001.誰だってひとつくらいは
2013.2.12 追記
これを書いた当時、政権は民主党で総理大臣はN田氏でした。
諸行無常ですなぁ。
どんな人だってひとつぐらいいいところがあるという。だから総理大臣N氏に対し、何かいっつもべらべら喋ってるけど、結局何が言いたいのか、何がしたいのかさっぱりわからないなぁ、っていうか沼から出てきたばっかりみたいだなぁこの人、と見る度に思っていたとしても、私がわからないだけで彼にだっていいところはあるはずなのだ。
そんな話しを友達の千都子ちゃん(仮名)にぼんやりと喋る。そして喋ったついでに悪口が止まらなくなる。
「だってさ、彼が美辞麗句を並べてみたとこで、麗しさ皆無」
「まぁ所詮美辞麗句でしかないのなら、K泉ジュニアに喋らしてうっとりしてるほうがいいな、イケメンだし」
「へりくだってみても、ユーモアが感じられず」
「笑いどころのない自虐は、場の空気を変にさせるしね」
「泥臭さをアピールしても上滑り!工事現場のぬかるみに滑って転んでくそう、って思ってる程度の泥臭さしか感じられないんだわ!」
「っていうかどじょうって食うと高いよね。ビックリだわ」
「だろう!君の細々したつっこみはさておき、彼には今のところ何もいいところがないと思うんだ!」
そんなどうでもいいであろう主張を千都子ちゃんはやんわりと受け入れて(受け流すとも言う)くれるので、調子に乗った私は、谷崎潤一郎の耽美な世界と合わさればNのイメージも多少麗しくなるのではないかと、Nの顔を思い浮かべながら『白昼鬼語』を読んでみたものの、結局女に殺された二十貫目もあった男の顔がNに補完されただけで徒労に終わったことまで報告し、彼女の中のどうでもいい情報を増やした。
ひとしきり悪口を言って若干スッキリした私は、「ねぇ、いいところ、思いつく?」と、千都子ちゃんの顔をちょっと覗きこむように見つめた。
「ないことはない」
千都子ちゃんは顔色ひとつ変えずに、そうぽつりと呟ききゅっと口を結ぶ。
「なんだって!どこだい!教えてくれ!」
そうして彼女は、代々口承で伝えられてきた秘密のように、その重い口を開いたのだ。
「……それは、あのくっきり二重と長い睫毛だ」
!
「いいかい、考えてごらん。日本の女達がどれだけ、くっきりとした二重と長い睫毛に憧れているかを。くっきり二重のためにアイプチを施したり、人によってはプチ整形をしてみたり。そして長いまつげを手に入れるためにマスカラを選びつけまを選び、場合によっちゃあの面積にパーマをかけたりエクステをつけたりしてきたのだ。どれだけの経済効果が『くっきり二重と長い睫毛になりたい』という願望から生まれてきたことか。それをNは、あっさりとやってのけているのだ。そりゃ、彼もメディアに出る時はドーランの一つも塗ってるかもしれない。だけど、いついかなるときも彼のあのくっきり二重と睫毛は揺るぎなくそこに存在しているのだ。まさに、くっきり二重と長い睫毛の国のプリンス」
「プリンスというのは違和感があるが、あぁ、でもそうだな。今言われただけで、彼のくっきり二重と長い睫毛をありありと思い出せるよ。別に意識して見たこともないのに」
「そうだろう!ゴリ押しして意識に定着させるには金と接触機会を増やせばいくらか可能だが、ゴリ押しせずとも意識下に刷り込まれているその存在感!」
「うむ、そう言われると某受信料によって運営されるテレビ局の世論調査で『支持する理由』に『くっきり二重と長い睫毛だから』という回答があってもおかしくない気がするよ!いっつも『その他』に分類されてしまってる少数意見の内容が気になっていたのだが、そういうことか!電話調査対象者はなにしろ乱数を使った無作為抽出なのだから、そんな回答をする若い女に当っても何ら不思議はないな!」
よくよく考えてみれば一国の総理大臣に対してとんでもない会話だが、基本的に国民はストレス溜まってるんだからこれくらいは目を瞑ってもらおう。
そしてくっきり二重と長い睫毛の国のプリンスで盛り上がったところで、ふと、私は重大な事実に気付く。
「……しかし、くっきり二重と長い睫毛の彼を、一度でもかわいい、或いは百歩譲ってかっこいい、と思ったことはあるかい?」
「ないな。言っといて悪いけど、ないな」
「ということは、いくらくっきり二重で長い睫毛でも、ほかがダメなら台無しってことにならないかいそれは」
「そうだな。プリンスはプリンスとして、象徴であると同時に絶望も体現しておられるのだ」
あぁ、なんという尊い存在!なんだかそう言っとけば崇高な感じが出て許される気がする。
でも多分、誰にだっていいところはあるはずです。ほんとうにたいせつなものは、めにはみえないのです。ねぇ、プリンス。