1 西暦2000年8月20日
作者の星野サダメと申します。
私は視覚障害をもっており、どうしても誤字脱字が多くなってしまいます。
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どうぞこれからよろしくお願いします。
1 西暦2000年8月20日
深い闇の中から意識が浮上する。
ぼんやりとしつつも、ここしばらく感じていた全身を襲う痛みが全くないことに気付く。
そういえばここ数日の間、聞き続けていた医療機器たちの電子音や駆動音が聞こえない。
その違和感によって意識が急激に覚醒し、身を起して周囲を見渡す。
物置と化している学習机、漫画ばかりの本棚、壁には懐かしいアニメキャラが描かれたポスターが貼ってある。
ここは……、病院の集中治療室ではない……。
実家の俺の部屋か……?
しかも小学生か中学生の頃の部屋のように感じる。
さっきまで寝ていたベッドの上部に置いてあったデジタルの目覚まし時計を手に取って確認する。
時刻は午前8時40分、年月日は西暦2000年8月20日の日曜日となっていた。
これは走馬灯というやつなのだろうか……。
西暦2025年の夏、35歳の俺はウィルス性の病によって生死の境をさまよっていた。
早期に対処をしていたなら命にかかわるような状態になることは無かったが、仕事の多忙さを言い訳にして油断していたのが原因だ。
本当に今が西暦2000年なら俺は10歳の小学4年生となる。
全身を確認すると、全体的に子供らしい体格をして、肌にはつやがあり、薄く残っていた古傷なども見当たらない。
「俺は平成3年、西暦1990年、6月5日生まれの倉持大樹だ」
とりあえず、声を出して意識の確認をしてみたが、間違いなく35歳まで生きた俺の記憶がある。
それよりも、やはり子供の声が出たことに唖然としてしまった。
これが死に際に見る走馬灯というのなら、妙に現実的過ぎるので、それならこれは現実だと思って行動するしかないか。
もしかしたら西暦2025年の俺は死んだのかもしれないが考えても無駄なので、こうなった理由は神の気まぐれくらいに思っておくしかない……。
2階にある自室から出ると、しばらく帰っていなかった実家の雰囲気に懐かしさを感じるが、記憶に残る実家よりも生き生きとしている感じがある。
それから階段を降り、ダイニングキッチンに入る。
「ダイキ、おはよう。朝ごはん、すぐに食べるでしょ?」
「母さん、おはよう。うん、すぐに食べる」
子どもの演技をすることは大変だが、この場を切り抜けるためには必須だ。
記憶の中にある母よりも随分と若いが、これが走馬灯と言うのなら、ここまで再現されるのか疑問で仕方がない。
ふと気になることを母に聞いてみる。。
「姉さんは、もう出掛けたの?」
「そうよ。大樹が起きて来る少し前に塾の夏期講習へ出かけたわね」
「そっか……」
この頃の姉は、中学3年生で受験生だった。
学習塾主催の夏季集中講座へすでに出掛けたようだ。
やはりこの走馬灯は、妙に現実的らしい。
それからトーストとスープ、サラダを用意してもらい、味わいながら頂いた。
母はそれからもキッチンで何かを続けていたが、俺はリビングへ移動する。
「父さん、おはよう」
「おう、大樹、おはよう」
リビングでは、ソファーに座った父が経済をテーマにしたテレビ番組を眺めていた。
今日は日曜日なので父は仕事が休みのようだ。
経済か……。
俺は大学時代から株式投資をやっていた。
経済学部に所属して、ゼミでは近現代の経済史を扱っていたこともあり、この時代の状況も頭の中に入っている。
当然、社会人となっても続けていたので良い副収入となっていた。
今の俺がどんな状態かはわからないが、もしここから現実としての日々が続くのなら何をするにも資金はないよりもあった方が良い。
なにより、株式投資には年齢制限が基本的になかったはずだ。
それならばと、父へ探りを入れてみることにする。
基本的に父は俺に甘いので、何かしらの良い反応を引き出せるかもしれない。
「父さん、最近ネットでやれる株式投資の話をテレビで見たんだけど、どんな感じなんだと思う?」
「ん、大樹。株式投資のことが気になるのか?」
「うーん、子供でもわかるニュースみたいなので株式投資の話を見て、興味は持ったかな」
「そうか……。お金は大切だが、興味を持てるのなら勉強の一環として父さんがお金を出してやるから、少しやってみるか?」
「えっ……、良いの?」
「ああ、良いぞ。だが株式投資は本当に難しい。実際に始める前にしっかり勉強をして、それで学んだことを父さんに教えなさい。それで合格なら大樹の取引口座を作るし、お金も出そう」
「わかった。まずは勉強だね」
「夏休みの勉強もしっかりやるんだぞ」
存外に上手くいってしまった。
とりあえず図書館に株式投資の入門書のような本がいくつかあった記憶があるので、まずはそこから行ってみるか。
それにしても、妙に記憶が鮮明に思い出せるようにもなっているように感じる。
これも神の気まぐれの仕業ならありがたい限りだ。




