第8章:ライザーが撃つ
ドカァァン!
鎖は地面を猛烈に穿ち、深いクレーターを作り出した。ライザーは本能のみでそれを回避し、すでに別の地点へと移動していた。
【ライザー】「もう温まってきやがったか?」
【サソリ】「その余裕たっぷりのニヤけ面、今すぐ引き剥がしたるわ」
一秒の猶予も与えず、サソリは再び鎖を放った。
鎖は生き物のようにのたうち回り、猛烈な速さで連続して襲いかかる。その軌道上にあるものはすべて粉砕された。木々は真っ二つに裂け、岩石は砕け散り、巨大な岩もまるで紙細工のように引き裂かれる。
鎖が空気を切り裂くたびに、鼓膜を刺すような悲鳴のような音が響き渡る。
だが、そのどれ一つとしてライザーに触れることはなかった。
その逞しく筋肉質な体格からは想像もつかないほど、彼の動きは不自然なまでにしなやかだった。
鎖のわずかな隙間を縫うように体を捻り、曲げ、跳躍する。紙一重の差ですべてをすり抜け、たとえ包囲されようとも、軽々と回避し続けていた。
【センコ】「す、すごい……!」
【ネル】「なんて柔軟性だ……」
二人は信じられないものを見るかのように目を見開いた。ライザーには疲れの色も、焦りも見えない。その不敵な笑みが、何よりの証拠だった。
【サソリ】「チッ……なめんなよ!」
ヒュッ!
ライザーは咄嗟に首を傾げた。
細い針が彼の目の前の地面を貫く。即座に振り返ると、そこには不気味な姿をした小型の羽虫のような怪物の群れが滞留していた。蠍のような尾を突き立て、その針からは毒液が滴っている。
【ライザー】「妖怪まで使い出したか……」
【サソリ】「ちょっとばかし実験材料の幅を広げただけや、ライザーさん」
シュシュシュッ、と規則正しい音を立てて、毒針の雨がライザーへと降り注ぐ。
ライザーは砂塵を切り裂く一筋の残像となって動き回るが、その先にはすでにサソリが待ち構えていた。重厚な鎖が、まるで鋼鉄の毒蛇のように音を立てて解かれていく。
【ライザー】「追い詰めにかかってるな」
【サソリ】「へへっ」
ライザーは手のひらで地面を押し込み、高く空へと舞い上がった。
空中へ逃れた彼の体は、瞬時に鋭い螺旋を描く。針の雨が皮膚を数ミリの差でかすめていく中、彼は金属の弾幕のわずかな隙間を回転しながら通り抜けていく。鋼鉄が虚空を切り裂く「キィィン」という音が絶え間なく響くが、ライザーはその嵐の中を、ありえないほどの流動性で泳ぎきった。
【サソリ】「大したもんや。凄まじい反射神経やな。……けどなぁ!」
ライザーの足が着地した瞬間、足元でパキパキという不穏な音が響いた。本能が危機を告げ、彼は間一髪で後方へ跳んだ。
バリバリバリィッ!
地面が激しく割れた。その亀裂から、高さ25メートル、幅10メートルに及ぶ巨大な蠍の怪物が姿を現した。蒼い月光を浴びて鈍く光る鱗は鋼鉄のような硬度を誇り、4本の細長い脚が土を抉る。
巨大なハサミが地面を擦るたび、耳を突き刺すような金属音が響いた。
【ライザー】「へぇ……。こりゃまた、デカいな」
彼は顔を上げ、その巨大な質量を感心と警戒の入り混じった目で見つめた。
この時、サソリは微かな違和感を抱いていた。ただ攻撃を無傷でかわし続けていることや、その驚異的な柔軟性に対してではない。
戦闘が始まってからずっと、この男の顔に張り付いている「余裕の笑み」に対してだ。
どれほど窮地に立たされているように見えても、彼は全く動じず、追い詰められている様子もない。
そして何より……なぜ、この男は攻撃してこないのか? なぜ逃げ回るだけなのか? 戦闘開始から、彼は短剣を抜くどころか、パンチの一発すら繰り出そうとしていないのだ。
【サソリ】(……迷うんは後や。これで終わりにしたる!)
サソリは疑念を振り払った。
素早く周囲を見渡すと、もはやライザーに回避や跳躍の余地は残されていなかった。
目の前には巨大な蠍が突進し、背後からは毒虫の群れが針の雨を降らせようと構え、左からはサソリの鎖が迫っている。
【センコ】「完全に囲まれてる……逃げ場がない!」
【サソリ】「これで最後や!」
圧倒的な数に囲まれ、退路を断たれた状況。それでも、ライザーの笑みは相変わらず穏やかなままだった。
【ライザー】「どうやら、ウォーミングアップは終わりだな。さて。そろそろ動くか」
ライザーは咥えていた小枝をひょいと指で弾いて高く放り投げると、腰の短剣に手をかけた。
低く身を構える。
深く吸い込み。
次の瞬間、獰猛な殺意を孕んだ笑みを浮かべた。その瞳は獲物を待ちわびていた捕食者のように、残酷な光を宿している。
爆発的な踏み込み。
【ライザー】「ふっ……」
ドォォォォン!!
足元の地面が激しく砕け散り、彼は閃光のような残像を残してその場から消えた。
【サソリ】「なっ……なんや、このデタラメな速さは?!」
サソリは驚愕に目を見開いた。
ライザーは巨大な蠍に向かって飛び込み、その短剣は狂いのない精度で空を裂いた。シュパッ、シュパパッ! 怪物自慢の鋼鉄の脚が、まるでバターでも切るかのように次々と切り落とされていく。
サソリは即座に小型の羽虫たちに毒針の斉射を命じた。空中にいるライザーを目がけ、数百、数千という針が降り注ぐ。
だがライザーは躊躇することなく、巨大蠍の胴体を蹴りつけた。その反動を利用して、自ら針の嵐――羽虫の群れの中へと突っ込んでいく。
正面から迫る無数の針。しかし、彼は短剣を無造作に振るうだけで、そのすべてを弾き飛ばした。
空中での体勢を瞬時に入れ替え、ライザーは群れを紙切れのように切り裂いていく。
【サソリ】「なんやて……!? なんであんなに速——」
反応する間もなかった。瞬きする間、ライザーはすでに目の前にいた。低く屈み込み、サソリの目を見上げるその瞳には、凍りつくような殺意が宿っている。
【サソリ】(いつの間に……?!)
パニックに陥ったサソリは、8本の鎖すべてを目の前の男へ向けた。だが、ライザーは退かない。眉ひとつ動かさない。ただ、短剣を一閃、大きな弧を描くように振り抜いた。
それだけで、8本の鎖はまとめて呆気なく切断された。
守りを失い、完全に無防備となったサソリ。ライザーがトドメの一撃を放とうと踏み込む。
ヒュッ!
刃が空気を切り裂く。死を覚悟したサソリだったが、間一髪、蠍のような長い尾を持つ別の怪物が彼の腰を掴み、文字通り「マイクロ秒」の差で後方へ引き戻した。
【サソリ】( なんちゅうデタラメな速さと力や……!)
サソリは息を乱し、死の一歩手前まで追い詰められた現実に戦慄しながらも、決して警戒を解かなかった。
その瞬間。
最初にライザーが放り投げた小枝が、ようやく目の高さまで落ちてきた。
ライザーは、まるで最初からそこを動かなかったかのように、元の位置でその小枝をひょいと受け止めた。
ドガァァァン!!!
背後で、遅れてやってきた「衝撃」が爆発した。
巨大な蠍と羽虫の群れの残骸が、紫色の体液とともに四散し、戦場に降り注ぐ。サソリの軍勢は、一瞬にして全滅したのだ。
【センコ】「今……何が……起きたんや?!」
【ネル】「信じられねえ……っ!!!」
二人は呆然と立ち尽くしていた。何が起きたのか、脳の処理が追いつかない。
彼らの目には、ライザーが動いたようには見えなかった。ただ一瞬かき消え、次の瞬間には元の場所に立っていた。そして直後に、怪物が爆弾でも詰め込まれていたかのように弾け飛んだのだ。
まるで時間が一瞬だけ止まり、そこから暴力的な勢いで動き出したかのような光景。
実際には、ライザーの斬撃があまりに速く、あまりに精密だったため、物理的な破壊の衝撃が空気に伝わるのが一瞬遅れ、内部爆発のような錯覚を引き起こしたのだ。
【ネル】「あれが……エース級レンショウの力なのか? すげえ……」
【センコ】「……めちゃくちゃカッコええ!」
これまでの警戒心などどこかへ吹き飛び、二人は高台からワクワクしながら飛び降りた。その瞳は純粋な憧れでキラキラと輝いている。
【センコ】「ライザーさん!」
【ライザー】「ん? お前ら、何やってんだ。待ってろって言わなかったか——?」
【センコ】「今の、最高にカッコよかったです、ライザーさん!」
【ネル】「うん、めちゃくちゃクールクール!」
二人はライザーの周りをぐるぐると回り出し、賞賛の嵐を浴びせた。数秒前まで冷酷な捕食者のようだったライザーは、あまりにも直球な褒め言葉に完全に毒気を抜かれてしまった。
【センコ】「本当にすごかった! 動いてるのが全然見えなくて、本当に時間が止まったみたいでした!」
【ネル】「そうそう! 速い! 強い!」
ライザーの厳格な表情が、みるみるうちに崩れていく。
【ライザー】「お、おう……あー、いや。……当たり前だろ! まあな、俺くらいになればこの程度、当然だ! 自分がカッコいいのは知ってるよ!」
叱りつけようと思っていたことなど、どこかへ消えてしまった。ライザーは得意げに胸を張り、当初の命令も忘れて、鼻高々に称賛を受け入れていた。
【センコ】「さっきの戦い、あいつをおちょくってるみたいやった! マジで凄すぎる!」
【ネル】「信じられない……最高だ!」
【ライザー】「んー。まあな。そうだろう、そうだろう。もっと言ってくれ! ちなみに言っとくが、今のは短剣一本だ。もし二本使ってりゃ、今の半分以下の時間で終わってたぜ」
【センコ&ネル】「やっべえぇぇ!!」
ライザーは腕を組み、止まらない賞賛を全身で浴びながら何度も頷いた。このままずっと二人の褒め言葉を聞いていたい、と言わんばかりの表情だ。
その様子を、サソリは思考を激しく回転させながら見つめていた。
(あの動きは人間のもんやない。一体なんや? 何のレンジュツを使いよった?)
一筋の冷や汗が彼のこめかみを伝う。初めて、壁に追い詰められたような感覚を覚えた。彼はもはや、狩る側の人間ではなかった。
(いや……連術やない。ただの純粋な身体能力やと言うんか? なんちゅう化け物や……)
その時、ライザーが自分を振り返るのに気づいた。
あの嘲るようなニヤけ面が戻っている。ライザーは右手を挙げ、左手の人差し指でサソリの腕を指差した。「自分の右手を見てみな、ボウズ」とでも言いたげな、静かで人を食ったようなジェスチャー。
サソリはゆっくりと視線を落とした。息が止まる。
右手が、なかった。
【サソリ】「……なんやて?! 手が……斬られとる!」
衝撃が物理的な打撃となって彼を襲った。ライザーの最後の一閃で、手首から先を切り落とされていたのだ。だが戦いに没頭し、目の前の怪物を相手に生き残ることに集中しすぎていたため、失うその瞬間まで気づきもしなかった。アドレナリンの山に痛みが埋もれていたのだ。今、この時までは。
【サソリ】「あぁ……なるほどな」
サソリの顔から緊張が消えた。唇に笑みが浮かび、低い笑い声が漏れる。
その笑い声は徐々に大きくなり、ついには捻じ曲がった、正気とは思えない狂気の咆哮へと変わった。
「ハハハハハハハ!!!」
彼は両腕を天に突き出した。切り株のような手首から噴き出した鮮血が、彼の顔を赤く染める。
「神様ありがとう! 俺の祈りは届いとったんやな! あんた、やっぱりおるんやな!」
狂乱に陥った男を、三人は沈黙して見つめていた。
【センコ】「な……何やってんねん、あいつ」
【ネル】「さっぱり分からねえ……」
【ライザー】「正気を失ったか。……だが、これ以上はマズい。お前ら、下がってろ。今すぐだ!」
【センコ】「わ、分かった。行こう、ネル!」
二人は慌てて後退し、安全な高台へと飛び移った。
ライザーは二人が安全圏に逃れたのを確認すると、短剣の柄を強く握り直した。
高笑いがゆっくりと消えていき、サソリの歪んだ笑みが、凍りつくような真剣な表情へと変わる。彼はライザーを射抜くような目で見据え、声を低めた。
【サソリ】「ライザーさん。俺の実験、最近は失敗ばっかりやったんよ。目標に届くための最後のピースが見つからんくてなぁ。人生、ほんまに退屈やったわ」
まるでお喋りでもするかのような軽い口調で、彼は続けた。
「……でも、今、見つけたんや。最高のお宝をな」
【ライザー】「で、その目標ってのはなんだ?」
【サソリ】「そのうち分かるわ、ライザーさん。いや、感謝せなあかんな。苦労もせんと手に入ったお宝なんて、面白味も何もないやん? ほんま、ありがとさん」
【ライザー】「最後にもう一度だけ聞いてやる」
感謝の言葉など無視し、ライザーは短剣を突きつけて唸った。
【ライザー】「どうやってあのガキのことを知った?」
【サソリ】「あぁ~、今は気分がええわ」
彼は満足げに空を仰ぎ、クスクスと笑った。
「礼のしるしに教えてやるよ。まず、俺自身もそのガキのことは知らんかった。ある人物から情報を貰うたんや」
【ライザー】「誰だ?」
【サソリ】「驚くことに、俺も知らんのや」
混乱するライザーを見て、サソリはニヤリと笑った。
「見た目以外、名前も素性も分からん。長い黒のクロマ(マント)を羽織って、いつも仮面をつけとる男や。仮面の形は毎回変わるんやけど、一つだけ共通点がある。てっぺんに天秤の紋章がついとるんよ。ふん、素顔も知らへんわ。食えん奴やで」
【ライザー】「天秤……? 名前はなんて言うんだ」
【サソリ】「残念やけど、教えられるんはそこまでや。名前を教えるほどお人好しやないんでな。……でも今は……」
サソリは出血している手首を頭上に掲げ、自らの血を舐め始めた。
ライザーはそれを見て、ある事実に気づき寒気が走った。
(……なんでまだ出血してやがる? 普通なら今頃、失血死して干からびた死体になってるはずだぞ)
彼は第二ラウンドに備え、短剣を構え直した。
【ライザー】「まだ、俺を倒すつもりか?」
【サソリ】「まさか。今はまだそんなつもりないわ、ライザーさん。今は……ただのお別れや」
突如、サソリの腹部が内部で何かが爆発するかのように、元の3倍ほどに膨れ上がった。
ライザーが身構えた瞬間、サソリの口から高圧の赤い液体が激流となって噴き出した。
【サソリ】「血操:紅蓮の燃ゆる海!!!」
【ライザー】「血操だと……?!」
周囲一帯が、猛烈な勢いの血の海に呑み込まれた。
それは触れるものすべてを溶かす酸の津波だった。
ライザーは即座に反応し、せり上がる酸の潮から逃れるため、木から木へと飛び移った。彼は少年の元へ飛び込むと、センコとネルを抱え上げ、さらに高い場所へと全力で駆け上がった。
高台の尾根に着地し、眼下に広がる深紅の荒野を見下ろす。酸の海はおよそ5000平方メートル――サッカー場一つ分ほどの広さを覆い尽くし、空気中には濃密な毒ガスが放出されていた。
それは完璧な逃走計画だった。酸の海と毒に満ちた空気の中では、ライザーも追撃することができない。
彼は必死に周囲をスキャンしてサソリを追おうとしたが、すでに手遅れだった。
【ライザー】「くそったれ……逃げるための策だったか! 姿が見えねぇ」
彼は吐き捨てるように言った。
(血操の連術だと……? 資料にはそんなこと一言も書いてなかったぞ)
【センコ】「でも、あれだけの酸の血を出して……あいつ、生きてられへんはずやろ」
【ネル】「……侮るな。あいつは、いつだって戻ってくる方法を見つける奴だ」
ネルは遠くの地平線を見つめ、疲弊しながらも確信に満ちた声で言った。
数分後、血の海はようやく引き、後には完全に破壊され、煙を上げる無惨な風景だけが残された。
【センコ】「なんて化け物や……」
【ライザー】「死体がない。ってことは、生きて逃げ延びやがったか」
ライザーは苛立たしげに顔を擦り、溜め息をついた。
【ライザー】「……ったく。これ、あとでミツバにこっぴどく怒られるな」
【センコ】「ライザーさん……」
センコはライザーを見上げた。その瞳には、真実を求める強い決意が宿っていた。
【センコ】「あの男は誰やったんや? 何が目的やったん? なんで……俺らを追ってたんや?」
【ライザー】「えーっと、それは……」
【ネル】「それに、なんでセンコを狙ってたんだ?」
二人の少年が彼を見つめる。その真剣な表情と、答えを渇望する瞳に、ライザーは気圧された。
【ライザー】「わかった、わかったよ。ったく……」
彼は頭を掻き、どう説明すべきか言葉を探した。だが、何かを告げる前に、まず確かめておかなければならないことがあった。彼はセンコの前に屈み込み、その首元を調べ始めた。
【センコ】「……何してんねん?」
【ライザー】「ちょっと確認したいことがあるんだ。じっとしてろ」
そして、彼はそれを見つけた。サソリが目にしていたものと同じ、あの紋章を。
「……やっぱりな。もう疑いようがねぇ」
ライザーの表情が引き締まる。抱いていた疑念が、確信へと変わった。
【ライザー】「どう言えばいいか迷うが……もう、はっきり言っちまうわ」
彼はセンコを見つめ、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
【ライザー】「ボウズ。お前は、歴史上最強にして最恐と謳われた伝説の一族……『ウズヒラ一族』の末裔だ」
【センコ】「俺が……なんやって……?」
世界が傾いた。頭がどうしようもなく重く感じられ、肉体がついに極限の疲労と衝撃に屈した。センコは言葉を失ったまま、崩れるように地面に倒れ込んだ。
【ライザー】「あーあ、死んじゃった。ま、いっか」
ライザーが淡々と言った。
【ネル】「はぁぁ?! 何言ってんだよ!!!」
ネルは目を見開き、硬直してライザーを凝視した。
【ライザー】「冗談だよ。情報のキャパオーバーだ。さっきの話は、こいつには重すぎたんだろ」
(……さっき感じたあの凄まじいレンイン……。あいつ、無意識に『眼』を覚醒させやがったな。肉体が限界を超えちまったのも無理はねぇ)
ネルは意識を失った友を見つめた。自分自身の体も、ボロボロで悲鳴を上げている。まぶたが鉛のように重い。彼もまた、すでに限界に達していた。
【ネル】「俺も……後に、続くわ……」
そう言い残すと、ネルもまた友の隣に崩れ落ち、深い眠りへと落ちていった。
【ライザー】「おいおい……」
ライザーは二人を見下ろし、その瞳に少しだけ同情の入り混じった優しい光を浮かべた。
その時、頭上の暗い夜空が突然、鮮やかに弾けた。
ドーン! パチパチパチ!
新年の祭りを祝う花火が、夜空を彩り始めた。この数時間の緊迫した出来事の間に、日付が変わっていたのだ。
色とりどりの輝きがライザーの瞳に映る中、彼は隣り合って眠る二人の少年を見つめた。
【ライザー】「ゆっくり休め、センコ、ネル。明日から、お前らの人生はガラッと変わるぜ」
新しい年の始まりと共に、少年たちの新たな物語が、今、幕を開けた。
[つづく]




