第二章 セミナー
それから数日が経ったある日、久々にハルヤは、大学でヤマトを見かけた。
あの女子大学生と出会ってからハルヤは、ヤマトの姿を見かけることはなくなっていた。
「おいヤマト!」
一人、真っ白なTシャツを着て歩いているヤマトに、ハルヤは声をかける。
「あ……ハルヤか……」
ヤマトは、ふぬけた顔でハルヤを見つめる。立っている姿には力がなく、ずっと、フラフラフラフラ左右に揺れている。
「どうしたんだよヤマト、大丈夫か」
「へへ……しあわせになったよ俺……」
ヤマトは、青白い顔で笑みを見せる。その姿に少し、ハルヤはゾッとする。
「あの後、何があったんだよ……お前、大学来なくなっただろ。マジで心配したんだからな!」
「うん……? しあわせになったんだよ……俺、しあわせになったんだ……」
ずっとフラフラフラフラ左右に揺れながらヤマトは喋っている。ハルヤは茫然とその姿を見つめていた。
「お前……」
「あ、そうだ。もう行かねぇと……へへ……ハルヤ、じゃあな……」
「おいヤマト!」
ヤマトは、フラフラフラフラとハルヤの前から立ち去ろうとする。ハルヤはヤマトを呼び止めようと、後ろを振り向いた。
「あなたはしあわせですか!」
そこに、満面の笑みで立っているショートヘアの女子大学生がいた。ショートヘアの女子大学生は、笑みを崩さない。
「お前……ヤマトをどうしたんだ!!」
思わずハルヤは大声で怒鳴る。そこには、ヤマトの姿はなく、そのショートヘアの女子大学生だけが、立っている。
「あなたも、しあわせになりたいですか?」
ショートヘアの女子大学生は、ハルヤの質問には答えず、笑顔でハルヤに尋ねる。ハルヤは再び、女子大学生に怒鳴り散らす。
「ヤマトを……どうしたんだ!!」
「ヤマトさんには、しあわせになってもらいました!」
純粋な笑顔で、女子大学生はハルヤに答える。ハルヤは、怒りが少し、恐怖へと変わっていった。
「お前、ヤマトを洗脳したんだな!?」
ハルヤは、女子大学生の両腕を掴んだ。怒りに任せ、握っている力を強くする。
「返せ! ヤマトをもとに戻せ! さもないと……」
「痛い! 痛いです! 私、ヤマトさんには何もしてません!」
「嘘だ! お前らがあいつを洗脳して、あんな風にしたんだろ!」
「違います! ただ、セミナーを受けてもらって、そしたら彼は、勝手にしあわせになったんです!」
「何?」
ハルヤは、握っていた女子大学生の両腕を離した。女子大学生は、両腕をさすりながら、さらに続ける。
「……あの人、私たちが強制的に何かしたとかじゃなく、勝手にああなったんです。きっとあなたも、私たちのセミナーを受ければわかりますよ」
「何だと?」
「あなたも、しあわせになりたいんですよね?」
それから数日後、ハルヤは女子大学生と一緒にある雑居ビルに入っていった。
入口すぐにある階段を上り、階段すぐ横のスライド式のドアを開ける。
そこには、左向きになっているパイプ椅子と縦に長い木製の机が、縦に三列、部屋の右端までぎっしり並んでいた。その先に、茶色い教卓が、ポツンと置かれている。
二人がその部屋に入ると、もうすでに何人か来ており、二人は、部屋に入ってすぐの一番奥の席に並んで座る。
「ほんとに、洗脳とかされないだろうな?」
「はい。普通のセミナーですよ。あなたもきっと、しあわせになりたくなりますよ」
「は……?」
瞬間、その部屋の教卓側についてあるドアが開いた。




