第2話 ユリオプスデージー
装飾のほど後された一冊の本を抱えた黒髪の少女は、少年と少女に向かって問を投げかける。
「まだ、何も始まっていない。始まりは、もうすぐそこまで来ていることにアナタたちは気づいているのかしら?」
少女の声は、彼らには今はまだ届かない。
あれから、今日までの数日間
オウカちゃんによる調教が、行われた。
正直思い出したくない。
オウカちゃんなら、SMプレイの女王様を素面でできるんじゃないかって思ったよ。
なんせ、心が読めるというチートな能力のせいで、ことごとく逃げ道をふさがれるしな。
何度も逃亡しようと企てたがその度に逃げ道をふさぐしさ。
俺が絶対に手を上げないって信じているからこそだろうけど。
その信頼を裏切るわけにはいかないからさ。
ヒシヒシと背中に視線を感じる気がするが、これは気のせいだろうか?
「なぁ、本当にアノ格好で学校通うのか。絶対ばれるぞ」
そりゃあ、こんなふざけたものがい見える能力を持ったせいで昔っから、ハブられてたから慣れてるっちゃあ、慣れてるけどさ
高校は、地元から離れた場所選んだから、俺たちの異能を知らないから、目立たないように過ごせば平和な日常が遅れると思ったんだがな。
甘かったな。
「大丈夫。誰も気が付かなかったでしょ?」
「うっ」
そう、女装した姿を誰かに見られるのが嫌だとごねた俺を無理やり引っ張り園の職員のみんなに、普通に友人として紹介したところ、だれも俺だと気が付かなかったのだ。
勿論ばれないように、一口もしゃべらなかったけど。
あの姿=俺だってばれたら、俺は、もう園に顏出せない気がしたよ。
「でもさ、みんな見てるぞ」
さっきから気になってたんだが、なんだが視線を感じるわ、こそこそ声が聞こえたりしてあまりいい気がしないんだが……。
でも、きっと悪意あるものじゃあないんだろうな。
もし、悪意があるのなら隣を歩く男装少女がいち早く敏感に察知するだろうし、いまみたいに平然としていないだろう。
人の悪意にあてられ、具合が悪くなるからな。
「ふふふ、あっ、これも封印しないといけないわね。ん、ん」
咳払いを無理にしなくてもいいぞ!
「みんなが見てるのは、ホムラだよ。ホムラが、美人だからみんな見とれてるのさ」
はっ?
オウカちゃんに、みんなが見とれるなら、まぁむかつくが許してやらんことはない。
だが、なぜ俺を?
「ホムラ、いまのその姿は正真正銘美少女だ。この、ボクが保証してあげる」
「私が、女に見えるのか?それは、そいつらの目が腐ってるんじゃねェの?」
っていうか、そうとしか思えねぇよ。
「いやぁ、腐ってたら目玉顔にくっついてないでしょ。それにしても、やっぱ違和感あるや」
そりゃあ、違和感あって当然だろう
「よし、ホムラ。一人称ウチに変更してみよう」
っ
こいつまったく俺の話聞いてなかったよな
俺の心読めばわかるよな。オウカちゃん。
俺こう見えても結構はらわた煮えくり返ってたりするんだぜ
あの地獄の日々、一人称を変えることから始まり、蟹股歩きにならないように歩き方のレッスンやら、スカートを履いて歩くときの注意やら…は、なんだったんだよ。
「あら、ホムラはそんなに私という一人称が気に入ったの?なら、そのままでもいいわよ」
いたずらな笑み
「遊んでるだろう!」
俺で。
「もちろん」
即答で返答しやがって……。
ぜってぇ、仕返ししてやる。
「で、どうする ?」
どうしよう?
せっかく、言いにくい私という一人称を変えられるのならもうけものだしな
うちなら、男でも使ってるやついるし問題ねぇよな。
まぁ、女装させられてる時点でいろいろと問題はあるけどさ。
「ウチの方が同じに文字だから正直言いやすいかなぁ?」
「そう。なら、ちょっぴり大阪弁ぽくしてみても面白いね」
おい、面白いって本音がダダ漏れだぞ
せめてもう少し隠そうと貸してみないのかよ
「それは、オイオイな」
正直な話
今すぐこの視線の嵐の中から逃げ出したい
恥ずかしくて、死にそうだぜ。
女の子が短いスカート履いてて、ヤッホーって気分になったりするけどさ。
こんなひらひらしてスゥスゥしたものを、よくはけるよなって思うよ。
可愛い女の子たちが生足見せるならいいけどさ
こんな野郎の足見て何がいいだろう?
「ホムラ、この後どっちだっけ?」
銀樹学園には、受験票を提出するときと試験と合格発表で少なくとも3回は足を運んでいる。
自然と俺は、道のりを覚えちまうんだが、オウカちゃんは記憶力が悪い。
「右」
「さんきゅ。ホムラって、記憶力いいよね」
記憶力がいいというよりも人より強烈極まりない、目印がたくさんあるのが原因だろうな。
視界の隅にちらちらと見えてしまう人間ではないものの数々。
地縛霊だとか、土地神だとかあんまうごかねぇやつがいて、そいつらが目印になる。
神様とかいいものは、白い光
怨念とかが重なってできたものには、黒いもや
その中にうっすらと生前の姿を見せる幽霊
あるいは、俺という個人の認識力によって変化させられる。
神様とかが、人型に俺が見えるのは俺がそういう風に見たら認識しやすいと感じているからだろう。
「どうも。でも、普通ぐらいだろう。お……わ、うちの記憶能力なんてさ」
「少なくとも、ボクよりはいい。私にやっぱ戻した方がいいね。言い間違いが、2回も続くとさすがに変だよ」
「ん、了解。そうしてみるよ」
オウカちゃんの記憶力の悪さは、たぶん脳の使い方の問題なんだろうな。
人の心を覗き見てしまう能力
聴きたくないこと知りたくなかったことを和するように努力していることを俺は知ってる
たぶん能力の副作用の一種だろう
そのせいで、毎回試験勉強の時涙目になっていたりするけど。
勉強を教えてとねだる姿がかわいくて毎回テスト勉強の時早く得な気分を味わったものだ。
「まぁ、お前の場合しょうがないだろう」
「うぅ」
ふてくされたような表情
「ほらほら、校門見えてくんぞ。いいのか、そんな女の子女の子した表情でさ」
「よくない。せっかくの役作りが無駄になる!」
そういって、俺が振り向いた先にあったのは、外向きの最上オウカに表情だった。
結局俺は、いやいやながらも女装姿をオウカちゃんのために受け入れた。
まったく、我ながら厄介で風変わりな女に惚れたもんだぜ。
ユリオプスデージーの花言葉は、「円満な関係」「明るい愛」です。