その3
これは『当たり』だったな。
穏やかなな空気をまとっていたユーヤは、機敏に動き的確に魔獣を切っていく。
サクラも詠唱せずに強力な魔法を防御攻撃問わず状況を判断し的確に使っている。
最初に抱いていた印象が後ろめたく感じるほどに、二人の働きは目を見張るものだった。
「それで終わりですね」
ユーヤが最後の一匹を切ってサクラが探査の魔法を使って周囲に魔獣がいないことを確認する。
こいつら本当に今日が初めてとは思えない動きだったな。
サクラのサポートもユーヤとのが一番タイミングがよかったし。
そりゃあ、もとから知り合いだからだと思うが。
つーか、どんな関係だよ?
恋人………にしては淡白だ。
クラウにはもう懐いている。
って本当になんで俺は嫌われているんだ?!
「おい、ヴィル?」
っと、もう着いたか。
苦笑するクラウとユーヤは、なぜか仕方ないというような雰囲気を醸し出している。
クラウはともかくユーヤにまでそう見られているとなると、まるで今の葛藤が如実に出ているようで焦る。
その原因であるサクラは訝しげにしているから、まだいいが。
とりあえず、今はさておいてだ。
「素晴らしい働き、感謝する」
「役にたてたようでよかったです」
サクラはユーヤの一歩後ろにいて、話す気はないようだ。
何かの感情が浮かびそうになって、会話に集中することにした。
「報酬なんだが、詰所にあるから取りに来てほしい」
「じゃあヤウチさん、私はあの酒場にいますので」
「いや、追加報酬があるから二人で来てくれ」
「………確かに働きによっては追加報酬があると書いてありましたが、正直あれぐらいで?」
「見くびってもらっては困る。騎士だとて連係プレーだ。特に魔法騎士になるとな」
「放置しておくには勿体ないくらいにね」
「スカウト………引き抜きですか?」
理解が早く、ますます手放すのが惜しい。
「騎士団の入団が、追加報酬ですか」
「そう。試験なしの入団だ」
「なら、お断りします。通常の報酬のみ、俺が取りに行きます」
「なぜだ?」
騎士団は平民が就くことができる最高の職種だ。
しかし国家に仕えることになるから試験は筆記・実技ともに最難関と言われている。
中にはわざわざギルドでの引き抜きを待つくらいの奴だっている。
それを狙っていた訳じゃないのか?
「何故って………俺たちの目的は当面の生活費と旅費のためです。あなた方の依頼を受けたのは、一緒に行く人が騎士団だから、という理由のみですから」
「なぜ旅をする?そもそも君たちはどんな関係かな。恋人でも、兄妹でもない君たちが共に旅に出るなんておかしい」
クラウの『恋人』という言葉に胸が少し痛んだが、とりあえず無視した。
クラウも違うと感じていたようだしな。
「この世界に散らばっている仲間を探さないといけないんです」
「ヤウチさん!」
「別に疚しいことをしているわけじゃないんだし。それにキチンと無理な理由を言わないと諦めないでしょ。団長・副団長が引き抜きにくるぐらいなんだからさ」
「もし、君たちの事情ってやつを話してくれるなら私たちは協力を惜しまないよ」
みすみすこの実力を逃すようなことはできない。
だが、二人はまだ拒む。
ならば、利害関係が一致すればいい。
「私はリーヴェンリッヒ王と従兄弟だ」
利用できる、と提示する。
クラウが苦笑いしていた。
普段は隠していることだからだ。
男も女も、王に取り入りたいがそこまでの地位も権力もない者達が自分から取り入ろうと近寄ってくるのだ。
お陰さまで十代の頃は軽い人間不信まで陥ったこともある。
だが、原因さえも引っ張り出してまで逃がしたくないのだ。
さて、私たちはここまでしてまで逃がしたくないほどの人材か?
目だけをヤウチさんに向けてみたけれど、ヤウチさんも私をジッと見ていた。
この場合の判断につきかねる、といったところか。
王様、ね。
これは交渉じゃない、公式な取り引きだ。
普通の大学生に求めんな。
と異世界で言っても仕方ない。
「行きましょう」
悪いようにはしないだろうしね。
詰所といってもやっぱり騎士がいるところだから、建物は砦だった。
華美の一切を取り払った物々しいものだ。
それでも一歩踏み入れれば、談笑する声が聞こえ、訓練している声が聞こえてきた。
ふわわ、やっぱり皆さんイイ身体していらっしゃる。
ゴリマッチョじゃなく、細マッチョでもない、程よい筋肉!
くはーっ眼福、眼福〜っ!
ヤウチさんが意味ありげなニヤニヤ顔してるけど、取り敢えず至福ものの映像はしかと脳内に焼き付けておかんと!
「ユーヤ、サクラ。こっちだ」
あぁん、まだ見てたいのに〜………
いや、来てよかった。
取り引きなんかもぶっ飛んじまったよ。
どストライクキターぁ!
ヴィルなんてメじゃないね!
「メイトーラ砦総司令官のハイレント・ワズノールだ。よろしく」
「メイトーラ砦副総司令官のメイノーラ・アッシュよ。よろしくね」
ヴィルに大人と色気と色黒を足して逞しさを増加させた超タイプと男装美女ーっ!
やばい、鼻血出そう。
しかし礼儀として私も自己紹介せねば!
「サクラ・ヒノです////」
後ろでヴィルがおっそろしー顔をしてたとか、ヤウチさんから聞くまでちっとも気づくことはなかった。
「異世界………」
うん、そりゃね。
突拍子もない話だから信じられないよね。
「これは凄いな」
ハイレントさんはPSPをカチャカチャといじっている。
あ、もち自分のです。
当然ゲームもデータスティックは抜いてる。
「信じていただけましたか?」
「ああ。君たちの話には一貫性があるし、何よりこんなカラクリは、今のこの世界では造れないものだ」
「で、あなた達は残りの仲間を探しに行くのよね?仲間にしか見えない額の紋様だけを頼りに」
「まぁそうですけど………何となくですが、いる方向とか、近いか、遠いかもわかりますから」
「というわけで、さっさと報酬出してください」
「ヒノさん………見も蓋もないって」
王族なんて、フラグフラグ!
ややこしいことに巻き込まれるフラグがバリンバリンするよぉ。
ただでさえ今だってそうなのに。
「まぁまぁ、そう邪険にしないでよ。私ね、いいこと思い付いちゃった」
男装麗人の悪巧み顔は、とても恐ろしいものでした。