛いね…その、獲物を狙う様な視線以外は…
「おいかけっこ……するの?」
狩猟本能でも刺激したのかもしれない。
俺の返事を待たず、女の子が飛びついて来た。
俺はそれをギリギリで避ける。
勢い余った女の子は壁に激突した。頭を打ったらしい、大丈夫だろうか?
俺は心配になって彼女に近付こうとしたが…
咄嗟に動くのを止めた。
彼女が三歳児とは思え無いスピードで振り返り、手を伸ばして来たからだ。
しかし、その手は空を掴む。俺が動きを止めたから、俺を目前で捕らえ損ねたのだ。
昔から感と動体視力が良かった。
鬼ごっこや、かくれんぼなんかでは、毎回、最後まで逃げ切るし。
ドッジボールでも、相手のボールを避けまくっていた。
まぁ、それが理由で『お前と遊んでも面白く無い』と言われたり。ドッジボールで集中砲火などを受けたりもしたのだけど…
まぁ、過去の話だしな。今は、これっぽちも気にしてない。
しかし、コレは…
彼女の闘志に火を付けたようだった。
尻尾が逆立ってらっしゃる…
「いいよ、わたし、がんばる!!」
満面の笑みで、何を頑張るのでしょうか!?
俺が死を覚悟した時、その声が響いた。
「コラ!! カレン!!
コニー君と仲良くしなさいと言ったでしょ!!」
その声が響いた瞬間、先程まで尻尾を逆立てていたのが嘘の様にゆっくりと萎んで行く。
顔色は蒼くなり、瞳に涙をため出した。
俺も声のした方を向くと、獣人の女性が仁王立ちしていた。
黒い髪と獣耳、瞳の色はカレンと呼ばれた女の子と同じ。しかし、右の耳の途中で大きな切れ込みが入っており、鍛え抜かれた美しい肉体には幾つもの傷が刻まれている。
カレンと呼ばれた少女が子犬だとすると、この女性は歴戦の狼と言った所か…
「おかしゃん、えーと、これはね…」
ビクビクしながら話す女の子…
そうか、この人がこの子のお母さんか…納得。
「お・だ・ま・り」
有無を言わせぬ声色で娘を威圧する母ワンコ。
張りつめた空気が場を支配する…
コワい…
俺はこの世界に転生してから、対人関係で恐怖を感じる事は多かったが。こう、なんというか、怒られるから怖い、といった感情は初めて抱く。マジで怖い。
その張りつめた空気をぶち壊したのは、のほほんとした空気の持ち主……
「あらあら、まぁまぁ…元気でなによりよぉ〜
もう、ミランダもそんなに怒らないの♪」
我が母、ミーシャ・ウィスタリアが和やかな表情で入室した。
■
「…えっと、カレン・イングルフです。さ、さっきはごんなしゃい!!」
涙目で頭を下げる……もとい、隣の母ワンコに頭を下げさせられるカレンちゃん。
そう、先程のケモミミ娘はカレンと名乗った。
彼女はシュンっと頭も尻尾も耳も下げている、可愛いかもしれない。
ミランダさん……ミランダ・イングルフは、そんな娘の頭を優しく撫でると、俺に向かって微笑んできた。
「ごめんね、コニー君。
カレンも悪気はなかったんだ、どうか許してくれるかな?」
穏やかな口調で話されているが、俺は母の後ろにどうにか隠れようと必死だった、しかしミーシャは俺を匿おうとした後、はっと気づいたようにして嗜めるように頭をポンポンと撫で、ミランダの前へと優しく押し出した。
くそぉ、母よ、あなただけは味方だと思っていたのに……
ミランダは俺の返答を待つようにずっと見つめている。
俺は真っ白になる頭を振り、真っ赤になっていく顔を隠しながら、どうにか……
「いい、よ……き、きにしてないっ」
という、言葉を発することができた。
ミランダは気をよくしたようで、何事かウンウンと頷きながら、俺の頭を撫でていく。
硬くゴツゴツした手であったが、優しいぬくもりを持った……なんてことを考える余裕はもちろんない。身体中冷や汗だ、心臓バクバクだ。助けて、ママン。
「では、カレンと友達になってくれるかな?」
友達?……なんの話をしているんだこの人?
トモダチ、ってなんだ、新しい料理かなにかですか?
俺の頭はトモダチという言葉の意味を理解できないでいた。
いやいや、待って、俺が十数年頑張って出来なかった友達がこんな簡単に出来て言いわけ……
「それは良いわね、ミランダっ!!
とても素敵な提案だわ♪
カレンちゃんも、どうかコニーと仲良くしてね?」
母の底抜けに明るい声を聞いて、先ほどまでシュンとしていたカレンはパッと明るくなり、尻尾をブンブン振り始めた。
「うん、カレン、コニーのお友達なるっ!!」