湘南せれぶりてぃ
誰にでも消したいけど消せない過去のひとつやふたつはある。
でも私の場合その記録が公に残ってるんである。
ちょっと普通じゃないよね。
日々その過去を他人につつかれるのをびくびくしてる自分が居る。
まあ大抵の人は私が外で歩いてても気づかないけど(だって私はもう過去の人だし)
たまに昔のことを覚えている人がいて
”どっかで見たことのある顔だ”ってじろじろ見られるのはまだいい。
一番嫌なのは大きな声で話しかけられる事だ。
「ミラちゃんですよねえ?!!
わー!!
なっつかしいい!!
昔よくテレビで見てましたあ!!」
って握手とか求められたり、その声を聞いた周りが集まってくることがたまーーにあるが
それが苦痛で苦痛で。
ま、めったにないからいいんだけどねえ。
今は私は湘南に篭ってる事が多いし、
仕事はラジオ「湘南セレブリティ」だけ。
つるんでる連中も個性的だけど業界とは関係無い人たちだ。
個性的と言えば今私の周りに居る中で唯一常識的な人は今付き合っている彼位である。
私が元芸能人だとは知らずに出会ったんだけどね・・・
最初のデートで・・・
あれは春の夜だったんだけど、二人で鎌倉で食事をしたあと海岸沿いを彼の運転でドライブしてた
時、最初のデートなんでこのあとお互いの家に誘うなんてことするつもりは無かった。
ただ別れ難くて車を飛ばしていた。
そのとき・・・
やって来たのよね~~
暴走族??走り屋??
今はなんていうのか知らないけど大勢でつるんでバイクを走らせてる人達。
週末海沿いを走ってる連中が多いのを忘れてたわ・・・
何台かのバイクが私達の乗った車を通り過ぎた。
その中には車に乗っているカップルの私達の顔を見ようと並走してくるのもいた。
私は顔を下に向けてたんだけど・・・
運悪く気づかれたみたい・・・
気づいた一人がインカムで他の仲間に話しそれが広がり
もう完全に私達の車はバイクに囲まれてしまった!!
車の中で私達の会話は途切れ彼の表情も硬い・・・
並走してるときたまバイクから声がかかる。
「ミラちゃーーん」とか・・・
「本物??」
「まじまじ??」
私が10代前半の時にアイドルっぽく出してちょっとあたった曲のフレーズを叫んできたり・・・
私の子役時代の代表作・・・というか短かった芸能生活の代表作のタイトルを叫ばれたり・・・
とにかく逃げようにも前後左右囲まれてしまって逃げようが無い・・・
彼も無言だ・・・
とにかく前を走っているバイクの後ろについていきながら私は携帯から警察に電話をかけて状況を説明
した。
ところが警察は「まだ具体的に何かされている訳じゃないんですよね?」
・・・って既に囲まれてるんですけど・・・
「されそうなんです!このままじゃいつまで経っても家に帰れません!!」
彼もハンドルを握りながら「なんかされてからじゃないと警察は来てくれ無いって?」
そのうち並走している連中から窓を叩かれた。
「とにかくなんとかして!」と頼みこんだら
少年課にまだこの時間、人が居るかもしれないからちょっと待ってくれとのこと。
待たされている間もバイクの群れは離れる様子は無い。
少年課の人と電話がつながって色々聞かれたもののなんとかGPSで追跡して来てくれる事に。
横浜近くのファミレスの駐車場にバイクの連中に誘導され車のガラスやボディを叩かれたりして
「降りろー!!」とかなんとか怒鳴られて彼も私も下を向いたままじっと絶えてた。
私達になんかあったら駐車場のカメラに取られてると思うし、
不審に思ったファミレスの人が警察に連絡してくれるといいんだけど・・・・
「雨衣さん、
私だけ降りてあなたの車を逃がしてくれるように頼んでくる」
と私がシートベルトを外そうとした手を彼は止めた。
「気持ちはうれしいけどそんな事しなくていいよ。
一緒に警察を待とう」と彼はにっこりしてくれた。
ちょっと胸がきゅんとした。
だって今までのデートしてきた男達や付き合った男達はこういう時は皆さっさと逃げてたし。
お陰でたくましい女になったかもしれない。
そうこうしてるうちに警察の車が来た。
私達も警察から2.3聞かれたが、直接は何も被害を受けてないという事で被害届は出さないでもいいとの
こと。
・・・・・・・・・。
「で、そんな目にあってもまだ会ってくれるんだ」と現在外国人と付き合ってる伽羅《きゃら》。
「良かったね。ミラちゃん、理解ある人で」とちょっとおっとりした口調の主婦の麻凛《まりん》。
「最初のデートで凄い災難にあったわね。結果オーライだけどさ」と今日は会社帰りなので地味なスーツ
の幸子。
「ねえ、話聞く限りだけど彼ってちょっとゲイっぽくない?」と普通のサラリーマンが着ないような
お洒落だけど派手な服装の鞠男《まりお》。(もちろん彼はゲイ)
彼ら4人は私が昔子役だったのを知っている。
伽羅以外は皆、湘南界隈に住んでいる。
個性的な友人達であるが、彼らとのちょっと変わった出来事はまた今度・・・・。
END