003話 お姉様方、コワい…
まず、肉親…家族から慣れて行くしか無いと思う。
その考えに至るまで、そう時間は掛からなかった。
まぁ、死活問題でもあるしね。これから、ずっと生活を共にして行く家族に、緊張しっぱなしだったらOUTだろう…
まず、母だ。一日の大半を一緒に過ごすこの人への耐性を身につけなければ。
母への耐性を身につければ、美人への耐性も身につける事が可能だ。
うん、頑張ろう。
俺の見た感じ、母は、魔法を扱うことが出来る。
家事の最中によく、魔法みたいなものを用いているのを見るのだ。
料理の時に使う火を手から出すのだ。これを魔法と言わずなんと言おうか。
とりあえず、観察だ。
そして少しずつ、距離を縮めて行く。うん、それが最善策だ。
最近は、俺が抱っこを嫌がるのを知ってるらしく、無理に抱っこをしてこようとはしない。
だからといって、子供にぜんぜん構っていないのでは無く、家事の合間にちょくちょく様子を見に来る。
親バカ…その言葉でしか表現出来ない、溺愛ぶりを発揮してくれることもある。
今は料理の支度をしているようで、火の魔法を使って、鍋の火を調整している。
俺の視線に気付いたらしく、ニッコリ笑ってくる。
その視線がコワくて目を逸らしてしまった…駄目だ、逃げてちゃ駄目だ!!
そうだ、人の視線に耐性をつける訓練もしよう、うん、そうしよう。
また1つ、課題を見つける事が出来た。
■
人の視線に耐性を付ける訓練。
ソレは、帰宅後のミアちゃんでつけさせて頂くとしよう。
訓練の内容は簡単だ。
ミアちゃんは学校(?)からの帰宅後、俺をじっと眺めながら、楽しそうに学校であったことを話してくれる。俺はその話をずっと、ミアちゃんの視線から逃れずに聴く…うん、まず、そこから始めよう。
「ただいまぁ〜」
さて、今日も帰って来たようだ。
訓練一日目、耐え切ってみせるぜ!!!
「ただいま、コニー♪
今日はね、あたしのお友達を連れて来たんだぁ♪
みんな、こっちきて、コニーだよ」
「おっじゃましまーす」
「こんにちわぁ」
「…しつれいします」
「わお、凄い可愛いねコニーくん、さわらせてぇー」
「でしょ、でしょ♪ 良いよ♪
あれ?…もう、コニーったら、てれちゃって。
直に隠れようとするんだからぁ…」
無理でした。
今日に限って友達連れて帰って来るとか…
無理でした。
しかも、友達3人とか…
無理でした。
それから、年上のお嬢様方に抱き回されたのは言うまでも無い事です。グスン…
■
産まれてから一年と数ヶ月…
毎日の夕方が恐怖の時間となって、もう半年弱…
今日も俺の平穏は打ち砕かれる…
「ただいまぁー
ねぇ、お母さん、みんな来たよぉー、オヤツー」
「コニーちゃん、遊びにきったよー」
「こんにちわぁ、ミアちゃんのお母さん」
「……おじゃまします」
「いいのよぉ、みんな何時でも遊びに来てね。
コニーちゃん、いつもは人見知りで照れ屋なんだけど、みんなと居るときは凄く楽しそうだから♪」
「「「は〜い」」」
はい、恐怖の時間参りましたー。
もう、何ですかね、人の視線に耐える訓練だった筈が、お姉様方の猛攻に耐える時間となっている訳で…
この時間が一日で一番キツい…
ああ、来る…
すんごい、走って俺の居る部屋まで来るのが解る…
誰か、誰か、助けテーーー
「こんにっちわー、コニーちゃん♪
今日は、何してあそぼっか?」
目をキラキラさせて一番最初に登場したのは、元気娘さん(脳内命名)…
前世の俺が一番苦手とし、かつ、憧れていた属性の持ち主だ。
あれだよ、前世の俺は《陰属性》の根暗くんのボッチだったから、委員長とかサッカー部のアイツみたいに《陽属性》持ってなかったから。多分、元気娘さんは《陽属性》だから。
意味の無い、ことを脳内で考えられる程度には、この半年で余裕ができた。
もう、真っ白になることなど、ほとんど…多分…少ししか、無い。
「もぉう、走るのはやすぎだよぉー」
次に現れたのは、綺麗なドレスを着た大人しそうな女の子。おっとりさん(脳内命名)。
なんとなく、のんびりした感じの娘だけど、この子の”おままごと”はキツい。
マジで、キツい。
「コニー君は、今日はわたしと、おままごとする約束なんですよぉ?」
んな、約束してません。
つーか、まだ喋れません。
俺が心の中で突っ込みを入れていると、俺を抱えるヤツが現れた。
ソイツは俺を抱きかかえると、物喰わぬ顔で膝の上に乗せ頭ナデナデを開始する。
やめて、HPが削れる、心のHPが削れるからぁああああ。
「……コニー、よしよし」
これが、クールさん(脳内命名)の手口だ。
この子が一番のやり手かも知れない、末恐ろしい。
これで、他の方々より一歳年下なのだから、なお恐ろしい。
「もう!! みんな、あたしのコニーで遊ばないで、怖がってるじゃない!!」
はい、姉様の登場。
姉様は、そういうとクールさんの膝の上から俺を取り上げ、ベッドに戻してくれた。
なんだかんだで、一番優しいお姉様である。
「ちゃんと、じゅんばん決めたでしょ!!
今日は、あたしが遊ぶ番なの」
訂正。
人の知らない所で、勝手に順番とか作るこの姉は、非常に困ったお方だぜ。
「ええー、でも、ミアちゃんはいつもコニーちゃんと一緒にいるじゃん。
あたしたちは、ここに来たときしか遊べないよ?
ね、きょうだけ代わって」
あれぇ? オカシイなー、いつも、顔見るんだけどなー
元気娘さんの言葉に疑問を抱く俺であった。
「だーめ、ちゃんとくじで決めたじゃない。じゅんばんは守らなきゃ」
得意げな顔で語る姉様。
ああ、なんというか、この四人の中で姉様はまとめ役らしい。
と…俺の服を引張る者が現れた。
「ねぇ、ふたりがケンカしてるあいだに、おままごと初めましょ?」
「……混ぜて」
ああ、うん。
この半年で大分、姉属性と年上属性への耐性は付いたと思う。
■
「アハハ、流石は僕の息子。モテモテじゃないか」
父様は和やかに笑いながら、パンを千切って口元に運ぶ。
この世界の主食は米では無い、パンなのだ。
ソレ以外にも、西洋風の料理が食卓の大半を占めている所を見るに(饅頭みたいな食べ物を見つけた、食べてみないと解らないが美味しそうではある)、和食文化は無いのかもしれない。少し残念だ。
「そうねぇ〜、最近、人見知りも少なくなったし。本当によかったわぁ」
「産まれたばかりの頃は僕たちの事も怖がってたよね。あの姿も可愛かったな〜」
「そうよね!! あのビクビク怯えた様子が可愛らしくって…」
「今も、照れながら逃げずに居る姿が、また…」
「「かわいいよねぇ〜」」
はい、親バカ会話が食卓で繰り広げられております。
俺の主食が固形物に代わった辺りから、俺は家族と一緒に食卓を囲んでいる。
父様が帰って来る晩ご飯は大体、この二人の生暖かい視線に晒されるのだが…まぁ、別の難敵も居るのだが…
最近は慣れたもので、顔を赤らめ心拍数を上げるだけで済んでいる。
もうこの世に産まれて二年弱、俺も成長したのだ。
歩ける様になったし、カタコトだけど喋れる(まぁ、まだ、喋るの恥ずかしくて喋らないけど)。
こういうときは、うん、コツを掴んだのだ。
こういうときは黙々とスプーンを動かすに尽きる。
ああ、ご飯美味しいなーーー
そんな俺に、世話を焼くものが現れる。
そう晩ご飯2つ目の敵である。
「ほぉら、コニー?
ご飯付いてるよ? お姉ちゃんがとってあげるね♪」
そう、最近、一層お姉ちゃんレベルを上げた姉様である。
この人の世話焼きレベルは停まる所を知らない。
勘弁してください…マジで…
「もぉう、ボロボロ落とすぅ…そうだ!!
お姉ちゃんが食べさせてあげよっか?」
「ブッ!!」
姉様のとんでも発言で咽せてしまった。
こぼしたご飯は母様が、あらあら、と言いながら拭いてくれる。
しかし、俺を咽せらした張本人はニコニコしながら、ご飯を運んで来た…
勘弁…勘弁してくれえええ…
「はい、コニー♪ あ〜ん」
ああ、もう駄目だ。
誰か、誰か、助けて。
俺には、《あ〜ん》とか無理だから。
絶対に、絶対に無理だから!!
しかし、悲しいかな。
この場に俺を救ってくれるものはいない。
父様も母様もニコニコと、穏やかに、愛くるしいものを見る視線を向けて来る。
ああ、うん、もうアレだね…
早く、ちゃんと喋れる様になろう。