その9
「それで、余に何を求める?」
何で不機嫌なのかな?
………いや、わかっているさ。
王族専用の食堂に通されて、座る場所で揉めた。
当然、アランドラ王はお誕生日席、否、一番の上座で。
そこから向かって左側が第二位。
本来ならば王妃様とか、愛妾さんとかなんだけど、いないって聞いたしご兄弟もいないみたいだから、このメンバーではヴィルが座るべき。
なのにアランドラ王は私を座らせようとした。
なんなんだ、この王は?
最も警戒してる人間を側に置いちゃ駄目だろう。
魔力だってヴィルとそう対して変わらないってクラウから聞いたぞ。
なら、魔法の戦闘の団長を側に置いておかなくちゃ。
失礼だから内心思うだけにするけど、危機管理が怪しーんでない?
だからキッパリハッキリお断りしたら、呆れた顔されたぁ!
私の表情の下はむっカッチーンですよ!
さっさと要件を済ませてしまおう。
あ、ちなみに他の席順ね。
ヴィルの向かいにクラウ。
ヴィルの左隣がヤウチさん。
クラウの右隣に私。
地位と年功序列になっています。
「現在の、この世界の宗教の中で信仰が多いものの定義を教えていただきたい。及び最強の魔術師と教会の紹介です」
「ほう、お前たちは新しい宗教でも作るつもりか?」
んなアホな。
「違いますよ。先ほどお話した、」
「冗談だ」
あぁそこまでお馬鹿さんじゃなかったか。
私はヤウチさんに説明を任せてお料理を堪能中なんです。
だって、アランドラ王とお話したくないもん。
なんか不愉快にしかならないからさ。
「明日中には全て話をつけよう」
「ありがとうございます」
「しかし、キカイとやらは中々に興味深い。是非ともその技術が欲しいな」
ヤウチさんは、口を閉じてしまった。
私たちがそう、恐れていたことを口にしたからだ。
チラリと私を見てくる。
私は静かに小さく頷いた。
「………教えることは、出来ません」
「なぜだ?そのキカイとやらを軍事に転用出来れば安全に魔獣や魔物を撃退できるのだぞ」
「そう、『安全に』………だから、駄目なんです」
「なぜだ?!力のない民が、自ら安全に魔のモノを殺すことができるはずだ」
「ええ、僕らの世界ではすでに機械というものは『安全』に『殺すことが出来ます』――――『対人間用』に」
「「「!!」」」
「機械は便利です。上手く利用すれば生活が楽です。医療にも転用され、沢山の命を救っています。………今では、ですが」
最初の機械は知らない。
それでも最初は生活のためだったと思う。
けれどいつしか機械は殺人の為に使われ始めた。
人が人を傷つけるために。
もし、この世界に機械をもたらしたら?
今は全ての国の敵が同じだ。
けれどいつか、国家間で戦争になったら?
きっと私達はもたらしたことを後悔するだろう。
「ですから、技術は食べ物に関することだけにしようと決めました」
食べ物は、みんな幸せになれる。
あっちの技術を持ち込まない。
ここの技術を持っていかない。
それで皆、幸せになれる。
そもそも私達の存在は、この世界にしてみたらイレギュラーな立場なんだから。
「綺麗事だな」
「そうですよ。なにぶん、平和な国で育ったものですから」
基本的に、日本は命の危険がない。
勿論、全くないことは、ない。
ひと度家から出れば車に轢かれてしまうかもしれない。
家にいたって火災の恐れだってある。
けど、深刻に考えることじゃない。
普段からの小さな確認で事足りる。
完璧ではないけれど、ここほど気配に怯えるほどじゃない。
私達は不確定多数から命を狙われていないから。
こと、こういうことに関して、きっと相容れないと思う。
所詮さ、住んでる国どころか世界が違うんだから。
「つまらんな」
つまらなくて結構だわ。
少々気まずく会食は終了した。
アランドラ王が先に出て、やっと一息つけた。
「ヒノさん、送るよ。部屋どこ?」
「こっちです」
ヤウチさんは人一倍疲れたはず。
いつも気が回って優しいのに、なんで彼女が出来ないのかな。
草食系だからか?
「ここか。ちょっと離れてるね」
「食堂には近くていいですよー」
利点はそのくらいだ。
部屋は広けりゃ死角は多くなるし、掃除も大変。
何せ今は高位な魔術師でないとこの部屋を認識出来ない結界も張ってるから、掃除は自分でやらにゃならんのだ。
ま、その方が気楽だからいーんだ。
っと、そうだ。
「ヤウチさん、お話があるんですが」
「ああ俺もある。だから明日にしよう」
「明日………ですか」
「夜遅いし、特に今日は沢山移動して疲れたでしょ。休んだ方がいいよ。まぁ正直、俺が休みたいんだけど」
「ヤウチさんがそう言うなら。すいません、気づかなくて」
「いや、悪いね。だからさ、明日話そう。朝ごはん食べながらさ、二人で」
二人で、という言葉にほっとした。
ヴィルとかクラウがいたら、話が進まないだろうから。
「8時ぐらいにしようか。んで、俺の部屋おいでよ」
「いえ、聞かれたくない話なので私の部屋に来てください。魔法で聞かれると面倒ですから。防音バッチリです」
当初、この部屋に来たときから聞かれているような気配がしていた。
誰かはわからなかったけど………ここは信用ならない場所だから私色に染めた部屋がいい。
「………わかった。じゃあまた明日。おやすみ」
「おやすみなさい」
「ますます不信感が高まっているなぁ」
そう、批難がましい視線を投げつけないで欲しい。
それに関しては俺だって頭を抱えたいくらいだ。
「それにヒノさんの部屋も、随分と厚待遇だ。まさか愛妾や皇妃の部屋じゃないよな?」
「一応賓客の部屋だ。ただ、歴代の愛妾や皇妃の家族に使われていた」
「これは多分不敬罪になるかもだけど………何考えてんだ?」
ユーヤの言う通り。
アランは何故か突っ走っている。
何を考えているのか、恐らく手元に置き気に入られたいのだろうが………やればやるほど逆効果の気がしてならない。
いやもうすでに気がする、じゃないか。
警戒されまくっている。
「本当に為政者?………それとも単に女性の機微に疎い?」
「後者だな。陛下が本気で一人の女性を気にするのは初めてだ」
「………………初恋が29歳ってことか」
「まあ25歳もいるし」
「ああ、似た者同士。おや、従兄弟じゃなかったっけ」
「お前ら………俺になんの恨みがある?」
何故かこの二人が会話すると途中から俺を遠回しに責めるというか、いじってくるというか………
「そりゃ面白――――のもあるが」
クラウ、無表情に取り繕っても隣で笑ってる奴がいるから無駄だ。
そういう意味も込めて睨んでやると、今度は困った顔で笑った。
「けしかけてるんだよ」
「は?」
と、ここでユーヤに与えられた部屋についた。
サクラの部屋よりかは劣るが、それでも賓客用の部屋だ。
応接室・寝室・浴室はついている。
その応接室にそれぞれ防御結界を張った。
特に遠耳の防御には。
「で、だ」
「ヴィル、陛下は逆効果とはいえ外堀を埋め始めているぞ。どうするんだ」
「どうするもこうするも」
どうにかしたいという気持ちはある。
だがアランより好ましいとは思われていないことを自覚していて、一体何をしろと言うんだ。
「いや、むしろアランドラ王とヴィルは同じくらいだと思っていい」
「しかし陛下は忠告を捨て置くことにしたようだ」
「ならば、やるべきことはただ一つ」
「サクラのフォローにまわるんだ」
つまり、アランドラの魔の手からさりげなく遠ざけろということか。
「その際はただの好意としてすること。何度も言うけどヒノさんはこと恋愛事は自他ともに認める鈍感で拒絶しいだけれど純粋な好意には凄く敏感だ。とにかくヒノさんの中の好意をあげていかないと」
「なぜ………ここまでする?」
ユーヤがここまでする理由がわからない。
利益もないことに口出しすること、特に他人の感情に対するのがとても不可解に思えたんだ。
「…………ヒノさんは、もっと自分の幸せに貪欲になるべきだ」
「その支えに、ヴィルが一番言いと思っているだけさ」