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Seamripper  作者: レニュ 蘭世
第1アーク: 目的との邂逅
9/10

第7章:「よぉ!」と、ライザーは言った

あまりに短い時間に、あまりに多くのことが起きすぎた。


誘拐。


異形の怪物。


友の屈辱。


脳を割るような激痛が、今や全身を駆け巡っている。そしてつい数瞬前まで、彼は死そのものを見つめていた。


だが今、死の運命との間に立ちはだかっているのは、微塵も動じていない男だった。まるで何も起きていないかのような平然とした態度。そして、その緊迫した状況を侮辱するかのような、あまりにシンプルで軽い言葉を投げかけた。


「よぉ!」


センコの瞳は見開かれた。あまりにも多くの感情が同時に押し寄せ、処理が追いつかない。衝撃、混乱、残る痛み、不信感……。そしてそれら全ての底に、微かな安堵が芽生えた。


「おいおい、ひどい有様だな、お前ら」


見知らぬ男は、軽い笑い声を上げた。その声は嘲笑と親愛の境界線上にあった。背後では短剣が防がれたままだが、彼にとってはそれが単なる「不便な邪魔もの」でしかないかのように。


「次から次へと……。いっつも俺と『宝物』の間に邪魔が入るなぁ」


**男(科学者)**は深い溜め息をつき、空いた手で顔を押さえた。センコを追い詰めるたびに、いつも最悪のタイミングで何かが割り込んでくる。その間の悪さに、心底苛立っているようだった。


「おまけに、目の前におるんは、えらい大物やし」

素早い動きで男は後ろへ跳んだ。ようやく次の相手を認め、その眼光を鋭く研ぎ澄ます。


【センコ】「……あんた、誰や?」


まだ思考がまとまらないまま、センコは口をついて出た最初の疑問をぶつけた。


「いやぁ、まさかエース級連将、『黄金の龍』ことシルハ・ライザーにお目にかかれるとはな」


男は新参者を歓迎するかのように、感心した様子で手を挙げた。


【ライザー】「俺、そんなに有名か?」


ライザーは背筋を伸ばし、眉を上げた。


「ちょっと照れるな」


ライザーは親指で無造作に目の前の男を指し、残りの紹介はそいつに任せると言わんばかりの態度をとった。


「……そういうこった、ボウズ。答えになってるか?」


センコとネルは息を呑んだ。


男の顔から傲慢な笑みが消え、表情が険しくなる。初めて、彼が「警戒」の色を見せた。


ライザーが完全に立ち上がると、その圧倒的な存在感を無視することは不可能だった。190センチを優に超える長身。鍛え上げられた筋肉は逞しく、それでいて無駄がなく洗練されている。


その体躯のどこをとっても、力強さとバランス、そして制御が同居していた。虚栄心で鍛えられたものではなく、戦場を生き抜くために磨き上げられた肉体。それは、多くの男が理想とする究極の形だった。


【ライザー】「で……お前が例の指名手配犯か。史上最悪の非道な実験を繰り返してる生物学者……」


ライザーの視線が男を射抜く。


「ヨクシボウ・サソリ。でお前、合ってるか?」


【サソリ】「褒め言葉として受け取っとくわ」


【ライザー】「なぁ、一つ教えてくれや」


ライザーは溜め息をつき、退屈そうに首の後ろをさすった。まるで、ここに来たこと自体が面倒でたまらないといった様子だ。


「なんでそんな有名人が、わざわざ正月の祭りの最中に現れたんだ? まったく……今頃、俺は街で美味いもん食って、ダラダラ過ごしてるはずだったんだぞ。カレンダーをチェックするって習慣、知らねえのかよ?」


その苛立ちは本物だった。彼は祭りの最中に仕事をするのが、心底嫌なようだった。


【サソリ】「せっかくの休みの邪魔したんは謝るわ。元々は、俺のもんを取り返しに来ただけなんやけどな」


【ライザー】「自分のもん、なぁ……。ってことは、その赤髪のガキは……」


ライザーの視線が一瞬だけネルに向けられ、再びサソリに戻った。その瞳は先ほどよりもさらに冷たく、鋭くなっていた。


「……お前のしでかした犯罪の被害者ってわけか」


【サソリ】「犯罪?」


彼は首を傾げ、歪んだ笑みを顔に浮かべた。


「人聞き悪いなぁ。俺は『改良』言うてほしいわ」


【センコ】(「犯罪」……「実験」……? ネルが……?)


衝撃と混乱がセンコの思考をかき乱した。視線を向けると、ネルは虚ろな目で、粉々に砕けた歪な記憶に囚われたかのように、何もない空間を見つめていた。


【ライザー】「おい、待て……」


何かに気づいたライザーが、険しく眉を寄せた。


「今、『元々は』って言ったか? 計画が変わった……そう聞こえたんだがな」


ライザーが鋭い視線をサソリに戻す。


【サソリ】「質問ばっかりやなぁ。いっぺんにそんな聞くんは、あんまり行儀ような(良く)ないわ」


【ライザー】「さっさと答えろ」


【サソリ】「おー、怖っ!」


サソリは両手で口を覆い、あからさまな嘲笑を込めておどけて見せた。


「ええよ。どのみちあんたらの調査で、いつかはバレるんやしな」


どうせ遅かれ早かれ知ることになると、彼は肩をすくめた。


【サソリ】「代わりに俺からも一つ聞かせてぇや、ライザーさん。……今、一番強い一族はどこや?」


一見、無関係に思えるその質問の意図がどこにあるのか測りかね、ライザーは目を細めた。だが、彼は迷うことなく、即座に答えることに決めた。


【ライザー】「『ヨミの一族』だ」


【サソリ】「正解! ほな、その前はどこの一族が頂点におった?」


ライザーの目が細められた。この会話の行き着く先が、不穏なものであると直感したからだ。


【ライザー】「なんの質問だ、それは……。普通に考えれば、それは——」


刹那、ライザーの脳裏にある確信が弾けた。


【ライザー】「……お前、まさか……!」


ライザーの視線が、勢いよくセンコへと向けられた。センコは完全に置いてけぼりで、体を硬くした。ネルの話をしていたはずなのに、なぜ急に全員が自分を見ているのか?


【サソリ】「興味深いと思わへん?」


【ライザー】「ありえん。そんなことは、絶対にありえねぇ」


【サソリ】「やんなぁ?」


彼は両腕を軽く広げ、手のひらを空に向けた。


「この世界は驚きに満ちとるんよ、ライザーさん。あんたみたいな場数を踏んだ『連将レンショウ』なら、誰よりも分かっとるはずや。不可能に見える謎にも、必ず答えはある。ただ暴かれるのを待っとるだけなんや」


【ライザー】(さっきここに来る前に感じた、あの凄まじいエネルギーの正体はこれか……? だが、こいつの言うことを信じろってのか? いや、証拠がねぇ。……だが今は、こいつの口車に乗ってやるか)


疑念を押し殺し、ライザーは鋭い眼光で再びサソリと向き合った。


【ライザー】「……どうやってそれを突き止めた?」


【サソリ】「あぁ、悪いなライザーさん。お喋りはここまでやわ」


サソリは幅の広い袖の中に手を入れ、それを取り出した瞬間、彼の武器が姿を現した。


両手に金属のリングが融合しており、それぞれのリングから「4本の鎖」が伸びている。鎖の先端には、蠍の尾のような形をした湾曲した刃が備わっていた。


鎖が解かれると、刃の先からドロリとした黒い液体が滴り、鎖がまるで生きている蛇のように空気を切り裂きながら、静かに音を立てた。


【サソリ】「暴きたい秘密は、他にも山ほどあるんや——」


【ライザー】「あー、ちょっと待て。一秒だけ」

ライザーは無造作に手のひらを挙げ、サソリの言葉を遮った。


【サソリ】「……はぁ?!」


邪魔をされたことに、サソリは明らかに苛立ちを見せた。


ライザーはサソリに完全に背を向け、二人の少年に向き直った。その顔には、背後に怪物がいることなど微塵も感じさせない、冷静で頼もしい笑みが浮かんでいた。


【ライザー】「よぉ。名前、なんてんだ?」


【センコ】「あ……センコ」


【ネル】「……ネル」


急激な展開に呆然としたまま、二人は本能的に答えた。


つい先刻まで自分たちを弄んでいた化け物に対し、この男は文字通り背中を向けている。その状態で、世間話をしているのか?


【ライザー】「そうか。ネル、センコ。動けるか?」


【ネル】「ああ……なんとか」


全身に壊滅的な打撃を受けたネルにとって、「なんとか」というのは明らかに強がりだった。数本の骨が折れていてもおかしくない有様だ。


一方のセンコは、肉体的なダメージはあの平手打ち程度だったが、頭痛があまりに酷く、体中の痛みを麻痺させていた。今は数え切れないほどのハンマーで全身を叩き壊されているような感覚だが、彼はそれを飲み込み、動けることを示すように頷いた。


【ライザー】「よし」


ライザーは親指で肩越しに後ろを指した。


「ちょっと下がってな。ここは今から、クソ熱くなるぜ」


センコとネルは驚愕の眼差しを交わした。


(戦うのか……ここで? たった一人で、あいつと?)


【ライザー】「心配すんな」


彼らの思考を読み取ったかのように、ライザーはニカッと笑って人差し指を立てた。


「一秒もかからねぇよ」


その自信満々な言葉を、二人は信じることができなかった。自分たちが手も足も出ず、遊ばれていた相手を「一秒で倒す」なんて、到底信じられるはずがない。


それでも、彼らは従った。


二人は必死に立ち上がり、ネルはセンコの肩を借りて、よろめきながら距離を取った。何が起きるのかを見届けられる、安全な場所まで。


【ライザー】「待たせて悪かったな。……で、どこまで話したっけ——?」


ライザーが相手の方を見ようともせず振り返りかけたその瞬間、一本の鎖が彼の頭をめがけて一直線に放たれた。


【サソリ】「死ねっ!!」


[つづく]


皆様へ


読みやすさ向上のため、構成の変更および名前のカタカナ表記への統一を順次行います。


混乱を招き申し訳ございませんが、既出の章につきましても順次修正してまいる所存です。


このような変更の際ではございますが、ぜひ皆様のご意見をお聞かせいただけますと幸いです。


重ねてお詫び申し上げます。

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