その10
「クーヴァン・ジルエットです」
「ルーヴァン・ジルエットです」
「「僕たちが世界一の魔術師だよ」」
銀緑色のサラッサラヘアーに、澄んだ湖のような碧眼。
目を見張るほどの完璧なシンメトリーの顔立ち。
一番美しい形、色を全て彼らに与えられていた。
神様の愛し子と言っても過言じゃない。
本当に、本当に美しい双子の男の子たち。
歳は14だから、まだちょっと幼さが残っていて『おいしい』時期だ。
…………と、言われているらしい。
ぶっちゃけ、私としては『へー』なわけで。
いや、ホンットにキレーな子達なのよ?
でも、世の中やっぱ広いわー世界もいっぱいあるしねー。
それだけだ。
あ、観賞用にはもってこいだなぁ。
「おねーさん、その反応は初めてだよ」
「おにーさんも」
「だよねぇ、今まで老若男女問わず赤くなられてたでしょうしねぇ」
「「そうそう!女の子や女性ならまだしも男にまで照れられるとね〜」」
中にはノンケなのにソッチに走っちゃったりしちゃった人とかいそうだなぁ。
ま、それくらい綺麗な子達なんですよ。
「「おねーさんとおにーさんの名前は?」」
「サクラ・ヒノよ」
「ユーヤ・ヤウチ」
「「サク姉とユー兄ね!僕たち二人のこと気に入ったから特別にクーとルーって呼んで良いよ!」」
「おい、余にはちゃんと呼ばせているのになんだ、特別にとは!」
あ、まだいたんだ。
執務、あるんじゃないのかな。
「「えー、だって陛下は僕たちを見て赤くなったじゃないですかー」」
「男が男を見て照れるなんて、当人にしてみたら嫌なもんなんですー」
「そりゃあさ、ちょっとからかってやろうとちょっとだけ化粧したのもありますけど、陛下ほどのお力ならば纏っている魔力を見ればすぐにわかるものだと思っていたんですー」
「クー、ルー」
「「あっ師匠!」」
応接室に入ってきたのは凄いラフな格好をしたヴィルだった。
無表情に少しだけ呆れた感じを表に出してる。
ん、師匠?
「師匠は恩人で体術の師匠なんだ」
「まだ魔力の制御が上手く出来なくて魔法が使えない時に拐われそうになったことがあるんだ」
「その時巡回中でたまたま通りかかった師匠に助けられて」
「魔法に頼りきりにならないようにって体術を教えてくれたんだぁ」
「「だから師匠はいいんだよ」」
そう、今は笑っているから良いんだろうけど………
当時は怖かっただろうな。
悪意か好奇の目かはわからないけれど、狂気を孕んだ瞳は恐ろしい。
それが年端もいかない子供に向けられたこと。
私たちの世界と何ら変わりない悲しいこと。
子供は守られなければならない。
精神的にも肉体的にも。
心理学を本格的に学び始めてから特にそう思うようになった。
だからありのままを受け入れるようにしている。
ただ、生理的に受け付けられない人っているもんだから、それはそれとしてなるべく関わらないでいられるようにしてるけど。
うん、まぁ今はどうでもいい。
「「陛下はさっさとお仕事したほうがいいんじゃないですか」」
「ああ、宰相さんが困った顔してますね」
もう朝の九時半で、普通ならお仕事は始まっている時間だ。
王様だけど、王は王なりにお仕事はあるでしょうしね。
宰相も大変だなぁ。
「くっ!………サクラ、昼食は共に取るぞ」
「お断りします」
え、なんでそんなみんなして(ヤウチさん以外)驚いてるんですか。
宰相さんなんか、口がパッカリ空いちゃって、まー。
「お昼はヤウチさんと城下街で食べ歩きするんで」
「「それ、僕たちも一緒に行ってもいい?美味しいとこ連れてってあげるよ!」」
「あ、いいね。一緒に行こう!」
双子とキャイキャイ戯れる。
うーん、地球の日本の14歳と違ってスレてないから、付き合いやすいなぁ。
しかし、なんでヤウチさんはヴィルとアランドラ王に睨まれているんだろう………?
はっ、まさか!
「ジェンシートさん、アランドラ王。遊びに行けるのが羨ましいからと言ってヤウチさんを恨んじゃ駄目ですよ!私が行きたいってお願いしたんですからねっ」
だから恨むなら私にしなさい!
全くもう。
いい大人が子供みたいに拗ねちゃって。
デカイ図体で、んなことしてもただキモチワルイだけだっての!………とは決して口に出すまい。
「サクラ………」
む、なんかちっさい子に言い聞かせる雰囲気がプンプンするなぁ。
ヴィルが困ったような顔で頭をかくと、なんかそんな感じがしちゃうんだよね。
これがじつは、好きなポーズだったりする。
別にヴィル限定ではなく(ここ重要!)
「ユーヤもそうだが、一応お前たちは王家の客人だ。外に出るのには王の許可が必要だし、護衛も必要だ」
「でも――――」
「でも、じゃない。ここでは普通のことだ。知っていて最終的に受け入れたのは君たちだ」
勝手にくっついてきたのに?
色々提示してきて脅しみたいなことをしてきたのはそっちなのに?
だけど、結局は受け入れてしまったこっちの責任なんだろうな。
「わかりました。次からは改めます」
「すまない」
制約があって、息苦しいね。
社会にでたらこんな感じなのかな。
「今回は俺がついていこう」
「お仕事あるんじゃないの?」
「今日は非番だから、心配することはない」
「「もうそれで決定!僕たち早くお話したい〜っ」」
「じゃあ私の借りてる部屋でお話しよう?」
クーが私を、ルーがヤウチさんの腕を引っ張って駄々をこねる。
う〜ん、可愛いなぁ。
「ああ、そうだアランドラ王」
廊下で、アランドラ王は右に、私たちは左にわかれ歩き出したところで、大事なことを忘れてた。
「二人を紹介してくださってありがとうございます」
きっちり六十度、最上礼をする。
なんだかんだあっても、スムーズに面会できたのは王のおかげ。
苦手な人でも、嫌いな人でもしてもらったことにはちゃんとお礼しなさい、と母に教え込まれた。
「俺からも、我が儘を聞いてくださってありがとうございます」
ヤウチさんもピッチリお辞儀。
腕のルーが若干邪魔そうだけど。
「――――最高神官長は明日の午後、面通りできる」
「わかりました。ありがとうございます」
お?
顔がちょっと赤い?
風邪かな?
まーいい大人なんだし、大丈夫でしょ。
「じゃあ、行こっか」
「「魔法の概念?」」
うーん、ちょっと抽象的だったかな。
「魔法の基礎ってどんなのかしらってこと」
「陛下より強い魔力なんでしょ?」
「師匠より強い魔力なんでしょ?」
「「なんで今さら?」」
あ、そっか。
異世界から来たこと説明してなかったね。
何回も説明しているから簡単に確実に伝えきれる。
「「ふーん」」
なんか興味なさげ?
14歳って、大体中二でしょ?
てっきりファンタジー(私からしたらこの世界がそうなんだけど)大好き〜、とか言わないかな。
いや、まぁ中二の子達が皆、夢見がちとは思わんけどね。
「んーっと、サク姉は普段、魔法を使うときどんな感じに使ってるの?」
「想像しながら思うままに対象へ向ける感じかな」
「やっぱりサク姉、僕たちよりずっと凄いや」
双子が言うには、一般人が魔法を使う際には術式と呪文が必要になる。
まず想像ありき、なんだがそれは高度な術師でないとかなり難しい。
通常、術式も呪文も魔法を発動させるための補助の役割になるのだが、これがまた複雑で。
どちらも長い長い。
術式は見たこともないミミズがのたくったような線が、大体ルーズリーフ3分の1ぐらい。
これで一番簡単な着火の術式なんだから、ビックリ。
呪文も同じように『火魂の欠片よ、ここへ我にその恩恵を与えたまえ、我はその恩恵に頭を垂れる者なり』って、おいおい。
長いわくどいわ。
クーとルーはこの呪文を思い浮かべつつ、効果も想像しながら魔法を使う。
私としては、双子のほうが凄いけど。
後は武器等にあらかじめ術式を描いたり嵌め込んだり纏わせたりするのだけれど、それだと一種類しか使えないし、威力も少し弱くなるんだって。
「サク姉達は想像するだけでしょ?」
「それって凄いことなんだよ?」
そうかなぁ、二人の方が凄いと思うけど。
「「だって結局は呪文の力に頼っているじゃないか」」
………そういう考えになるのかぁ。