祭り特派員 7
「お、そろそろだな」
ある一軒家。壁にかかった時計の示す時刻を見て、男性が呟いた。
夏の日差しに焼け、黒い肌の男性は予約した時間が近づいたので出掛ける準備を始めた。
すると、
「じゃあ、行ってくるね」
一人の少女が、出掛け支度をした状態で男性に声をかけた。
男性と対照的に、白い肌の少女で、手には日傘を持っている。
「おぅ、あの兄ちゃんと待ち合わせだよな」
「うん。日が暮れる前には帰ってくるからね」
「気にすんなよ、どうせこっちも忙しくて夜まで帰って来れねぇだろうからな」
「分かった。それじゃあ、行ってくるね」
日傘の少女は鍵を開け、家の外へ出掛けていった。
「さてと、こっちもそろそろ準備しねぇとな」
商店街の八百屋。そこに黒肌の男性はやって来た。
「おーす、頼んでた物は届いてるかい?」
「あぁ、いらっしゃい。ちゃんと届いてるよ」
八百屋の店主が店の奥から持ってきたのは、男性が頼んだ物、小ぶりなりんごの入った段ボール十個だ。
「悪いね、毎年」
「年間行事だからね、気にしないでくれ……しかし、一人でこの量運ぶ気か?」
いくら小ぶりなりんごとはいえ、それが沢山入った段ボール、一個も数キロあるそれを十個も。
「それも、年間行事だろ。何も担いで運ぶわけじゃねぇんだし」
男性は持ってきた台車を叩いて示した。
「まぁ毎年運んじまうんだから凄いけどな……」
「だろ、そんじゃ、ありがとな」
明日、祭りが開催されるこの場所では、今まさに準備が行われていた。
屋台では食べ物の試作や機器のメンテナンス等が行われ、台車でりんごを運んできた男性もまた自らの屋台でりんご飴の試作を作っていた。
「よし、去年と変わらずだな」
試作品の出来に喜び、どうせならと、
「おぅ、そこの兄ちゃん」偶然屋台の前を歩いていた男性に声をかけた。
「は、はい? 自分、ですか?」
やけに低姿勢で、呼ばれたことに驚いているような男性だった。
「他に居ねぇだろ。コレ今出来たんだが、良かったらどうだ? 試作品だから金は取らねぇし」
「は、はぁ、では、いただきます」
おどおどしつつも、男性はりんご飴を受け取った。
「どうだい? 去年と同じ味に出来たんだが」
「えっと…………去年は知りませんけど、とても美味しいです」
「そうかそうか、なら良かった」
「……」
男性を何故か、りんご飴を見つめて黙ってしまう。
「ん? どうかしたか?」
「…………あの、少し、お話しよろしいでしょうか?」
「どうしたよ改まって」
「あの、ですね……」
op その5