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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第8話 平和な日常

翌日。

学園2日目は、昨日よりも少しだけ気持ちが軽かった。


朝、教室へ向かう廊下は相変わらずざわついているが、昨日のような強い緊張はなかった。

どこか慣れつつある――というより、ひとりじゃないという安心が僕を支えてくれていた。


「おはようアルス!今日も元気そうだな!」


教室へ入ると、真っ先にカイルが駆け寄ってきた。

この明るさは本当に救いだ。


「おはよ、カイル。そんなに走ると転ぶよ」


「はっはっは、俺は転んでも痛くない鋼の精神力を持ってるからな!」


「それ精神力とは違う気がするけど……」


そんな他愛もないやり取りが、妙に嬉しい。


さらに今日は、カイルの周りに数人のクラスメイトがいた。

昨日より近い距離で、好奇心を隠さない表情をしている。


「ア、アルス様、その……昨日のテスト、本当にすごかったです!」

「光属性なんて、生まれて初めて見ました!」

「えっと、その、仲良くしてくれたら嬉しいです……!」


一気に話しかけられて、思わずたじろいだ。


「え、えっと……そんな畏まらなくていいよ。僕と同い年だし、普通に接してくれた方が嬉しい」


そう言うと、みんなの表情がほっと緩んだ。

同時に胸が温かくなった。

“普通に接してほしい”と心の底から思っていたから。


その空気を破ったのは――


「アルスは優しいな」


いつの間にかすぐそばに来ていたセレナだった。

氷月のような凛とした雰囲気なのに、声だけは穏やかだ。


突然現れた大人気令嬢にクラスメイトたちは大慌てになる。


「ひ、ひゃ、セレナ様!?」

「きょ、今日もお綺麗です……!」

「む、無理です話しかけられないですっ」


パニック寸前になる中、セレナはさらっと言った。


「アルスは私の班の仲間。話しかけるのは当然よ」


班の仲間。

その言葉が自然に出たことに、僕は少しだけ嬉しくなった。


だが、それは僕だけじゃなかったらしい。


「アルス……お前、まじで前世で国を救ったりしてたんじゃね?」


カイルがニヤニヤしながらひじでつつく。


「そ、そんなことあるわけないだろ!」


(あるんだよなあ……前世のことはまだ言えないけど)


そんな賑やかさの中で授業が始まった。


◆ ◆ ◆


1時間目は歴史学。


黒板に映し出された魔導式の文字が、空中に立体的に展開されていく。

教室全体がスクリーンのような魔法空間になっていて、現代と過去を目で見て学べる仕組みらしい。


先生が語る内容は――


「1000年前の《大いなる災》――“死霊王イスターク”の襲来」


その名を聞いた瞬間、背筋が小さく震えた。


(やっぱり……表向きにも当然のように存在してるんだ)


「死霊王イスタークは世界を滅亡させかけた。しかし――

 黄金の光の戦乙女ヴァルキリアによって討たれ、新時代が始まった」


僕の心臓が音を立てて脈打つ。


黄金、光、戦乙女。

思い出せそうで思い出せない記憶の影が脳裏をかすめる。


その時――セレナがこちらを横目で見ていた。

見るとも言えない、ほんの数秒の視線。

その瞳は「知っているのよね?」と問いかけているようだった。


僕は気づかないふりをした。


◆ ◆ ◆


2時間目は魔導基礎。

昨日行われた測定値をもとに、座学と簡易訓練が行われた。


教師の指示で小さな魔法陣が机に浮かび、初級魔法「魔光球」を生成する練習だ。


「まずは魔力を指先に集め、陣の中心へ流し込みなさい。力を入れすぎず、抜きすぎず――」


周囲では光の球がポンポン生まれていく。


僕もやってみると――指先に意識を集中させ、陣に流し込むと……


ぽん、と柔らかい光の球が浮かんだ。


「できた……!」


となりのカイルはというと――


「ぬぉおおおおおおお!!!……おおおおっ!?……出たぁ!!!」


光球はできている。

ただし、叫ばなければ出ないらしい。


「カイル、今の“叫ばないと魔法が作れない体質”ってことでしばらくいじられるよ……」


「はっ!?俺はもう二度と叫ばない!!」


次の瞬間。


「……ぬぉおおおおおおお!!!」


やっぱり叫んでいた。


僕は笑いをこらえたが、なんだかほっとした。

こういう時間が本当に嬉しい。

前世ではなかった“普通の時間”。


ふと視線を感じて横を見ると、セレナも光球を浮かべていた。

彼女の魔光球は淡い蒼色で、小さな月のように揺らめいている。


その球が突然割れて、微量な氷の粒が散った。

氷月属性の影響だろう。


「綺麗だね」


自然と言葉が出た。


セレナは少しだけ目を大きくして、視線をそらしながら小さく呟いた。


「……褒められるの、慣れていないの」


その言葉は、誰にも聞こえないほど小さかった。


◆ ◆ ◆


昼休み。


カイルが机に弁当を広げながら叫んだ。


「じゃあ今日から毎日アルスは俺と昼飯な!決定!!」


「勝手に決めるなよ」


「拒否権はない!!」


「いやあるだろ!?」


そのやり取りにクラスの笑い声が広がる。


数人のクラスメイトが恐る恐る近づいてきて、それぞれの話題で盛り上がり始めた。


「魔光球の練習、俺は全然ダメでさ~」

「ザンは相変わらず訓練狂みたいで昼休みも鍛えてるらしいぞ」

「食堂のプリンがめっちゃ美味いって聞いたんだけど!」


ちょっと騒がしくて、でもすごく温かい時間。


いつの間にか僕の中の“普通になりたい”という願いが満たされていくようだった。


その輪の少し後ろ――セレナがひとりで弁当を食べていた。


避けられているわけじゃない。

ただ、話しかけられない雰囲気。


近づこうかどうか迷っていると、セレナがそっと視線を向けてきた。


――来て、とは言わなかった。

――でも拒絶の目でもなかった。


声にしない会話。

その距離感さえ、不思議と心地よく思えた。


昼休みは笑いの中で終わった。


◆ ◆ ◆


放課後のチャイムが鳴る。


帰り支度をしている時、ふと昨日のことがよぎった。

セレナと中庭で話した時間。


けれど今日は、話しかけるつもりはなかった。

ゆっくりでいい。

この距離感のままでいい。


そう思っていた――のに。


教室を出る時、すれ違いざまにセレナが小さく囁いた。


「今日は、一緒に帰らない?」


心臓が一度跳ねた。


迷いは――あった。

けれど僕は、少し笑って言った。


「うん。……ゆっくりでいいなら」


セレナは嬉しそうでも、照れているようでもない、けれど確かに柔らかい顔で頷いた。


「ゆっくりがいいわ」


こうして、2日目の学園生活が終わった。


特別な出来事はなくていい。

こういう一日が積み重なればいい。


そう思わせてくれる時間だった。

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