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02――金剛色の輝き

このログハウスは2階立て+地下室という構造になっている。

2階が俺やフゼイを始めとした何人かが泊まっている宿屋。

1階が食事屋であるバー。

そして地下1階が俺の鍛冶屋(スミス)としてのメイン活動場所である、鍛冶屋だ。


店の奥にある階段を降り、すぐ右手のドアを開く。

そのドアの先には俺が完璧に占領している俺専用鍛冶設備が広がっている。

ドアから見て右手には作業台が幾つか。さらに奥には回転砥石や特殊アイテム用の装置が並んでいる。

左手には素材を入れてある簡易倉庫、その奥には火が赤々と燃えている炉と金属を叩くときの金床。

本物の金属加工の設備と比べれば規模は落ちるのだろうが、この世界で金属を加工する分には十分な大きさだ。


「さて、まずは解析から始めるか」

焼きおにぎりを齧りつつ、アイテムポケットから竜鉱石を取り出し、翼鉱石と一緒に作業台の上に置く。

その後、壁にかかっているルーペを取り、【メニュー】から鍛冶系統のスキル一覧から【アナライズ】を選択しルーペを覗き込む。

すると、ルーペに無機質に映っていた鉱石が若干半透明になり中にある物が透けて見え始めた。

この色から、中身を判別するというのがスキル【アナライズ】である。

「黄鉱石の方は間違いなく【クレイリス】と【レスティニア】だが……、緑鉱石の方は……こりゃ、【水晶】か? けど5thクラスが竜鉱石から出る訳も無いし……」


鉱石から精製できるインゴットは数多くあり、鉱石1個からランダムに1種類のインゴットが精製できる。

ただ、鉱石からインゴットを製作する際には金も技術も時間もかかるので、大概事前に【アナライズ】で中身を確認してからインゴットにする。その方が面倒でも効率がいいからだ。

また、あくまで傾向だがモンスタードロップや特殊な場所で【ピック】以外の方法で手に入る鉱石には架空の名前が付いたものが多く、鉱脈からツルハシで掘りだした鉱石には実際にある金属の名前が付くことが多い。

もっとも、実在金属の方は【金】【銀】【銅】【鉄】【亜鉛】【鉛】【アルミニウム】【スズ】【ニッケル】【クロム】辺りで開発陣が諦めてしまったらしく、それ以外は【水晶】だの【ルビー】だのそれ金属じゃなくて宝石だから! とツッコミが来そうな名前が並んでいる。果たしてどうやって原料【エメラルド】のみで剣を造るのかなどとは聞いてはならない。他にもハズレである放射性金属を使って武器を創ると持つだけで毒状態になるなんてネタがあったりするレベルである。


「とりあえずハズレって事は無いだろうしな。精製してみるか」

焼きおにぎりを口に咥えて、空いた手で緑鉱石と黄鉱石を精製機に放り込む。

現実の金属なら各金属用の精製機があるがこのゲームの世界にそんな面倒な物はない。共通の精製機に鉱石を突っ込んで幾らか通貨を払えばインゴットにしてくれる。自家用装備の癖に金を食うのが難点だが。


「さて、それじゃその間に幾つか準備を、と」

壁のスイッチを入れ、炉に火を入れる。この火はそのまま上の階の床にあるパイプと繋がっていて、そのまま煙はログハウス中を温めた後に煙突から排出される。

何とも無駄に現実的で便利な機能である。おかげで気の早いときは秋ごろから雪が降るこの山複でも年中暖かい。

「後、核は緑鉱石の謎鉱石としてもサブで銀を幾つか混ぜておく必要があるな……」

各種インゴットが雑多に突っ込まれている箱を開き、表示されたアイテムメニューから銀のインゴットを取り出す。

白鉱石から出る一般的な金属で、6thクラス品だが無駄にレベルが高い奴だけが残っているこの世界においては余り貴重な物では無い。


とかなんとかしているうちに、精製機の方からピーーーという音が流れた。

「はいはい。今行きますよ、と」

インゴットをひとまず近くの作業台に置き、精製機の方に近寄る。

いつもなら結果も見ずにすぐに取り出すのだが今回は謎の緑鉱石が中に入っている。

取り出す前に、精製結果の映っている半分ゲーム化した液晶モドキに目を向けた。

そして、その精製結果を見て愕然とした。


「精製結果――【クレイリス】【レスティニア】……【アダマント】ぉ!?」


【アダマント】。日本語で金剛。要は、ダイヤモンドの事。

「…………マジ、で?」

精製機の下の受け皿から精製されたインゴットを取り出す。

若干濁った銀色、これは【クレイリス】。さらにこの青色がかった奴は【レスティニア】。

そして、その隣にあるのが……。

「ダイヤモンド……」

カットはされていないためあまり輝いてはいないが、それでもその透明度はまさしくダイヤモンドだった。

「……嘘だろ」

そりゃ鉱脈系からは宝石の類だって出る。後ろの簡易倉庫には【ルビー】だの【サファイア】だのが幾つか入っている。

過去に緑鉱石は10コほど精製したが、それでもダイヤモンドなんて見たことは無い。

5年間。十分に長い間この世界に居て、数々のインゴットを見てきたと自負する俺ですら見たことが無いインゴットである。


「はは、すげぇや」

思わず、感動に浸ってしまう。

長い長い間この世界で生きて、それでもまだこの世界は新しい物を見せてくれる。

素晴らしい事ではないか。と、驚嘆してしまう。


「ぅぁ~。シグレぇ……、もうそろそろ機嫌治して飯作ってくれよぉ……。肉が喰いてぇよ肉が」

と、ジーンと来ていた俺の背後からフゼイが降りてくる。

「流石に可哀そうだぞー」

それにサラダの入ったボウルとミニトマトが刺さったフォークを持ったサキモリが続く。


「ん、何だシグレ、固まっちまって。失敗でもしたのか?」

「いんや。大成功」

俺の手の中を覗き込みながら聞いたサキモリに首を振りながら答える。

「それじゃあよ、ちょっとそれに免じて朝飯をだな――」

「これ、ダイヤモンド」

不愉快そうな顔をしたフゼイの言葉を遮り、【アダマント】の透明なインゴットをフゼイの目の前に突きつける。


「「……は?」」

「おお、ハモった。珍しい」

ぽかんとした顔をして並ぶ2人に吹き出しそうになりながら指摘する。

「え、え?」

「それ……ホントに?」

だが、そんな皮肉すら通じないほど2人は驚いているらしい。

「ホントホント。マジもんのダイヤモンド素材。たった今竜鉱石から精製できた代物だぜ? ランクは堂々の9th。まさしく最硬の金属に相応しいと思うぜ」

「こ、これがダイヤ、モンド……」

「何だよやらねぇぞ?」

【アダマント】を引っ込めても、まだフゼイの目は釘付けのままだ。サキモリの方は正気に戻ったようで若干赤い顔をしながら【アダマント】を眺めている。

「う、うん……」

「ほれ」

右手に握られた【アダマント】を軽く振る。

「…………」

「ほれこっち」

それに合わせて、フゼイの朱い2つの目が動く。

「…………」

「そんな顔すると、く、ふ、ぷっくぁあはははははは!!」

魂の抜けたような顔で、【アダマント】に釘付けになってるフゼイの顔が余りにも可笑しくて、ついに吹き出してしまった。

「な、なに笑ってんのよ」

その笑い声で正気に戻ったフゼイに睨まれてしまった。

「悪い悪い。あんまりにもお前らの顔が傑作で」

「な、ななな何言ってんのよ! 喧嘩なら買うぞ!」

再び顔を真っ赤にしたフゼイが怒鳴る。

「おお怖い怖い」

「あ、アンタぁぁああああ……!」

「まぁ待てフゼイ。それにシグレもあんまり煽るな」

注がれた油を見事に燃やそうとしていたフゼイを先程まで黙っていたサキモリが止めて、こう提案した。


「ところで、こんな貴重な物をここで使うってのはどうなんだ? なんか、本格的な所に行かなくていいのか?」

「ここは十分本格的な鍛冶屋、なんだけどな。まぁ、……そうだなどっか街のドデカい炉で鍛えるか」

余計な一言に少し職人のプライドがカチンとしつつ、その提案を飲む。


ある程度以上大きな街ならば、必ず鍛冶屋があり、そこである程度の代金を払うと炉を貸してくれる。

普通のプレイヤーや専用設備を持たない鍛冶屋はここで武器を鍛えたり修復したりしているのである。

炉は基本的にどの街でも大きさは同じだし、そもそもここにある炉と街の炉の性能に差は無いのだが、非鍛冶職プレイヤーからは街の鍛冶屋の方が大きく見えるらしい。


「折角の【アダマント】だし。そう考えると材料もこの【銀】や【レスティニア】とかじゃあもったいないな」

出しっぱなしにしていた幾つかのインゴットを空いた方の手で撫でる。

こいつ等も十分に良い金属なのだが、数年に一度であるか出会えないかの金属と釣り合うかと聞かれれば答えはノーになる。


「炉……ねぇ。確か【ラピス】に有った筈。あそこが一番かな」

「【ラピス】、か。懐かしいな」

「そうだねぇ」


歓待都市【ラピス】。

所謂ゲームの始まりの街、にしてこの世界で4つ目に大きな街である。

これもウィルシリーズの共通点でもあるのだが、始まりの街だからと言って別に寂れていたり世界の端っこにある街であったりする訳では無く、十分に賑わっている都市である。

大きさに比べ人口はかなり多く、この世界で2位。それも1位とほぼ同格と言う恐ろしいほどの人口密度を誇る。

イメージとしてはアメリカか中国辺りにありそうなデカい都市の様な街で、様々な人種の人々がごった返しの中生活している。街を歩けば白い肌黒い肌はもちろん角があったり尻尾があったり翼があったりと不思議な姿をしたNPC達とすれ違うことが出来る。

中央には【ラピス】の貧困層対策なのか、それともゲーム上の仕様なのか、無料の宿屋が大量にあり過去にはそこでかなりの人数の非参加プレイヤーが生活していた。

他にも、それなりに大きい各種店がある。今ならば非参加プレイヤーから冷たい視線で見られたりすることなく利用できるだろうし、問題無いだろう。

これがクリア前だと、街内に大量の非参加プレイヤーがいて恐らく街中での移動すらままならなかったのだが。


「それじゃ、さっさと行こ――」

ぐるるるるるる。

俺のセリフが、フゼイの腹の音に掻き消される。


「……あー、そういえば腹減ってたんだっけ」

「……飯。肉。飯肉飯肉飯肉」

「分かった分かったステーキ作ってやるから。興奮すんな」

「はははははは」

俺のフゼイを宥める声に、サキモリの笑い声が重なった。


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