5 ノイズ
「……剣聖様……死んじゃったと思って……」
「いや、俺も死んだと思ったんだけどさ」
切り株に腰掛け、ようやく落ち着いたミアに俺はリュックからペットボトルのアップルジュースを差し出す。
「何ですかこれ?」
「ジュース、飲み物だよ。喉乾いたろ? あ、開け方分かんないか」
ふたを開けて、ミアに差し出す。
「……いただきます……」
恐る恐る、という様子で口をつけたミアが、一口ごくりと飲み干すと、目を丸くした。
「何ですか……これ!」
え? そんなに驚く?
「こっちの世界、リンゴないの?」
「いえ……これは……」
ミアがペットボトルを傾けて、ごくごくとすごい勢いで飲み干すと、足下に置いていた杖を拾った。
「術式の使用回数が回復しています! 私、さっき、身を守るために「防御壁」を2回使ったのですが……うっ」
「どうした?!」
ミアがうずくまる。
何だ? やっぱり、別の世界の物は身体に合わないとか?
「お腹痛い……冷たいの一気に飲み過ぎました……」
……まぁ、喉乾いてたんだな。
***
「MP回復薬みたいなもんか」
「何ですかそれ?」
「いや、何でもない。じゃあ次来る時も持って来るわ」
ミアは、主に守護系と治療系、それから探索系の魔法を使えることが分かった。「壊れた者」に襲われた際も、自分の周囲に守護結界を張って攻撃をしのぎ、俺の傷も治療系魔法で回復してくれた、と。
身の回りに結界を張る「守護盾」(ランパル)は持続時間30分で日に5回。
治癒術の「回復」(ルメド)は、手の平程度の範囲を日に2回。
探索術の「探知」(センサー)は、聞いている限りだとおそらく半径1キロ程度の範囲の人間や「壊れた者」の活動反応を補足できて、日に3回。
これがミアの限度で、6時間寝ると回数が全回復するそうな。
それが、リンゴジュース一本で完全回復したので、ミアは小躍りしていた。
「これならもっと遠くまで逃げられますよ! 「探知」しながら、「壊れた者」を避けて、人間を捜して……」
ミアの表情に、明らかに灯った希望の光。
「あ、でも剣聖様がいるなら、逃げなくても大丈夫?」
「俺が死ななきゃ、ね」
どうやら、俺が背中から心臓を貫かれた後、血を流しながら地面に溶けるように消えていったらしい。それから一日、ミアは「探知」(センサー)で「壊れた者」を避けながら、人間の反応を探して夜通し逃げていたらしい。ところどころで「守護盾」(ランパル)の結界を張って、仮眠をとりながら……。
にこやかにしているが、よく見るとかなり眠そうだ。
「俺、空から落ちてきたんだけど、あっちに小屋があった気がする。歩ける?」
「はい! 剣聖様が居れば安心です!」
……剣聖様……。悪くないけど、何かなぁ。
「俺、上月春祈っていう名前だから、剣聖様ってのもぎょうぎょうしいからさ」
「そう……ですか。ではハルキ……様?」
お。
なんかちょっと良いぞ。かわいい子に下の名前で呼ばれるのは、これはなかなか……。
「様はいいよ、呼びづらいだろ」
「え、失礼じゃないですか?」
「全然良いって、何か気を遣われてるみたいだし」
「ええ…? うーん……わ、わかりました……じゃあ、その……ハルキ、とお呼びします」
「うん、それで」
おー、良いぞ、何かやる気出てきたわ。
ふと、視線を感じた気がした。
空を見上げた。
昼間の青い空。
白い三日月が、二つ。
「月が二つあるぞ?」
「月? 二つ? シャグナとヤナムのことですか?」
同じ方向を見たミアが、聞き慣れない単語を発した。
「昼間も見えるんですけど、夜になると光って綺麗ですよ。この星の周りを回っているんです」
へー。
あ、この世界も、星とか宇宙の概念が通じるんだ。
ミアの格好をみる限りファンタジーっぽいけど、案外、文明が進んでるのか?
てか、そう言えば、言葉が通じてるけど、俺、日本語しゃべってるし、ミアも日本語だよな?
☆☆☆
一瞬。
頭の中を、視界を、何か、ノイズのようなものが走ったような気がした。
☆☆☆
「どうかされました?」
「ん? いや、何でもない」
……まぁ、いいか。追々、ミアに教えてもらおう。
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