その一秒 スローモーション
眼前に広がる森。見渡す限り広がる森。
トンネルを抜けた減田透流太の目に飛び込んできたのは、生まれて初めて見る、世界そのものでした。
「木、木、木、ずーっと木。えーっと、この後どーするんだっけ。たしか、、、一番高い木を目指して、、、。」
目的の木を探す透流太の耳に、何かの音が聞こえます。
「ズズーン、ガガガ、、、」
何か、とてつもなく大きい何かが、森の中で動いている。いや動いていると表現するには、はるかに激しい音が聞こえてきます。
「どこだ、、、見えない。なんだ、、、どこか遠くの音が聞こえてくるのか?」
これは透流太の洸杜が聞き取っているのでしょう。目には見えないが、確実に危険が迫っている事を知らせているのです。
「どうやらコッチの方から聞こえてくる気がするな。なんで分かるんだろ俺?」
まぁ透流太はまだ良く分かっていない様子ですが。どうやらこの音が気になるようです。
それもそうです、今まで安全な町“ニューモート”の中で、危険とは真逆の状況で生きてきたのですから。好奇心にあらがう術はありません。
「とりあえず行ってみるか。いちおう剣も出しといてっと。」
剣を構え、音のする森の中に入っていく透流太。構えると言っても剣なんて持ったことも、見たことすらありません。剣を杖代わりに森の中を進んで行きます。
そしてその時は突然やってきます。
「ガガガガー!」
眼前に飛び込んできたのは巨大な“生物”、、、と呼ぶには余りにも異質な存在。
そして、その生物に追われる少女。
何がどうなっているのか、全く状況を理解できない透流太。そして生まれて初めて見るその巨大な生物こそ、透流太の目的である龍なのです。
「透流太、聞こえますか!逃げてください、その生物が龍です!アナタにはまだ手に負えません!」
ミテラケフィの声の様子から、非常にマズい状況だと言うことが伝わってきます。
「でも今、女の子が、、、。その、龍に追われて。」
透流太はハッキリと見ました。龍に追われる少女を。なぜこんな森の奥で少女が龍に追われているのか。そもそも町の外にも人って何なんだ。様々な思考が渦巻き、逆に冷静になる透流太。そうです、透流太は考えることが多くなると、考えることを放棄して、単純思考になるのでした。
「ミテラ、やっぱ見過ごせねーよ。だからアンタの言う事は聞けない。手伝えとは言わない。けど教えてくれ。どうしたら良い?」
これが俗にいう“肝が据わった”と言う現象でしょうか。突然の状況に、冷静に判断を仰ぐ透流太にミテラケフィは答えます。
「わかりました。ですが、手伝うなとは連れないですね。お手伝いさせていただきます。まだ洸杜のチカラの使い方も理解してませんし、なにより使いこなせないでしょう。」
ミテラケフィがそう言うと透流太のグラフィック・ギドラーのモニターが切り替わります。
「攻撃モード始動、オートパイロット起動、演算補正開始」
「おっ、おっ、なんだ!?なんか、頭に勝手に浮かんでくる、こうすれば、良いのか?」
言うが早いか、透流太の体が一瞬にしてその場から消えてしまいます。そして次の瞬間。
「ズ、、、、ダダダダーン!」
突然、龍の上空から透流太が降ってきて、そのまま地面もろとも龍を真っ二つにしてしまいました。
そしてその衝撃で辺り一面の木はなぎ倒され、地面は深く抉れてしまっています。
「やったか、、、?、、、えっ、これ俺がやったのか、、、?これが洸杜のチカラなのか?」
やっと状況を理解したようですね。”これが洸杜のチカラなのか?”それは半分正解で、半分不正解。洸杜のチカラの一端でしかないのですが。そしてどうやら少女は無事のようですね。
「おーい、だいじょーぶかー。そんでアンタ何者だー?」
「ちょっと、、、これキミがやったの?どうやって、、、。いや、それよりもスグにこの場から離れないと。」
先ほど龍に追われていた少女が透流太に問いかけに答える間も置かず忠告します。
「私の説明は後よ、この音を聞きつけて龍が集まってくる。スグにここから離れないと。」
言うが早いか、その忠告をあざ笑うかのように音を聞きつけた龍が姿を現します。
「、、、遅かったようね。」
身構える少女を遮るように透流太が吠えます。
「よっしゃ、じゃあオレがぶった斬ってやるぜ!」
先の戦闘の余韻が残っているのでしょうね。産まれて初めての経験の連続で多少興奮気味な透流太。
ですが剣を構える透流太に向かって、状況判断した少女がこう返します。
「(中型の龍が一匹、この程度なら私一人で)落ち着いて、まずは冷静になってください。それに、キミがやったらまたデカい音を出すのではなくて?」
正論である。ですがこの少女、先ほどは龍に追われてはいましたが。どうやら剣も携帯しているし、戦う事に関しては透流太よりは慣れていると思われますが、、、。
「すこし時間をください。その間、龍の気を引いて下さい。」
どうやら準備が必要なようですが、、、。
「オイ、気を引くったって。どんくらい引き付けとけば良いんだ!」
透流太の問いに少女が答えます。
「1秒。」
「先世視始動、最適行動演算。身還発動、認識阻害。炎心発動準備開始。」
グッと屈みこむ少女の身体が、みるみると周囲から透けていきます。
「篝火始動、回転数安定、プラグコア着火。プラズマエンジン出力200%、陽炎化現象発現、承認。カウントダウン、1秒。」
篝火の回転運動により着火されたプラグコアがプラズマエンジンに火を灯し、蒼い陽炎と成りて放つ必殺の剣撃。
「ヒバナ!」
弾丸のように飛び出した少女。曲剣から放たれる閃光が一撃で龍の首を両断。1秒がスローモーションのように流れ、地面に落ちる龍の首。
それは姿も無く、音も無い、まるで静かに燃える蒼い炎のようでした。
長い時間が流れたような気がします。いやほんの数秒だったのかも知れません。
呆然とする透流太がようやっと口を開きましたね。
「あっ、う~ん、あれだ。、、、ありがとうございます、、、。」
なんとか言葉を捻りだす透流太に少女が言います。
「とりあえず離れましょう。まだ安全とは言えませんからね。」
「目的地はあるのですか?私は写世に帰りたいのですが、、、荷物は全て失くしてしまったし、、、。」
どうやら少女は“写世”と呼ばれる場所へ帰りたがっている様子。ですが物資も無く、龍の存在もあり、帰るに帰れない。と言った所でしょうか。
「俺はとりあえず、一番高い木を目指せって言われているんだよな。アンタ知らないか?」
透流太が目的地を告げると、何か知っている様子の少女。
「えぇ、そこなら知っているわ。まずは移動しながら自己紹介が先かしら。」
と言うと目的の高い木に案内する少女。森は険しく足場も悪い、そして龍に警戒をするためにも徒歩で向かうようですね。
「私はオリジンA1部隊所属のNo.1225。キミのその服装、もしかしてニューモートから?それよりも何なのあのチカラは、、、。」
少女が透流太に問います。どうやら少女の名前はNo.1225と言うようですが、、、。
「1225!?何だそれ、アンタの名前1225って言うのか?え~っと、もっと普通の名前はないんか?」
無理もありません。そんな名前は透流太の町では聞いたこともありませんからね。
「私は何かオカシイ事を言いましたでしょうか?No.1225、コレが私の識別コードです。それ以外の呼び名はありません。それよりキミだ、あのチカラは何なんですか?」
どうやら本当にNo.1225で合っているようですね。色々と呑み込めない様子の透流太ですが、彼がこうなると、まぁこうなりますよね。
「う~ん、まぁイイや。俺の名前は減田透流太、16歳になったばっかりの職業トラベラーだ。龍玉を持ち帰るために町を、ニューモートを出てきた。」
何も疑わず納得する透流太、実に話が早いですね。
「なるほど、やはりニューモートのトラベラーでしたか。ですがあの異様なチカラは何なんですか!?トラベラーは知識として知っていますが。キミ、いや透流太のようなチカラはアーカイブにはありません。人はもっと脆弱で、戦う術を持たないはずだったんじゃ、、、。」
確かに、何も知らない者からしたら透流太のチカラは”異様“に映るのでしょう。
「このチカラは、、、。」
その言葉を遮るようにミテラケフィが透流太の頭に割って入ります。
「いけません!アナタのチカラを他人にしゃべってはいけません。たとえその少女が信頼に値すると感じていても、今はまだ言うべきではありません。」
どうやら透流太のチカラには、何か秘密があるようですね。
ミテラケフィは続けてこう言います。
「良いですか、アナタのそのチカラは“父親譲り”。この場はそう言って納得して頂きましょう。」
どうも納得いかない透流太。ですがミテラケフィのあの慌てようは、”言ってしまったら何かマズい事が起きる”そう予感させるのに十分な重みが感じられました。
「あっ、あぁ、え~っと。実はこのチカラは父親譲りと言いましょうか、何と言いましょうか、、、。」
うん、実に嘘が下手ですね。たぶん嘘をつくと言う行為をしたことが無いのでしょう。
ですが、この発言を聞いたNo.1225は、なぜか深くうなずきます。
「あぁ~、なるほど。と、言うことは、、、。透流太、キミの、、、。いや何でもない。先を急ごう。」
ど~にも引っかかる言い方ですね~。この少女、勝手に納得して、さらに何かを知っているようです。
「ホラ、見えてきたぞ。あれがこの森で一番高い木。龍の巣と呼ばれる場所だ。」
なるほど、ココがミテラケフィの言っていた龍の巣なのですね。ですが彼女が言っていた館はドコにも見当たりませんが。一体どう言うことでしょうか。
「着いた、着いた。いや~、1225、、、さん?のお陰ですんなり到着したよ~。」
「で、コレからどうしたら良いんだ?」
そうでした、“高い木を目指せ”、それだけしか言われていませんでしたね。
「、、、ん?何だ?景色が渦巻いてる?」
透流太が何かに気付きました。そのひときわ高い木の幹が、なにやらグルグルと歪んで見えます。そして好奇心旺盛な透流太。もうお分かりですね?
「うぉ、なんだ!吸い込まれる!」
なんと、その渦巻く歪みに手を差し伸べた透流太を吸い込んでしまいました。
「おい!大丈夫か!手を、私の手をつかめ!」
1225が必死に透流太に手を引きますが、、、まぁこう言うのを“お約束”と呼ぶのでしょう。
透流太ともども1225も吸い込まれてしまいます。
ミテラケフィの言う通り一番高い木に到着した透流太。そして成り行きで行動を共にするNo.1225。
この渦の先はどうなって居るのでしょう?
二人の運命は、螺旋の渦のように絡み合っていくのです。




